第六話 岩倉具視とディズレーリ
第9回ネット小説大賞一次選考通過及びHJ小説大賞2021 前期 一次選考通過してました。
ちょっとプチパニックなので、状況を簡単に活動報告に書いたので、目を通してアドバイス貰えると嬉しいです。
では、本編、ロンドンに着いた岩倉具視一行は、ディズレーリとの面会を始めます。
ベンジャミン・ディズレーリは、ユダヤ人で唯一英国宰相となった人物だと言われることがある。
だが、それは正確な表現ではない。
確かに彼の両親はユダヤ人であったから、ユダヤ人の血統ではあった。
その顔もユダヤ人で特徴的とされる鷲鼻の持主でもあった。
だが、彼の父親は彼が13歳の時に、ユダヤ教を離れ、彼も父と一緒にイギリス国教会に改宗している。
それ故、彼は血統としてはユダヤ人であっても、ユダヤ人が認めるユダヤ人ではなかったのだ。
この点は、後に資本論を書くこととなるカール・マルクスと良く似ていた。
ユダヤ人が認めるユダヤ人とは、ユダヤ人の母から生まれ、幼少期より母親からユダヤ教徒としての教育を受けたユダヤ教徒のことを指し示す。
血統的には、父親がユダヤ人であるとしても、母親が非ユダヤ人であれば、ユダヤ人とはユダヤ人の中では認められない。
父がユダヤ人でも、子どもが本当にその父親の血を継いでるかは確実ではないという理由でだ。
それ故、ユダヤ人の母から生まれることが重要であるとされ、教育もユダヤ人の母親から受けていることが重要とされていたのだ。
これに対し、彼の終生のライバルであり、イギリス首相の座を長年にわたり争うことになるグラッドストンは、ディズレーリがユダヤ教徒であることを隠し、イギリス国教徒の振りをする隠れユダヤ教徒ではないかと疑っていたという。
しかし、ディズレーリはユダヤ教の儀式に関しては全く無知であり、同時代の『ユダヤ教徒イギリス国民』を自任していたライオネル・ド・ロスチャイルドとは大きく異なっていた。
もっとも、ユダヤ教徒でなくとも、ディズレーリがユダヤの血統に誇りを持っていたことは事実である。
彼は貴族主義者であり、自らがユダヤの尊き血筋を継承する者であることに誇りを持っていた。
ユダヤ人という『人種』を優秀なものであると考えていたのだ。
だから、ユダヤ人がユダヤ教徒のままイギリス国会議員となれる道を開いていたのである。
(ディズレーリ以前、ユダヤ人はイギリスでは要職に就くことが出来なかった)
だが、それはディズレーリが隠れユダヤ教徒であったのではなく、彼が宗教的差異を軽視する現実主義者であったと言うべきであろう。
この点、英国国教会の規範に忠実であろうとし教条的であったグラッドストンと最も大きく異なる点である。
現実の状況を見てより良い手を考えるディズレーリと、理想のあるべき姿を考え、それに従うべきと考えるグラッドストンは対極の存在であったのだ。
そして、ディズレーリは、現実主義であるが故に、状況に応じて立場を豹変させる人物でもあった。
ディズレーリが、クリミア戦争、アロー戦争などを主導するパーマストン子爵内閣を打倒する為に、イギリスに植民地など必要ないとする小英国主義を唱えて、パーマストンの砲艦外交を批判していたのは事実である。
しかし、1868年ディズレーリ自身が内閣を組閣するようになると、態度を180度転換し、アフガニスタン、南アフリカへ侵攻し、ロシアのバルカン半島進出に対抗してもいるのだ。
これをグラッドストンは、宗教と政治的信念を持たない不信心者と批判していた。
だが、ディズレーリから見れば、当時の有権者である労働者が植民地に雇用の場を求めていたのだから、その要求に応えないなど、愚かな行動としか考えられなかったのである。
この様に、理念ではなく、現実の状況を見て判断するディズレーリは、日本という東洋の果ての国から来た珍客に会う準備を進めていた。
