第二十話 龍馬の策謀
今回で丁度200話目になります。
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ヨーロッパでの無差別商船破壊攻撃が続く中、日本の仲介で、大英帝国とプロシア王国が手を結びます。
そんな中、リンカーン大統領による合衆国有色軍の創設と南部攻撃命令がユニオン砦の原住民部族連合に届きます。
今回は、そんな中のお話です。
「喜びたまえ。
我がアメリカ合衆国は、君たちの権利を認め、アメリカ陸軍への編入を認めることにした。
君たちがアメリカ合衆国に忠誠を誓う限りは、我々も君たちの権利を認めよう」
リンカーン大統領からの指令書を受け取ると、アメリカ中西部防衛司令官キャンビー大佐は誇らしげに告げる。
これに対し、馬のたてがみを持つ男こと、坂本龍馬は平然と応える。
「それは、ありがたいことだが、条件は確認させて頂きたい。
アメリカ陸軍に編入するという事だが、その場合、アメリカ陸軍は彼ら大地の子らを全員を分散して、別の部隊に配置するということなのか。
それとも一軍として部族ごと、アメリカ陸軍に導入するということなのか。
まず、部族を分散するというならば、それは受け入れられない。
彼らは集団でいるからこそ、あなた方に要求が可能なのだ。
分散され、摺りつぶされる様な危険は冒せない」
龍馬が佐久間象山から受けた指示はアメリカの分裂である。
その為に、龍馬はアメリカ原住民と数年親しく過ごして来たのだ。
だが、理や利よりも、己の感性で動き、簡単に立場を豹変させるのが龍馬と言う男。
アメリカを分裂させるという本来の目的以上に、アメリカ原住民たちを好きになり、また彼らに好かれる様になっていた。
だから、龍馬は、日本の為というよりは、アメリカ原住民の為にも、彼らが不利になる様な取り扱いは受け入れられないのだ。
この発言に対し、アメリカ原住民に対し敵対心を持つジョン・チヴィントン少佐が反発する。
「我がアメリカ合衆国が、お前たちの要求を飲み、アメリカ陸軍への編入を認めてやろうと言うのだ。
それに対し、条件を確認するとは何事だ!」
「彼らが、あなた方に協力するのは、あくまでも、あなた方が奴隷解放宣言を守り、アメリカ合衆国が彼らにも白人と同じ権利を認めるという条件を守る場合だけだ。
今までの様な差別的待遇を受ける為に、協力する訳ではない」
龍馬は土佐藩の出身である。
土佐藩と言うのは、関ケ原の合戦で勝った山内一族率いる上士が、関ケ原に負けた長宗我部一族の旧臣である郷士を差別し、支配するという特殊な藩であった。
そして、龍馬は差別される郷士の出身。
龍馬は仲間である原住民たちに、土佐郷士の様な差別的待遇を受けさせたくはなかった。
だから、龍馬は確認するのだ。
「白人が義勇兵として参加した場合、どんな規模の義勇兵を率いようと、その義勇兵の軍団は解散させられるのか?
