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第十一話 進捗状況とこれからの予定

攘夷派に狙われる恐れがあるから、正しいと思うなら自分で実行しろと長崎行きを命じてくる幕府。


それに対して、命を掛けさせるなら腹を割れと


ペリーの親書の中身の公開

建白書の進捗状況の報告

樺太地図の提供を求める海舟会。


そして、大久保との二度目の会談が始まる。



長崎行きに注文を付けると、暫く阿部様は検討するだろうと思いきや、すぐに大久保様が面談を求めてくる。


大久保様によると、

アッシの夢通りに長崎にロシアが来たという報告を受けたことが原因な訳ではなく、阿部様の最初からの計画だったとか。

まあ、確かに、こんなに早い対応だと信じざるを得ないよね。


今回、招集されたのは、実際に長崎に行く人員に象山先生を加えた合計5人だけ。

長崎行きは、条件を付けたものの、実は皆、行く気満々だったのだけどね。

話し合いの結果、オランダ語を話せるという理由で勝さん、断ったら密航してでも付いてきそうな情熱の人、吉田さん、武士でないけど腕が立つので護衛役という名目で土方さん、そして最後にアッシが行くことになった。

龍馬さんは最後まで行きたがってダダを捏ねていたのだけれどね。


龍馬さんには、他に、お願いすることがあるかもしれないと、何とか説得して、今回はこの5人で大久保様と会うことになる。

龍馬さんも、勝手についてきそうだから、何か本当に頼めることを見つけないといけないかもしれないな。


だけど、人数を絞るということは、つまり、ここでの話、長崎での話は他言無用ということなのだろうね。


まあ、海舟会は協力しあうという約束をしているから、会の中では情報共有しちゃうけどね。

一部だけ知っていて、一部が知らないとか、組織分裂の切掛けを作るつもりはアッシらにはございませんから。


大久保様は、象山書院に到着し、座るや否や、阿部様が象山先生の言った長崎行きの条件を全て飲んだと告げ、持ってきた荷物の中から、桐の箱を2つ取り出し、その内の一つを象山先生に渡す。


「まず、これがアメリカからの親書である。内容をあらためるが良い」

桐の箱から取り出された3枚の紙に象山先生は目を通すと、英語っぽい文書を自分の前に置き、オランダ語らしい文書を勝さん、漢語で書かれた文書を吉田さんに渡し、読み始める。

そうか、公文書だと漢文になるのか。

これは、アッシには何が書いてあるかわからねぇぞ。

土方さんは読めるのかな?読めたら、ちょっと悔しいな。

なんて考えていると、象山先生がすぐに顔を上げ、次にオランダ語、最後に漢語の文章にも目を通す。

え?もう、読み終わったの?と思っていると象山先生が大久保さんに応える。


「どうやら、訳に間違いはないようですな」

象山先生、そんな上から目線、幕府のお役人に言う台詞ではないですから。

確か、この親書って、英語とそれをオランダ語に訳したものをペリーが持って来て、オランダ語版を幕府が訳したのだっけ?

