第十七話 ポサドニック号対策会議
目標としていた2万ポイント突破ありがとうございます。
これからも完結目指して頑張っていきます。
世界初の甲鉄艦(装甲船)が完成し、アメリカ南北戦争に対する仕込みを佐久間象山らが密かに完成させます。
そんな中、ロシアのポサドニック号が対馬に来て問題が起きたとの知らせが入り、象山書院で裏閣議が開催されることになります。
ポサドニック号事件の話は、江戸では、国防軍の大久保一蔵様が最初に入手されたと聞いております。
筆頭老中であった阿部正弘様は、外交も安全保障の一環ということを幕府・老中に徹底させておりました。
だから、国防軍に、外交的権限も与えられ、異国に関する第一報は、まず国防軍に届く仕組みが構築されているのでございますな。
勿論、最終的な決定権を持つのは幕府でございますよ。
ですが、最初に情報が齎され、対応策を考え、提案するのが国防軍という仕組みにされていたのでございますね。
これは、全て阿部正弘様が象山先生らと相談して構築した仕組みの一端ということでございます。
そもそも、こんな仕組みを作ったのは、事なかれ主義の幕府に外交・防衛の主導権を握れないようにする為とのこと。
国防軍や日本商社には、アッシの話を聞き、異国を廻り、先の事を見られる方が大勢いらっしゃいます。
ですが、幕府の中枢にいて、アッシらの話を聞いて下さるのは、阿部様の指導を受けた安藤信正様位のもの。
そんな中、先に幕府が情報を入手して、老中の方々が決定してしまえば、その結果を覆すことは不可能でございますからなぁ。
そして、阿部様の後継を期待されているとは言え、老中の末席に入ったばかりの安藤信正が閣議を主導することも難しい。
ですから、一丁事があれば、まず国防軍経由で象山書院の裏閣議に情報が齎される仕組みが作られたのでございます。
ポサドニック号事件の話は、大久保一蔵様から、西郷吉之助様、島津斉彬公に伝えられ、そこから勝麟太郎さん、桂小五郎さん、佐久間象山先生とアッシ平八に伝えられ、島津斉彬公から安藤信正様に伝えられ、急遽、裏閣議が象山書院で開催されることになったのでございます。
「それで、大久保君、改めてポサドニック号事件の報告を伝えてくれないか」
安藤様や島津様が上座にいるにも関わらず、当然の様に、その場を仕切り始める象山先生。
裏閣議では、いつも、こんな感じですな。
本来は目上の方がいる場所では、自分から話してはいけないものなんですが。
象山先生は、そんな事全く気にせず、おかげで、ここでは身分に関係なく話せる雰囲気が出来上がっております。
「まず、ロシア船ポサドニック号が対馬にやってきたとが、1週間程前とんこつ。
予言ん通りならば、ポサドニック号ちゅう船が来ったぁ、アメリカで君主ん入れ札が行われ、内戦が行わるっ前後やったはず。
そう考ゆっと、予言された来訪と比ぶっと、大分早かとじゃあいもはんか?」
アッシの夢の話を予言の書として聞いている大久保様は少々の不信感を持たれた様子で象山先生に尋ねられます。
予言が当たることを前提に計画を立てれば、外れた場合への対処が問題となるので確認したいということなのでございましょうな。
「それは仕方あるまい。
クリミア戦争の延長など、予定外の事を沢山起こしているのだ。
川に石を投げ込めば、波紋が広がる様に予定外の事も起こるであろう」
象山先生は皮肉に口元を歪めて応える。
この辺が象山先生の器の小さいところでございますなぁ。
自分の指示を無視して、勝手にクリミア戦争を延長させたことを根に持ってるんですな。
まったく、結局、アラスカ購入、クリミア戦争延長、インド大反乱へのテコ入れという大久保様と一橋慶喜公の策は有効だと認めている癖に。
勝手に、動かれると機嫌が悪くなる、本当に子どもでございますな。
まあ、この辺が、勝さんや奥方であり勝様の妹であるお順様の言う、象山先生の可愛いところなのかもしれませんが。
