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第十三話 オランダを巻き込もう

遠く長崎はオランダ商館にやってきた勝麟太郎、吉田寅次郎、土方歳三、平八の4人。


まずはアメリカ問題について駆け引きが始まります。

吉田さんが、国と国の法と礼儀を聞くと、クルチウスは懇切丁寧に地球の法と礼儀を教えてくれた。


基本としては、国と国の関係はお互い様。

やって貰ったことは、お返しするのが常識で、礼儀。

その辺、この国は常識外れだったってことだね。

本来、日ノ本に来た異国の船に何人乗るかは日ノ本が決められるけど、船に乗ったのと同じ数の人を上陸させるのが礼儀だとか。

つまり、異国の船に臨検で何人も乗っておきながら、誰の上陸も許さなかったのは、かなり無礼だったということだな。


だから、ペリーは幕府の人間を自由に乗船させなかった訳か。

そのくせ、ペリー艦隊の連中は大勢が久里浜に上陸したのだ。

ペリーのやったことは、本当に滅茶苦茶だな。


ただ、この情報は、幕府に絶対伝えておかないとマズそうだ。

異国への視察団派遣を考えていたけど、こっちが視察したら、向こうの視察も同じ規模で許さなきゃ無礼になるということを周知しておかないと、揉め事の原因になりそうだから。


「ところで、親書の受け取りを拒否するということは、宣戦布告に匹敵するような無礼に当たるのでしょうか」


国家間の法を一通り聞き終わった後、吉田さんがクルチウスに確認を取る。


「確かに、無礼ではあるが、それで宣戦布告になるなんて馬鹿なことはねぇって言ってるぜ。

やっぱり、ペリーって奴は、随分な大法螺吹きみてぇだな」


クルチウスが怪訝そうに答えるのを勝さんが訳すと吉田さんが頷き、質問を重ねる。


「それでは、君主が持ってきた親書の内容を遣いの者が変更することは可能でしょうか」


「そいつは状況次第だそうだ。

普通なら、親書の内容を勝手に変更するなんぞ不可能。

そんな勝手な変更を許したら、親書の意味がなくなっちまうからな。

だけど、もし、その遣いの者が君主から全部の権限を任されている存在であるならば、親書の内容をその場で変更することも可能らしい。

こいつは、遠い国との交渉に早い決断が必要な場合に特別に許された権利らしく、その権利を持った人物は君主と同等に扱うことが要求されるらしいな。

ただ、クルチウス殿でさえも、そんな権限は渡されていないと言ってるぜ」


確か、アッシの見た夢だとペリーは全権委任なんか受けていない、

只の使いっ走りだったはずだが、実際はどうなのだろう?

こいつは確認しないといけないな。

そんなことを考えていると、吉田さんは打ち合わせ通り、二つの桐の箱を取り出し、机の上に並べ、その内の一つの中身を確認した上で蓋を開ける。


「こちらが、ペリーの持ってきた親書の写しであります。まずはご覧下さい」


吉田さんがそう言うと、勝さんが吉田さんの言葉を訳しながら、箱からオランダ語版の親書の写しと英語版の写しを取り出し、クルチウスの前に置く。

クルチウスは少しだけ動揺したようにも見えたが、その動揺を隠し、親書の写しを両方確認するよう覗き込む。

さすがは、商館長。英語も読めるということなのだな。

クルチウスが読み終わった様子を確認すると吉田さんが説明する。


「お読みくださいましたでしょうか。

その親書を持ってきたペリー率いる2隻の蒸気船と2隻の帆船は、幕府の役人が、外国の君主の親書は長崎で受け取るのがこの国の法であると告げたにも関わらず、それを無視して江戸湾に居座り、親書を受け取らないのは宣戦布告に相当する無礼な行為であると告げたそうです」