いずれにせよ、アッシが読めないのではいる意味がないのだよな。


「あの、象山先生、アッシには、とんと読めませんので、内容を教えて頂けるとありがたいのですが」


「おお、そうか、読めぬか。勝君、吉田君、君らは読み終わったかね」


「ええ、まあ、何とか」


「はい。大丈夫であります」


「それでは、本来なら、君らに読ませ、理解度を確認するところなのだが、大久保様もお忙しい方だろうし、聞くことは他にも沢山あることだからな。

特別に、僕が内容を説明してやることにしよう」

そう言うと象山先生は、説明を始める。


「この親書の提要は3つだ。

まず、ペリーが軍艦で江戸まで来たのはアメリカ君主の命であり、親愛を示す為に来たのであって、ペリーには幕府の支配を脅かす如何なる行為も禁じていること。

次に、黒船が来た理由だな。これが二つ。

一つ、アメリカは日ノ本との交易を求めてきたということ。

試しに5年、10年の限定でも良いからアメリカと交易をしてみないかなどと書いているぞ。

試してみて、気に入らなければやめてもいいともな。

それから、アメリカから、この国まで18日で来られるとも書いてある。

最後に、捕鯨の為に、この国で、石炭、食料、水を提供して欲しいと書いてある。

内容は、大体、こんなところだ」

象山先生が説明すると、勝さんと吉田さんが顔を上げて尋ねる。


「やっぱり、そうですかい。オイラにも、そう読めたんですが、間違いじゃなかったんだな」

勝さんが首を傾げながら呟く。


「私の方にも、そう書いてありました。

ですが、こんなの大嘘ではないですか。

幕府の支配を脅かすことをしないと言いつつ、幕府の命を無視して長崎に行かず江戸湾に居座り、親書を受け取らないと攻撃すると脅迫したのでしょ。

全く、信じるに値しない文書であります!」

吉田さんが激高すると、象山先生が冷静に答える。


「つまり、平八君の話通り、ペリーとやらがアメリカ君主の命に背いて、勝手なことをしてきたという良い証拠となるのではないかな。

大久保様、この文書、オランダ商館長にも見せて、ペリーの行動が法的にどういうものであったかを確認させても宜しいでしょうか?」


「うむ、そうしてくれ」


「ありがとうございます。これで、黒船との交渉は大分、楽になることでしょう」

象山先生が獲物を見つけた肉食獣みたいな顔で笑う。


しかし、親書の内容って、こんなものだったのだな。

夢の中だと、これで日米和親条約まで結んでしまったってのに。

余程、黒船の存在に脅威を感じたのか。

もともと、交易再開するつもりだったところ、外圧を利用して交易再開を実現したのか。

実際のところ、どうだったのかねぇ。


「次に、僕らの建白書の何を採用し、誰が協力しているのかを教えて頂きたい」

象山先生が偉そうに聞くと、

もう慣れてきたのか驚くこともせずに大久保様が淡々と告げる。


「まず、阿部様は建白書を全面的に採用され、現在、根回しを進めている最中だ。

水戸藩からは異国を日ノ本から追い払う為、異国に水戸のご老公ご本人が行き、もうこの国に来るなと言いに行く方向で話を進めておるし、彦根藩主井伊様も、他の藩が異国と結びつかないようにする為、

ご自分が異国に行くとおっしゃっているそうだ」


「ほえー、たった一月でそこまで。阿部様はスゲーお人だねぇ」


「阿部様に言わせると平八の申す、落としどころが全て当たっている為、誘導が驚くほど、簡単だったとおっしゃっておったぞ」


いや、それでも、落としどころを知っていたって、この短期間で、そこまで進められるのは、やっぱり普通ではないでしょ。

さすがは、老中首座阿部正弘様ってところだね。


「それから、北蝦夷(樺太)防衛の為に水戸藩が兵を出すことが決まったぞ。

もともと、蝦夷開発を何度も幕府に上申していた水戸藩であるからな。

攘夷の為の北蝦夷(樺太)派兵と聞いて、随分盛り上がっているそうだよ」


「それは良いですな。

ついでに、攘夷を叫ぶなら、国境に行って、国を守れと言ってやればいい。

水戸に残るような者は臆病者だとでも。

そうすれば、攘夷を叫ぶ馬鹿な水戸藩士は残らず、国境に追放出来る」


いや、象山先生、そうかもしれないけど、

本人達は国を守ろうという純粋な気持ちから辺境まで行ってくれるのですから。

せめて、馬鹿とかは言わないでおいてあげた方が良いのじゃないですかね。


「それから、小笠原諸島には、平八によると既に異人が開拓民として住み着いているそうだから、江川英龍、アメリカ帰りの土佐漁師中浜万次郎らを小笠原諸島に派遣し、異人たちに小笠原諸島が日ノ本であると認めるよう説得させることとした」


「お待ちください。

平八君、小笠原諸島に異人が住んでいる等という話を僕は聞いていないのだが」


「あれ?申し上げておりませんでしたか?