「確かに、あてらん動きが影響を与えちょっとかもしれんが。
そいで、状況が大きっ変わってしめば、予想も出来んくなっちゅうこっと?」
「いや、僕は天才だからな。
ある程度の予想も出来るし、対処も可能だ」
象山先生は、胸を張り、ここに来るまでにアッシと話した運命についての考察の説明を始める。
運命という物は百年単位ならともかく、千年単位なら変わらないかもしれないこと。
運命という物が大河の様に流れる物であるならば、時期、人物は変わっても同じ様なことが起きる可能性が高いと考えられることを伝える。
「それは、あくまで、予想に過ぎんやろう。予想が正解であっ保証はなか」
大久保様がそう言うと象山先生がニヤリと笑って答える。
「うむ、その通りだ。
だから、正確な情報と状況判断が必要になるのだ。
そろそろ、事件の報告を続けてくれないか」
象山先生がそう言うと大久保様はため息を吐くが、斉彬公や安藤様に目を向けた後、報告を続ける。
「ポサドニック号は、予言ん通り、故障を口実に対馬にやってきた。
これに対し、国防軍は蒸気船で取り囲み、英仏と交易をしちょっ海栗島へポサドニック号を曳航した」
アッシの夢だとポサドニック号は、勝手に対馬に上陸し、対馬の一部を占拠したはず。
そう言う意味では改変に成功していると言えるのでございますが。
「そこで、海栗時に曳航したポサドニック号に何が起きたのだ?」
象山先生が尋ねると大久保様が応える。
「ポサドニック号は軍事機密を口実に海栗島ん船大工ん修理を拒否した」
大久保様がそう言うと象山先生が皮肉に笑う。
「まあ、実際に船は壊れてもいないのだろうから当然だろう。
それに、軍事機密と言っても、ロシアに盗める技術などあるのかどうか」
「そいじゃっどん、故障ん為ん遭難を口実に来た以上、そんまま船に押し込むっ訳にも行きもはん。
そげんこっをすりゃ、日本の評判を下ぐっことになっでね。
じゃっで、ロシア船員ん海栗島上陸を許可したちゅうこっだ」
「そこで問題が起きたということか」
「そうじゃ。報告によっと、ロシア船員が色町で国防軍ん者に斬られたとか」
「理由は?」
「わからん。斬ったんな、ロシア語が話せっ下村とかゆ男。
ロシア人が悪事を犯したで斬っただけ。説明ん必要はなか。
問題があっなら自分が腹を切っちゆちょっそうだ」
お武家様と言うのは、言い訳というのを見苦しいと取る傾向にあるようで。
この下村という方も、そう考えているのでございますかね。
正しいことをして、悪人を斬ったのだから、自分が罰せられる理由はないとでも、お考えなのでしょうか。
薩摩の大久保様、西郷様は理解を示している感じですが、勝さんは呆れている感じですな。
そんな中、合理主義の塊である象山先生は堂々と吐き捨てる。
「面倒だな。現場に目撃者はいないのか」
「今んところ、目撃者は見つかっちょらん」
「それで、良く斬った下手人が解ったな」
「下村自身が斬った直後に番所に出頭したど」
「なるほど、隠すことはなしということか。
下手に隠されるよりはマシではあるが。
それで、斬ったのは、何人だ?全員死んだのか?ロシア側は何を言っている?」
「斬ったんな二人。一人は右腕を斬られ重傷。もう一人は袈裟懸けに斬られて死んじょる。
腕を斬られたロシア人は重症で意識もなく、話せっ状態じゃなか。
ロシア側からは、色町で遊んじょるところを、ちょかっ斬りかかられたちゆちょっらしい」
その言葉を聞いて象山先生が鼻で笑う。
「ロシア人どもは、斬られたロシア船員のことを最大限に利用するつもりということかな」
象山先生が呟くと、その言葉を聞いて老中安藤信正様が問いただす。
「大丈夫なのか、佐久間。
異人は、言い掛かりをつけ、戦を吹っ掛けることもあると聞いておる」
ああ、こちらでは起きないで済んだアロー戦争のことでございますかな。