日本という国のヨーロッパでの評判は驚く程高い。
1年程前にヨーロッパに旋風を巻き起こしたプリンス・ケーキ(徳川慶喜)。
彼はパリでパーマストン子爵と会談した後、ロンドンに渡りヴィクトリア女王との謁見まで果たしたと言う。
東洋人では珍しく礼儀正しく謙虚な態度。美しい装い。
彼に従うサムライ達も物語の騎士の様であると褒めたたえられていた。
まあ、少々世間知らずで、ロシアにアラスカの様な天然の冷蔵庫を売りつけられたようだが、それもプリンス・ケーキの少年の様な純真さの現れと取られ、イギリスでは好意的に解釈されていた。
そして、最近、日本の評判を上げた二つのニュース。
一つはアメリカの日本視察団に参加した記者が新聞に掲載した『日本遊覧記』から起こったもの。
この記事は、元々はアメリカの日本視察団に同行したアメリカの新聞記者によって書かれ、新聞に連載として掲載された記事であったのだが、日本という不思議な国の美しさ、思いやり、規律、魅力を平易な文章で解りやすく述べているものであったので、それが大変な評判を生んでいたのだ。
ディズレーリは、政治家として当選するまで4度も落選し、作家として生活したこともあった人物である。
まあ、作家と言っても、ディズレーリはとても売れっ子とは言い難い状況であったのだが。
それ故、ディズレーリは、評判になっている日本の記事に興味を持った。
売れなかった自分とは異なる評判の記事とはどういうものであるかと。
それで、彼は、新聞を取り寄せ目を通したのだが、その記事は、彼を納得させる素晴らしい物であった。
この記事のあまりの評判に、記事をまとめて本とすることが早々に決定され、第二の日本ブームをアメリカ、ヨーロッパで巻き起こそうとしていた。
記者はマークトゥエインという奇妙なペンネームを付けているようだったが、何処か少年を連想させる記者の文章には、似合いだとディズレーリには思われた。
そして、もう一つは日本が上海租界から婦女子を救出し、太平天国を撤退させたというニュース。
清国の反乱軍、太平天国が上海租界に攻撃をしたと聞きつけた日本軍が危険を顧みず、上海租界に寄港。
上海にいた婦女子を上海から香港に脱出させたのみならず、太平天国と上海租界の仲を仲介。
太平天国を説得し、上海租界への攻撃を止めさせたと言う。
その指揮官の名はミスター・サクマ(平八は佐久間平八と名乗っています)。
日本に行ったアメリカのペリーによると、サクマというのは、日本開国の際に現れたタフな交渉人で、清国の反乱勢力程度なら軽く説得出来るだろうと言う談話を残していると言う。
この二つのニュースで日本に対する評価は、プリンス・ケーキのおかげで元々高かったものが天井知らずとなった。
芸術家はこぞって日本の芸術に憧れ、日本の物であれば、何であろうと飛ぶように売れた。
そんな中、前回は面会に来なかった日本の代表者がディズレイリーに面談を求めてきたと言う。
なかなか、見る目がある者がいる様だなと、ディズレイリーは考える。
前回、プリンス・ケーキがイギリス訪問した際には、面談の問い合わせすらしなかった自分への面談を求めて来るとは機を見るに敏と言うべきか。
クリミア戦争は参戦を求めてきたはずのフランスが継戦意思を失っており、バルカン半島をロシア軍が縦断し、イスタンブールに迫っている時点でイギリスの負けは決まりだろう。
オスマン帝国が負けを認め和平を望むのを、イギリスには防ぐ手段がない。
イギリスの威信を傷つけて余計な予算を使った上での敗北。
その様な状況ならば、パーマストン子爵も責任を取って首相を辞任し、ヴィクトリア女王からダービー伯爵へ組閣の大命が下ることであろう。
そして、ディズレイリー自身は、5年前1852年の第一次ダービー内閣では蔵相を務めている。
そうなれば、間もなく、彼は再び、ダービー伯爵によって、蔵相に任命されるであろう。