そこまで吉田さんが話すと勝さんが訳す。

その言葉にクルチウスが首を振る。

言葉がわからなくても異人さんは身振り手振りで言いたいことがわかるのがいいな。


「それで、仕方なく幕府が親書を受け取ると伝えると、ペリーは我が国への上陸を強弁。

百人近くが久里浜に上陸し、親書を渡し、来年、また来ると言って去っていったとのことです」


吉田さんがそう説明すると、クルチウスは首を振り、残念そうに話す。


「なんて、野蛮な行為だ。

アメリカ人たちは、植民地で現地の者たちを殺して土地を奪った破落戸ごろつきだって話だって言ってるぜ。

こんな脅しに屈服しないで欲しいとよ」


まあ、そうだろうな。

オランダとしては、横から来たアメリカに交易を奪われたら堪ったものじゃない。

アメリカを悪く言い、交易に反対するのは当然だな。

だけど、オランダだって、植民地を作り、現地の人間を搾取していること、アッシらは、知っているのですぜ。


「そこで、まずは、法の確認をしたいのです。

既に伺ったことですが、親書を受け取らないからと戦争を仕掛けるのはオランダでも、アメリカでも違法行為と断じてよろしいのでありますか」


「明白な違法行為とは言いにくいが、野蛮な行為と非難される行為だってことだ。

おまけに、幕府の指示に従わず、長崎に行かず、親書を押し付けたのは、明確に親愛を示し、幕府の支配を脅かさないと書いた親書の内容にも反するとのことだぜ」


それを聞いて吉田さんが頷く。

実際のところ、それは象山書院で親書の内容を聞いた時からわかっていたことだ。

正直言えば、ペリーは致命的な失策を犯している。

クルチウスは続ける。


「この国の法を守らずに、勝手な言い分を押し付けてきた国と、交易を始めても、そんな国が、この国の法を守るはずがない。

脅迫に屈することなく、アメリカを追い返すべきだと言ってるぜ」


予想通りのクルチウスの発言に勝さんがほくそ笑む。

クルチウスの言う通り、ペリーのした内容を親書に書き、交易を断るだけでペリーは更迭されるだろう。

だけど、今回、完全にペリーを撃退するのは、長期的に見れば失敗との結論に至っている。

あっさり、ペリーを追い返せば、異国など、恐れるに足らずと攘夷派、何もしない保守派が勢いづき、日ノ本の変革への反対を許し、結果、日ノ本を発展するのが遅れる恐れがあるからね。

勝ち過ぎず、連中の存在を利用することが重要なのだよな。


吉田さんはクルチウスの言葉に頷くと、尋ねる。


「なるほど、私たちはアメリカの脅迫に屈せず戦うべきなのかもしれません。

ですが、私たちにアメリカに屈するなという、あなた方は、私たちと共に戦って下さるのでしょうか?