それから、大名行列を横切ったイギリス人を斬った生麦事件を切っ掛けに、イギリスが薩摩の街を火の海にした薩英戦争というのもございましたな。
いずれにせよ、全てアッシの夢で見ただけのことではございますが。
それでも、口実があれば戦争を仕掛け、相手を屈服させるのが、この時代の欧米列強のやり方。
安藤様が心配されるのは、当然でございましょうな。
「しかし、理由もなく、下村とか言う者に腹を切らせれば、幕府は弱腰と侮られ、攘夷に再び火が付きかねません」
象山先生は事も無げに応える。
そして、象山先生が仰る通り、あまりに弱腰過ぎるのも危険なところ。
国防軍の人間が異人を斬ったという理由だけで、国防軍の人間に一方的に責任を取らせれば、幕府は求心力を失い、国防軍は空中分解しかねませんからなぁ。
「それでは、どうする?」
「事実を明らかにすることが第一でございますな。
もし、下村なる者が理由もなく、丸腰のロシア人に斬りかかったのであるならば、腹を切らせるのは当然。
その事実を明らかにした上で一罰百戒とすればよろしいでしょう。
それで、攘夷を叫ぶ跳ね上がりを牽制することが出来る。
そして、もし、その者がロシア人を斬るのに正統な理由があるならば、その事実をロシアを含む異国にも知らせ認めさせればよろしい。
どちらに転ぼうと、我が国の御裁きの公正さを国の内外に知らせられることとなりましょう。
僕と阿部様の構築した仕組みは、この様なことで揺らぐものではございません」
象山先生は堂々と胸を張った後、顎髭に触りながら話されます。
「まあ、本当は、この様なことは現場で解決すれば良いことではあるのですが。
今回は初めての異人絡みの御裁きである点、ロシア語を話せる者が少ない場所で起きた事件である点から、事実がまだ明らかになっていないのは仕方ないのやもしれませんな」
「ロシア語が必要でしたら、私が対馬に参りましょうか」
桂様が声を掛けると象山先生が頷かれます。
「そうだな。
水戸藩にも認められている桂君が行けば、余程不当な裁きにでもならぬ限り、水戸学の者が不満を爆発させることもなかろう」
「それなら、オイラも対馬に行きましょうか。
御裁きの公正さを伝えるなら、広まるようにしねぇと意味がないですからね」
勝さんが、自分の考えを提案すると、象山先生が頷く。
「なるほど、いい考えだ。
だが、勝君は船に弱いのだろう?大丈夫かね?」
「いや、船に弱いったって、いつも船酔いしている訳ではございませんよ。
オイラは船が好きなんだ。
アメリカの日本視察団にも同行しましたし。
この海舟会って名前だって、船が好きだから提案した名前ですぜ」
勝さんは、船に乗れることが嬉しいのか、目を輝かせて話されます。
そんな勝さんの様子を見て、象山先生は暫く考えた後に、安藤様に目を向けられます。
「僕は悪くないと思いますが、安藤様は如何でしょうか」
象山先生に聞かれ、安藤様は暫く考えた後に応えられます。
「雄弁は銀沈黙は金と言うが、異国相手には沈黙すれば付け入られるということか。
解った。
老中の方々は、私の方から説得しておく。
だが、船に弱いなら勝に船長はさせられぬ。
中浜(万次郎)に船長をさせて、勝と桂は客として行くことにしろ。
それで、良ろしいかな」
安藤様がそう言うと斉彬公が頷かれました。
勝さんは船長をさせて貰えなくて、少し悔しそうな顔をされておりますねぇ。
ですが、この場の最上位の二人が決めたことに反対出来る方はいらっしゃるはずがございません。
こうして、勝さんと桂様は中浜様の操る蒸気船に乗って対馬へと向かい、舞台は再び、対馬へと戻ることとなったのでございます。
さて、次回、舞台は対馬に移り、ポサドニック号事件解決編に入ります。
どんな結末になりますか。お楽しみに。
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