それとも、軍団は維持されるのか?」
龍馬の質問に自分の義勇兵を率いて参加しているキット・カーソンが応える。
「それは状況によると思う。
義勇兵の繋がりが強く、指揮系統がしっかりしているのならば、軍団が維持されることもあり得るだろう。
逆に、指揮系統がしっかりしないと判断されれば、軍団は解散させられ、現存の部隊に分散、配属されることだろう」
「それならば、問題はない。
我らは団結している。
それに、そもそも、あなた方に彼らの言葉を解る者は少ない。
そして、彼らの中にも、あなた方の言葉を解らない者もいる。
彼らを分散配置すれば、軍に混乱を齎すだけだ。
彼らを軍団として編入して頂いた方が良いだろう」
龍馬は平然と応えるが、実は大嘘である。
アメリカ原住民たちの統治機構は、酋長が全権を持ち、部族を支配する首長制などではない。
酋長は交渉の矢面に立つ調停者に過ぎない。
だから、交渉の結果に納得出来なければ、個人として逆らうことも自由なのだ。
そういう意味では、君主制や首長制よりも民主的と言えるのかもしれない。
それ故、酋長との交渉で全てが決まったと考える白人との間に混乱が起きたのではあるが。
そして、そんな状況であるから、今回、龍馬が交渉してきたとしても、納得しない者は従わない可能性は存在するだろう。
だが、そんな事を教えたところで、原住民に利はない。
それ故、龍馬は堂々と大嘘を述べるのである。
龍馬の言葉にキャンビー大佐は応える。
「ならば、軍団を維持し、我らの指示に従って貰おう。
今回のワシントンからの指示にアメリカ原住民を解散させろという指示はない」
キャンビー大佐の言葉に対し、龍馬が尋ねる。
「それでは、我らの立場はどうなるのだ?」
「君たちは、私の指揮下の有色人種部隊という扱いとなる。
その上で、クレイグ砦の奪還作戦に向かって貰いたい」
キャンビー大佐の言葉を聞いて、龍馬は尋ねる。
「私は、我らの立場を尋ねたのだが。
質問の意図が伝わらなかったようだな。
では、質問を変えよう。
あなた方の軍に編入された場合、軍の中での、彼らの階級はどうなるのだ?
あなたは、大佐だと言う。
大佐に数万の軍勢を率いる権限が与えられているのか?
数万の軍勢を率いる私の軍における階級はどうなるのか?
平等な取り扱いであるというなら、あなたよりも、多くの軍勢を率いる私の階級は、あなたを上回るべきではないのか」
「ふざけるな!
お前などを将官に出来るはずはないだろう」
チヴィントン少佐が激高するのをキャンビー大佐が宥めて続ける。
「確かに、軍の規模だけを考えれば、君に将官の地位を与えることも考えられるだろう。
だが、君たちには従軍経験もなければ、軍事知識もないのではないか。
その様な者に、将官の地位を与えること出来ない」
その言葉に龍馬は頷き応える。
「彼らには、あなた方の迫害に耐え、戦い続けたという歴史がある。
だから、従軍経験がないというのは納得しかねるのだが」
「その戦いは負け続けではないか」
チヴィントン少佐が揶揄するのに対し、龍馬は苦笑して応える。
「それは、単純に装備と数の問題だ。
戦士としての能力や指揮能力が欠けていた訳ではない。
君たちが、戦士でもない女子どもに多数で襲い掛かった為に、彼らに被害が出続けたのだ。
だが、今回、その数と装備の問題は既に解消されている。
その証拠に、あなた方を窮地に陥れていたアメリカ連合国の軍を我々は撤退させたではないか」
龍馬がそう言うと、チヴィントン少佐が悔し気に睨みつける。
「ただし、その様な懸念があること、そして彼の様にこの大地に生まれた子らに反発心を持つ白人がいることは理解しよう。
ならば、せめて、同盟軍として、あなたと同じ権限を要求したい。
そして、理不尽な命令には拒否する権限も与えて欲しいとワシントン政府に伝えて貰いたい」
龍馬がそう続けると、キャンビー大佐が慌てて確認する。
「同盟軍としての権利?
あなたは、アメリカ陸軍への編入を拒否すると言うのか?」
「アメリカ陸軍への編入は有難い提案だ。
だが、白人の中には、彼の様に彼らに敵対心を持つ者がいることも確実だろう。
そして、軍隊に編入されれば、上官の命令は絶対なのも理解している。
そんな中で、彼らの立場が悪くなる様な命令を出されては溜まらない。
だから、アメリカ軍への編入ではなく、同盟軍としての地位を認めて貰いたいのだ」
「君たちの立場が悪くなる?
どういう意味だ」
「単純に言えば、彼らは白人を攻撃するべきではないと私は考えている。
確かに、彼らが、アメリカ連合国を攻めれば、アメリカ合衆国は有利になるだろう。
あるいは、両面作戦で、東西から攻めれば、只でも数が少ないアメリカ連合国が窮地に陥ることもあるかもしれない。
だが、その結果、彼らの立場はどうなる?