ただ、武器を売り、私たちが戦うのを眺めているだけなのでしょうか」


吉田さんがそう言うと、クルチウスは答える。


「ただ、武器を売るだけじゃなく、この国の航海士を育てる為の優秀な航海士も招集している。

クルチウス殿も、この美しい長崎が野蛮な国の砲火にさらされるのは防ぎたいと仰ってるぜ」


「そのことは感謝致します。

ですが、今、伺っているのは、日ノ本がアメリカ等の異国と戦う羽目になった場合、オランダは、私たちと共に戦ってくれるのか?血を流してくれるのかということです」


吉田さんがそう尋ねるとクルチウスは一瞬、目を伏せてから答える。


「それを約束するのは防衛条約となりますが、オランダと日ノ本そんな約束を結んじゃいねぇ。

また、そんな約束をする権限は、商館長に過ぎないクルチウス殿にはないと言ってるぜ。

まあ、この辺も象山先生の予想通りだな」


そう、アッシらは、本当にオランダと防衛条約を結びたい訳ではない。


夢の中では、オランダは他の国と違って、本物の最新鋭の蒸気船を売ってくれたり、後に海軍大臣になるような優秀な人物を、海軍操練所に送ってくれたりしているのだけどね。

それでも、夢が本当かどうかわからない以上、オランダに、日ノ本の期待に応えられない罪悪感みたいなものを持たせておきたいと象山先生は言うのだ。

そうすれば、期待に応えられない分頑張るだろうから。

本当に、性格悪いよ、あの人。


「なるほど、オランダにはオランダの事情があるのでしょう。

わかりました。

それでは、このアメリカの蛮行を本国にお伝えいただきたい。

そして、私たちは最後の一兵となろうとも脅迫に屈せず、戦い抜く所存であると」


こう吉田さんが言うとクルチウスは気圧けおされる。

ちなみに、吉田さんは完全に本気だからな。

土方さんも一緒に殺気を放っている。

日ノ本の武士は誇り高く、たとえ負けようとも、死兵となって襲い掛かってくる。

その印象をオランダには是非、欧米列強各国に広めて欲しいものだな。

その印象が広まれば広まるほど、日ノ本は安全になるのだから。


「必ず伝えてくれるそうだが、この長崎とオランダ本国との連絡はそう頻繁ではない上に、オランダ本国まで連絡が届くには、さっき言った通り、6か月ほどかかると言っているぜ」


そう、ヨーロッパから、アメリカにこの情報を伝えて貰ってペリーを帰らせるのが幕府の策だったが、これは失敗している。

ヨーロッパは遠いし、アメリカは更に遠いからね。

これに対して、オランダ経由でヨーロッパに評判を広めようと思っていたのが、海舟会の従来の案だったのだけど、6か月では時間が掛かり過ぎる。

そこで、アッシが予定外になるが、思い付きを口にする。


「それでは、オランダ領東インド(現在のインドネシア、オランダ植民地)に連絡することは可能ですか?

あそことなら、オランダ本国以上に、頻繁に連絡しているでしょうし、長崎からの距離も近い。

そこから、アジア全域に、アメリカの蛮行とアッシらの決意を伝えて貰えないでしょうか」


予定外のアッシの発言だったが、吉田さんも大きく頷き、勝さんがクルチウスに伝えるとクルチウスが応える。


「確かに、それならば、オランダに伝えるよりも、圧倒的に早く情報を伝えられるそうだぜ。

うまい事思いついたな、平八つぁん」


吉田さんも頷いて続ける。


「オランダが私たちと共に戦えないまでも私たちの味方をして下さるなら、是非、この情報を広めて頂きたい。それがペリーへの抑止となるでしょう。

正直、多くの日本人は、異人の国の区別などつきません。

アメリカの蛮行も、オランダや他の国とも区別がつかず、アメリカが蛮行を行えば、異人は野蛮だという印象だけを広めることになります。

しかし、オランダが私たちの味方となり、アメリカの蛮行を地球に広めて下さるなら、私たちはオランダへの感謝を忘れることはないでしょう。

あなた方と日ノ本は300年来の付き合いでありますから」


こうやって、ペリーの脅迫行為がオランダ植民地経由で上海やインドに伝われば、その情報はイギリスを通じて、世界中に知られることになるだろう。

そうすれば、ペリーから攻撃はしづらくなると考えたのだけど。

果たして、思い通りにいってくれるのかどうか。


勝さんが訳し終えると、クルチウスが応える。


「もちろん、オランダは、おいらたちの仲間だってよ。

この美しい国を野蛮人から守る為、出来る限りのことをして下さるそうだぜ。

いやあ、おいら達の目的は、アメリカとの交易を断ることじゃねぇんで、

騙しているみたいで申し訳ねぇけどな。

まあ、オランダには、オランダの目的があるんだろうから、その辺はお互い様ってことかな」


勝さんは笑いながら話すが、

吉田さんは、それでも仲間だと言ってくれたのが嬉しかったのか、感謝しますと頭を下げる。

本当に至誠の人だねぇ。


まあ、今のこの国には異国に繋がる窓はオランダしか存在しない。

だから、もう少し巻き込み、協力して貰わないとね。


じゃあ、次はロシアとの領土問題に協力して貰うことにしようか。

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