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第十九話 秘密協定

アメリカ原住民部族連合によるアメリカ西部防衛宣言がなされ、世界中の植民地の独立運動が活性化します。


そんな中、日本の岩倉具視の仲介の下、大英帝国ディズレーリとプロシア王国宰相ビスマルクの秘密会談が行われます。

大英帝国とプロシア王国の秘密交渉がいつ始まったのか、その記録は残っていない。


これは、秘密交渉である為、その記録が残されなかった為に起きた事態である。

ただ、恐らく、フランス、ロシアが大英帝国に宣戦布告した頃に、日本を経由して、プロシア王国との接触があったのだと後世において推測されている。

この頃から、日本商船がプロシア王国から大英帝国への輸出を始めていたのであるが、その中にプロシア王国の交渉担当者が紛れ込んでいたと考えられているのである。

この当時、プロシア王国は、デンマーク、オーストリア帝国とドイツ北部統一の為の戦争の真っ最中。

その中で、次の手を考えていたのは、鉄血宰相ビスマルクの面目躍如と言っても良いだろう。


鉄血宰相ビスマルク。

彼は平八の見た夢の中でも、デンマーク、オーストリア、フランスなどに囲まれながら、小国プロイセンを率い、ドイツ再統一を成し遂げた英雄と呼んでも良い男の一人である。

大久保遣欧使節団で、ビスマルクとの対面を果たした日本人達は感銘を受けたという。

ビスマルクの有能ぶりに、大久保利通は彼を大先生と呼んで尊敬し、岩倉具視も彼の様な宰相を志したと言われている。

「賢者は歴史に学び、愚者は己の経験からしか学ばない」との言葉を残したとも言われている。

ただ、こちらの世界では、まだビスマルクはドイツ統一戦争の進行中である為、岩倉具視もビスマルクを同格の有能な人物と看做しているに過ぎないのであるが。


平八の夢の情報から、プロイセンの躍進の情報を掴んでいた日本の欧州滞在組は、早い時期からプロイセンに接近していた。

近藤勇、土方歳三、高杉晋作、武市半平太らは、プロイセン躍進の軍事的立役者、モルトケに接近して学び、吉田寅次郎、岩倉具視らはビスマルクに接近し、彼の政治的手腕を学び取ろうとしていた。

そして、大戦が始まると、日本は、裏でプロイセン王国と大英帝国の仲を取り持とうと動き出していたのである。


こうして、大英帝国ディズレーリとプロイセン王国の交渉は秘密裏に何度も行われていた。

秘密交渉であるから、当然のことながら、会談内容の細かい記録は残っていない。

全て口頭で行われ、内容をすり合わせ、合意の目途が付いたところで、最後の確認の為に、ビスマルクがロンドンまで赴いたのである。

時に、1862年夏のことであった。


ビスマルクは身長190㎝の巨漢である。

その上で大酒飲みで、大食漢でもあった為、何故、軍人にならなかったと言われるような人物でもあった。

ディズレーリは、そんな迫力のある巨人をにこやかに迎え入れ、席を勧め、挨拶を済ませると、当時のヨーロッパの外交用語であったフランス語で三者会談を開始する。


「まずは、デンマークとオーストリア帝国との戦いに勝利したことにお祝いを申し上げます。

たった、一年で、デンマーク、オーストリアを次々と破り、北ドイツ統一を成し遂げた手腕、実に見事なものですな」


これに対し、ビスマルクもにこやかに応える。


「いえいえ、あれはモルトケ将軍の手腕によるもの。

私が誇れるようなものではありません」


「しかし、そのモルトケ将軍の躍進は、ビスマルク閣下の軍事改革があってのもの。

そして、開戦のタイミングもビスマルク閣下の判断によるもの。

お見事としか申し上げようがありませんよ」


ディズレーリは、暗にロシアが大英帝国と戦っている隙を突いて、デンマーク、オーストリアと戦うことを決めたビスマルクを揶揄すると、ビスマルクは苦笑する。


「いえいえ、プロシア王国の軍事改革は、ただクリミア戦争勝利によるロシア帝国の圧力を恐れてのものに過ぎません。

今回の戦いも、結果として勝てただけであり、好んで戦いたい訳ではありませんよ」


ビスマルクの言葉にディズレーリは意外そうに尋ねる。


「戦いたくない?