只でも、彼ら、この大地に生まれた者の末裔は、白人たちに野蛮で未開な種族だと蔑まれている。
その様な者達が軍とは言え、多数の白人を殺したら。
アメリカ合衆国を再統一出来たとしても、彼らは危険な野蛮人という意識が浸透するのではないか?
その様な状況では、彼らの権利を認めることも難しいだろう」
龍馬の言葉にキャンビー大佐は頷かざるを得ない。
実際に、チヴィントン少佐の様にアメリカ原住民に対する敵対心を持つアメリカ人は多い。
噂では、リンカーン大統領もアメリカ原住民嫌いだと聞いたことがある。
そんな中で、アメリカ原住民が多くの白人を殺して回ったら。
その後のアメリカ原住民の立場が悪くなることは防げないだろう。
そんな中、龍馬は続ける。
「だから、彼らと私は君たちを守ろうと提案している。
サンタフェやユニオン砦を守った様に、敵の襲撃があった場合に撃退することを約束しよう。
もし、どうしても敵を攻めたいと言うのなら、君たちが全力で攻めれば良い。
後方の砦の防衛は彼らに任せてくれ。
それでも、十分にアメリカ合衆国に貢献することになるだろう。
この提案を改めて、ワシントンに伝えては貰えないだろうか」
「そうやって、後方の安全なところに隠れて、何が貢献だ」
チヴィントン少佐が言うと龍馬が肩を竦める。
「彼らから白人を攻めないと言っているのだ。
君たちが攻めるのを止めれば、彼らは常に戦場の最前線にいることとなる。
それでは不足か」
龍馬の言葉にチヴィントン少佐は唸る。
キャンビー大佐は、このやり取りを見て、アメリカ原住民を未開の蛮族と見下すことは出来ないと考え始める。
ワシントンは、原住民たちを利用し、摺りつぶそうと考えているようだ。
あるいは、目の前の蛮族が言うように、利用して、最後は野蛮人として斬り捨てることを考えているのかもしれない。
だが、目の前の男は、そんな簡単に利用出来る相手ではないことをキャンビー大佐は確信しつつあった。
こうして、原住民部族連合の要求は再び、ワシントンへと送られることとなる。
そして、その頃、龍馬の次の一手が、アメリカ連合国に迫ろうとしていた。
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その頃、南軍、アメリカ連合国は沸騰していた。
アメリカ原住民部族連合によるアメリカ西部防衛宣言とそれに続くアメリカ合衆国による合衆国有色軍の創設宣言。
その二つの動きがアメリカ連合国の不安を爆発させたのだ。
もともと、アメリカ合衆国は工業的にもアメリカ連合国よりも発展し、人口も、戦力も倍近くある。
その不利を大英帝国の参戦が低減させてくれていたのに。
それが、フランス、ロシアの大英帝国に対する宣戦布告で大英帝国のこれ以上の援助が期待出来なくなったところに、リンカーンは奴隷の黒人や野蛮人のアメリカ原住民まで、兵として利用するのだと言う。
大英帝国のワシントン攻撃により、ワシントン陥落は難しくない状況になりつつある。
だが、そんな時に、西から数万の原住民の襲撃があったら。
ワシントン攻略に全力を尽くすか、西部への守りに兵を割くかで意見が分かれていたのだ。
そんな中、龍馬の指示で使者として、アメリカ連合国首都リッチモンドを訪れた者がいる。
陸奥陽之助(宗光)18歳。
日本商社サンフランシスコ勤務として渡米して約5年。
平八の見た世界線では、後にあまりの切れ味にカミソリとあだ名された男である。
アメリカ連合国の動きが決まるまで書こうと思っていたのですが、長くなりそうなので、今回はここまで。
次回はアメリカ連合国の対策の話となります。
お楽しみに。
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