そんなディズレーリへの面会を求めて来る人間は少なくなかった。
そこに、今、評判の日本の代表者が会いに来るという。
一体、日本の連中は何を求めて来ているのか。
それに対して、自分はどんな手を打つべきなのか。
ディズレーリは、何よりも人気の日本を利用して何か出来ないかを考えていた。
「お初にお目にかかります。ディズレーリ閣下。
私は、日本から任命されて参りました、日本の全権代理、岩倉具視と申します。
今年の夏にロッテルダムに到着したのですが、やっと一段落付きましたので、閣下にご挨拶に参りました」
ディズレーリの所にやって来たのは3人。
プリンス・ケーキと異なり、美男子とは言い難い、小男たち。
中央にいる岩倉が話し、それを隣に控える男(西周)が通訳をしている。
言葉は、アメリカ訛りではなく、ちゃんとした英語だ。
あるいは、イギリスに留学している者なのかもしれないな。
そんな事を考えながら、ディズレーリは返事をする。
「それは、遠い所より良くいらっしゃいました。
私は、ベンジャミン・ディズレーリ。
まだ、閣下ではありませんので、閣下とは呼ばなくて結構です。
プリンス・ケーキにはお会い出来ませんでしたが、こうして、今、評判の日本の代表者にお会い出来て光栄です」
ディズレーリは前回は会いに来なかったのに、今回は要職に就くという情報を何処からか掴んできて、早速会おうとした、この小男に軽い皮肉で返す。
「いえいえ、閣下はかつて大英帝国の蔵相を務めた経歴があると聞き及んでおります。
それならば、閣下とお呼びするのが礼儀だと聞いておりましたが。
間違えておりましたのでしょうか」
岩倉がそう返事をすると、ディズレーリは少し驚く。
確かに、その通り。
一度大臣になった者は閣下と呼ぶのが礼儀だ。
という事は、彼らは、イギリスの礼儀作法を知った上で、彼の職歴もちゃんと確認しているという訳か。
なるほど、噂通り、他のアジア人と違い礼儀正しいというのは、本当の様だ。
「確かに、礼儀としては、それで正しい。
しかし、私が蔵相経験者であることを良くご存じでしたね」
「表敬訪問させて頂く以上、相手の事を確認させて頂くことは当然のことです。
とは言え、閣下が間もなく、大臣に返り咲くと見込んだから、面会を申し込んだのではありますが」
そう言うと岩倉がニヤリと笑う。
その笑顔を見て、ディズレーリは苦笑する。
なるほど、素直に言ってくるのか。
適当に誤魔化してくるよりは、気持ちの良いものだな。
あるいは、この男は、自分と同じタイプの人間かもしれないなと考えながら、ディズレーリは尋ねる。
「そうですか。
私が大臣に返り咲くとお考えの上で、表敬訪問を希望されたのですか。
となれば、この訪問は只の礼儀ではなく、何か別の目的があるのではありませんか?」
「お願いという程のことではありません。
どちらにも利益のあることでございますから。
実は、フランス、ロシア、オランダと結んでいる通商条約を大英帝国とも結びたいと思い、改めてご提案に参りました。
以前、パーマストン子爵と交渉させて頂いたのですが、その時は、日本から買いたい物があれば、ロッテルダムに買いに来るから大丈夫だと断られてしまいまして。
ですが、今はロシアとの戦争が終わったとしても、清国やインドの情勢が不安定な状況。
補給物資を買う為にも、アジアの平和な我が国と通商条約を結んでおいた方が大英帝国にとってもよろしいことかと」
そう言われてディズレーリは考える。
確かに、今、評判の日本とパーマストン子爵が断ったという通商条約を結べば、評判になるだろう。
パーマストン子爵の失策を早くも挽回したと喧伝出来るかもしれない。
実際に、清国、インドの情勢が不確かな状況で、日本が補給基地の役割を果たしてくれるなら、有難いことでもある。