江川先生が小笠原諸島に行きたいとおっしゃった時に、お伝えしたのでしたかな?」


「ズルいではないか。僕は聞いてないぞ。

細かい情報でも聞き漏らすと、全体の戦略に大きな修正を加えねばならない場合がある。

君の知っていることは、何でも僕に伝えて貰えないと困るぞ」


いや、ちょっと言い忘れただけじゃないですか。

絶対、そんな重大事じゃないでしょ。

もう、本当に大きなワガママ天才児だな、この人。


「まあまあ、平八の夢のことなら、江川殿が平八から聞いて、書き記した書がある。

それを見れば、江川殿が聞いたことは全部わかるから、今度持ってくる。

それで勘弁してやって貰えないだろうか」


「なるほど、そのようなものがあるのですね。取り乱して失礼致しました」


情報が手に入るとなると、急にすまし顔になるのは、現金というかなんというか。

だけど、気になることもある。


「大久保様、その小笠原諸島行きはいつ頃になさるご予定なのですか?

北蝦夷(樺太)行きは寒くなる前に行かねば行った者が凍死する恐れがございます。

また、小笠原諸島行きが遅くなれば、江川先生、中浜様が戻ってくるのが、ペリーの再来に間に合わない危険がございます」


「大丈夫だ。中浜を江戸に呼び寄せるのは、本来、もっとゆっくりだったはずなのだがな。

平八の書により、早く呼び、信用出来ることを証明させた方がいいとの声があって。

江川殿は、水戸藩士数名も中浜と一緒に小笠原諸島まで連れて行き、中浜の有用性を確認させ、ペリーとの会見に中浜が参加するのを水戸藩に認めさせようという意向で動いているらしい。

だから、中浜は間もなく江戸に到着することになっておる」


確か、アッシの見た夢だと、中浜万次郎の幕府登用は11月頃。

水戸様の反対もあり、幕府はジョン万次郎の通訳なしで、無茶な交渉に臨むのだったよな。

果たして、その歴史、変えられるのか、どうか。


「なるほど、それならば、中浜様がペリーとの会見に遅れる心配はございませんな」


「そうだ。

それから、最後に、幕府は異人と戦う場合の指揮系統を一橋慶喜公の基に統一する方向で話を進めておる。

今のところ、賛成は水戸藩と薩摩藩、それに彦根藩だ」


「そんなことが本当に進んでるんですかい?」


「ああ、一橋慶喜公を立てれば水戸藩は喜んで協力してくれる。

島津様も、平八の書を読み、薩摩藩の軍拡は諦め、軍を提供すると言ってきている。

そして、彦根藩の井伊様は、各藩の軍備を削る為ならと、統一軍の創設に前向きとのことだ」


思ったよりも話が進んでいるな。

何も突発事故が起きなければ、うまく行くかもしれない。

だけど、歴史というものが決まっているものだとすると、揺り返しが起こるのだろう。

油断は禁物なのだろうなぁ。


「承りました。

阿部様は思っていた以上に、僕らの建白書を理解し、実行しておられるようだ。

少々安心致しました」


象山先生がそう言うと大久保様は苦笑して、最後の桐箱を渡す。


「そして、これが最後の北蝦夷(樺太)の地図だ。

水戸藩が北蝦夷(樺太)に行く以上、樺太でロシアとのいくさが起きた場合、万が一にでも、この地図がオランダに渡ったことが知られれば、地図を渡した其方らは、売国奴扱いされる恐れも高い。

それでも、この地図をオランダに渡すので良いのだな」


「まあ、状況は確認しますがね。

平八つぁんの言う通り、北蝦夷(樺太)が先に見つけたもんのものになるってなら、オランダに北蝦夷(樺太)はオイラ達のもんだって伝えておいた方が良いでしょ」


「そうです。私たちは死など恐れません。やるべきことがあるなら、実現するべきです」


勝さんと吉田さんが威勢のいいことを言うと、土方さんがニヤリと笑う。

もう命知らずだなぁ。


アッシは、たいして惜しい命でもないけど、今は、まだ、あんまり死にたくはなくなってきていますよ。


何にもねぇ人生だったけど、あの夢を見てからのこの一月。

熱い情熱を持った連中の中にアッシがいて、アッシなんぞの言うことを熱心に聞いて、皆が頑張っている。

そんなのを見せられるとね、この海舟会と皆の行く末がどうなるのか、気になり始めているのですよ。

もう少し死なねぇで見てぇと思っちまうのですよ。

この国の未来って奴をね。


そして、それから三日後、平八達は幕府の御用船に乗り、長崎に向かうこととなる。

応援ありがとうございます。


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次の更新は水曜日の予定です。

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