それにも関わらず、今回の申し出は?」


ビスマルクは残念そうに応える。


「私が望むのは祖国の統一。

我が祖国は残念ながら、統一を失い小国へと分裂しております。

これを再統一するには、話し合いでは不可能です。

力によって再統一するしかありません。

ですが、私は戦争を好むわけではないのです。

今回の申し出は、フランスが祖国統一の障害となるからに他なりません」


これは事実である。

平八の見た世界線において、ビスマルクはドイツ統一の為、三度の戦争を戦った。

だが、ドイツ統一を成し遂げた後は、植民地獲得を目指すこともなく、ドイツに復讐しそうなフランスを孤立させ、欧州の平和を保ったのがビスマルクなのである。

植民地獲得に興味がなく、富国強兵に熱心なビスマルク。

それこそが、岩倉具視がビスマルクに協力している理由でもあった。


「だから、フランスを叩いてくれると言うことですか」


「はい。

とは言え、こちらから侵略したという形はとりたくありません。

あくまで、フランスからの侵略に対し、やむを得ず対抗したという形としたいのです。

フランスからの侵略があれば、南部の友邦を仲間として、まとめあげ戦うことは容易でしょうからな。

ですから、まずは、フランスの海賊行為によって、我が国の商船に被害が出たので、海賊行為を止めるようにと抗議することから始めます。

ですが、無差別商船攻撃が大英帝国艦隊に対抗する唯一の戦術であるフランスが、この申し出を飲めるはずもありません。

当然、要求する賠償金も、フランスが飲めるはずもない金額にするつもりではありますが」


ビスマルクの言葉に今度はディズレーリが苦笑する。


「その様な要求をされ、あのナポレオン三世が我慢出来るかどうか」


ビスマルクは頷いて応える。


「今、フランスは国の命運を賭けた戦争の最中。

新たに戦場を拡大することなど、常識的に考えても不可能です。

だが、国民の声に流されるだけのナポレオン三世ならば、私の挑発に乗って来る可能性は高いかと」


「だが、挑発に乗って来ない場合は、どうされる?」


「まあ、当然、挑発の手は一手だけではありません。

フランス軍の現場指揮官の暴走でも構いません。

何しろ、今度の戦争で、フランスの陸軍には活躍の場がない状況ですからな。

私の挑発をチャンスと考える愚か者もいることでしょう」


ビスマルクが凄みのある笑みを浮かべると、ディズレーリと岩倉は苦笑し、この怪物が敵でないことを心から感謝する。


「フランスからの侵略があれば、そこからプロシア軍が動き出すということですかな」


ディズレーリの言葉にビスマルクは頷いて応える。


「その通りです。

その上で、フランス北大西洋岸の海賊の根拠地を壊滅させてみせましょう。

ですから、大英帝国には、その際の援護、補給をお願いしたいのです」


現在、大英帝国は植民地各地の独立運動とフランス・ロシアの無差別通商破壊で、かなりの被害を被っている状況だ。

そこで、フランス・ロシアの無差別商船破壊攻撃を阻止する為に、沿岸都市を攻撃しているのだが、フランス沿岸を征服する陸軍力が足りないのだ。

その点、ビスマルクの提案は非常に有難いものではあるのだが。


「プロシアによる海賊の撲滅は我々も望むところ。

可能な限りの協力はさせて貰いたい。

だが、以前から申し上げている通り、約束出来るのは私の権限のある間のみです。

他国と同盟を結ぶことを良く思わない勢力が議会にはあり、表立って同盟を組むことも困難なのです。

そこは、ご了承頂きたい」


その言葉にビスマルクは理解を示し頷く。

ビスマルクもまた、議会で選出され、権力を握った人間。

議会工作の難しさはよく理解出来る。

これに対し、議会のない岩倉具視は正直、良く解らない。

やるべきことをしているのに、反対する議会の勢力というのが今一つ理解出来ないのだ。

だが、とりあえず、ディズレーリとビスマルクとの約束を維持する為に、協力を続けてやらなければならないようだ。

そこで岩倉が発言し、西周がフランス語に通訳する。


「では、我ら日ノ本との約束も、お二人が権力を握っている間だけのこと、ということですな」


岩倉の発言にディズレーリが応える。


「今回の日本の仲介には、心より感謝します。

日本の仲介がなければ、今回のプロシアとの協定が成り立つことはなかったでしょう。

だが、私が権限を失った後のことまで、保証することは難しいのです」


「その為に、ディズレーリ閣下の権力維持の協力をしろと仰せか。

だが、ロシア対策は大英帝国にとっても、重要であるはず。

今回の戦いでフランスが被害を受けたとしても、ロシアはほぼ無傷。

その勢力は更に拡大する可能性があります。

場合によれば、グラッドストン卿にも、私から話をしますが」


岩倉がそう言うと、ディズレーリは苦笑して応える。


「話して頂くことは構いません。

だが、あの頭の固いグラッドストン殿が何処まで理解するか。

ただ、こちらの秘密協定の件は、内密にしておいて下さい。

議会に秘密で協定を結んだことが知られれば、それだけでスキャンダルに発展しかねませんからな」


岩倉が頷くと、ビスマルクも応える。


「私も権限のある限りではありますが、対ロシア防衛を約束しましょう。

もともと、私の目的は祖国の統一と防衛。

今回の戦いに勝てば、フランスは大きく、その国力を失うでしょう。

その上で、大英帝国とは友好関係が成り立ちます。

となれば、我が国の安全を脅かすのは、ロシア帝国のみ。

そういう意味では、大英帝国、日本との対ロシア防衛協定は、非常に都合が良いことですからな。

おそらくは、私が権限を失っても、この方針が変更されることはないでしょう」


こうして、日本、大英帝国、プロシア王国(ドイツ帝国)との間に秘密協定が結ばれることとなる。

この協定が、更に世界を動かすこととなるのである。


*****************


そして、同じ頃、ユニオン砦の原住民部族連合のところに、リンカーン大統領よりの南部攻撃命令が届く。


アメリカ大陸は、新たな局面を迎えようとしていた。

大英帝国とプロシアは協力関係となり、動き出しました。

そんな中、対ロシア防衛協定を結ぶ日本。

この動きがどんな影響を世界に及ぼすのか。


次回はアメリカ大陸に話が戻ります。

お楽しみに。


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