しかし、岩倉の言う日本との通商条約というのは、日本にとって随分都合の良い条約であるというのも確かなのだ。
パーマストン子爵がどんな条件で断ったのかは知らないが、フランスやロシアと日本の条約文を見れば解る。
日本に寄港出来るのは、日本が指定する島嶼部の港だけ。
そこに寄港する為には武装解除しなければならず、寄港の間、船を降りれば日本の法に従わなければならない。
これに対し、日本の船は自由に相手国の好きな港に寄港が可能なのだ。
勿論、寄港中、船を降りれば、その国の法に従うことにはなっているのだが、それでも日本に有利な条約であることは間違いがない。
この様に、条約が片務的となる理由として、日本は、病が日本に入らない様にする為の防疫対策であると説明し、その条件が守られないならば、直接の貿易は行わないとしている。
実際に、ハワイ、アメリカ原住民が病で人口を減らしているということもあるから、そんな事実もあるだろう。
それ故、他国は日本の提案を渋々ながらも受け入れ、その通商条約によって日本製品の輸入を容易としている様ではあるのだ。
おそらくパーマストン子爵は、その片務的な条約が気に入らず、条約締結を拒否したのだろう。
もし、日本との通商条約を結べば、日本製品を買いたがるイギリス人は喜ぶだろう。
ロンドンに日本商社の支社を開設させてやっても良い。
だが、日本から買うだけで、日本が大英帝国の製品を買わないのは困るのだ。
大英帝国には、中国の陶器と茶にのめり込み、財政を傾けたという経験がある。
日本から買うだけで、日本が大英帝国の物を買わなければ、大英帝国の富が日本に流れるだけになってしまう。
それをコントロールする為には、今程度の貿易状況でも悪くはないのだが。
「通商条約の締結ですか。
確かに、条約を締結すれば、イギリス国民は一時的には喜ぶかもしれません。
しかし、長期的観点からも、イギリスを貧しくする訳にはいかないのです。
そこでお伺いしたいのですが、通商条約を結んだ場合、日本は我が国から何を買って頂けるのでしょうか。
補給も、日本製品も有難いのですが、何も買って頂けないのなら、大英帝国と言えども、財布に限りがございますからな」
ディズレーリがそう尋ねると、岩倉は暫く考えた後に応える。
「我が国は、我が国の繁栄が世界の繁栄に繋がることが、日本の安全の為に最も重要であると考えています。
それ故、なるべく多くの物を売り、異国の物を買うことが重要であることも理解しています。
ですが、我々は、まだまだ異国の状況に疎いのです。
どの様な素晴らしい物や文化があるのか、知らないことも多い。
だから、それは、これから付き合いながら、探していくことだと思われます」
「大変素晴らしい心掛けです。
ですが、それならば、通商条約を結ぶのは、日本が我が国から買いたい物を見つけてからでは如何ですか」
ディズレーリが失望した様に述べると、すかさず岩倉が応える。
「いえ、今ならございます。
蒸気船、大砲、鉄砲などの武器を売っては頂けないでしょうか。
武器と工業力では、現在、イギリスは我が国よりも遥かに上です。
我らも、列強各国に追いつこうと武器の開発をしておりますが、まだまだ量も質も足りておりません。
ならば、少なくとも、我らが皆様に追いつくまでならば、我らは大英帝国から武器を買うことが出来ます。
そして、その時間があれば、武器以外にも、買いたい物を見つけられるかと」
岩倉の言葉にディズレーリは大声で笑う。
プリンス・ケーキもユーモアを解すると聞いていたが、岩倉もユーモアのセンスがある様だ。
東洋の小国が大英帝国に追いつくなど、あるはずがないではないか。
つまり、我が国から武器を買い続けるという事を、こうして笑いにしてくれるとは。
「なるほど、では、日本が大英帝国に追いつくまでの間は武器を買って頂けるのですね。
しかし、どうして、日本は武装を強化しようと言うのでしょうか?
日本は、今、世界中から愛されています。
そんな国を攻める国があるとは思えないのですが」
ディズレーリがそう尋ねると、岩倉が困った様な顔をして応える。
「仰る通り、誰も攻めて来ないなら、それに越したことはないのですが。
正直、私はロシアが恐ろしいのですよ。
今回の戦争で、バルカン半島を手に入れた様なのですが、ロシアの国是は国家の膨張にある様でしてな。
清国やインドの反乱の裏にもロシアが暗躍しているとの噂も耳にしております。
我らはアラスカをロシアより買い取り、カムチャッカ半島の一部をもらい受け、ロシアとは地続きの付き合いです。
その様な中で無防備でいるべきではないと私は思うのです」
そう言われてディズレーリは考える。
岩倉の言う通り、ロシアは膨張国家だ。
そして、インドや清国の反乱の裏にロシアがいるのではないかという噂も聞いている。
とは言え、ロシアは工業的には明らかに大英帝国に劣る国家でもある。
だから、バルカン半島を手に入れたからには、暫く大人しくして産業振興に努めると考えていたのだが。
ロシアが調子に乗って更なる領土拡大を目指してきた場合、アジアで日本を盾として利用するのも悪くはないかもしれない。
もともと、植民地に軍を置くなど勿体ない。
現地の防衛は現地にやらせるべきだと考えていたディズレーリは日本の提案に興味を示した。
「つまり、あなたはロシアを仮想敵国として警戒しているということですか」
ディズレーリがそう尋ねると、岩倉が首を振る。
「いえいえ、我らは、どの国とも仲良くやっていきたいと思っております。
ですから、仮想敵国などとは、考えておりません。
ただ、こうしてヨーロッパに来て、あなたがたとの常識の違いというものを知りました。
我が国には、鍵という物がほとんどありません。
商人が大金を入れる倉庫などに付けることがあるようですが、少なくとも、私は日本の貴族ですが、鍵など、日本では見たことがありませんでした。
盗みをすれば厳しい罰があり、それを知っているから、誰も泥棒などしない。
それが日本という国なのです」
シーボルトの『日本』やマークトゥエインの『日本遊覧記』に書いてあった驚くべき日本の姿を直接聞いて、さすがのディズレーリも息を吞む。
まるで違う星の話の様だ。
貴族ですら、鍵を知らないとは。
岩倉が話を続ける。
「ですが、私はヨーロッパに来て、あなたがたの常識を知りました。
何処に行っても鍵のある生活。
無防備でいることは、邪心のない者ですら、誘惑してしまう危険な行為であると、あなた方が考えていることを知りました。
それ故、我らは武装を強化し、手を出せば痛い目に遭う存在になるべきであると考えたのです。
だからこそ、我らはイギリスから最新型の兵器を売って欲しいと考えるのです。
誰もが、我が国を侵略する誘惑にかられない様にする為に」
岩倉は無邪気そうな笑みを浮かべて見せる。
その様子を見て、ディズレーリは型遅れの武器を日本に売りさばいた上で、日本をロシアの盾として利用することを考えていた。
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ディズレーリとの会談が終わって、吉田寅次郎が岩倉に尋ねる。
「とりあえず、ディズレーリ殿は、我らに好印象を持って下さったようですが、我らに武器を売って、ロシアに対する防壁として利用しようという腹積もりかと思われます。
本当に、大丈夫でありますか?」
平八からイギリスとロシアに分断された日本の未来の話を聞いている寅次郎は不安になり確認する。
「ディズレーリはんが、腹でどう思てるか位は解ってる。
あの男は損得勘定の計算出来る男なのやろ?
せやったら、イギリスに損させへん限りは敵に回ることはあらへん。
いけるで。なんの問題もない」
「では、イギリスとの関係を、より深めると」
「そや。連中はイギリスとロシアの戦いに日本を利用するつもりやろうが、日本が連中を利用したる。
イギリスで、新しい政府が出来たら、通商条約を結んで、更に関係を深めていくんや。
その為には、反対しそなグラッドストンはんにも話を通しとかなな。
どないなお人や」
「熱心な耶蘇教徒(キリスト教徒)であると聞き及んでおります。
それ故、政治的信条を曲げないお人かと」
「そうか。となると、今回より、ずっと建前重視。硬い感じで行った方良さそうやな。
西はん、耶蘇教で使えそうな言葉があるか調べといてくれへんか」
岩倉のあまりの豹変ぶりに呆れる二人を尻目に岩倉が呟く。
「盾にするつもりなら、やってみぃってんだ。
逆にこっちが利用したる。最新型の武器を売るという言質は貰ったで。
えずいた唾は吞まさへんさかいな」
ヨーロッパで再び、大きな嵐が巻き起ころうとしていた。
さて、ヨーロッパの話は一段落。
次は舞台を日本に戻し、日本商社の話にするか、対馬、新領土カムチャツカ半島の都市ペトロパブロフスク・カムチャツキーにするか、考えているところです。
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