第一話 集められた人々
平八たちに集められた人々が象山書院に集まる。
三日後、昼頃、アッシが象山書院を訪れると既に全員が揃っていた。
一番の上座に座るのは象山先生。
講壇の一番前中央にかぶりつきで座る、
あのあばた顔の男は吉田寅次郎、後の吉田松陰だろうか。
そのすぐ後ろに座るのは、確か写真で見た桂小五郎。
桂さんは、必死に吉田さんとその近くに座る初老の男に話しかけている。
すると、あれが斉藤弥九郎か。
桂さんが連れてきてくれたのかな?
斉藤さんは、幕府の能吏江川英龍とも友人であるはずだからな。
そこから、この話が江川様に伝わり、
老中の阿部様に伝われば良いと思ったのだけど、第一段階は成功だな。
龍馬さんは勝さんを見つけて、大声で話している。
部屋の後の方に正座しているのは近藤さんとあぐらをかいているのは土方さんか。
希望通りの人が集まり、辺りを見渡していると、勝さんがアッシに声を掛けてくる。
「おう、来たな。もう、みんな、揃っているぜ」
そう言うと、象山先生のいる上座にアッシを案内する。
「うむ、来たか。待っていたぞ」
象山先生はアッシを見ると、凄みのある笑顔を向けた後、
アッシを隣に座らせ、声を張り上げる。
「諸君、よく集まってくれた。注目してくれたまえ」
驚くほどデカイ声だ。
ザワついていた書院が静まり返り、視線が一斉に象山先生に向かう。
「今日は僕の地球一の講義を聞きたいと思って集まって貰ったことだと思うが、
今回話すのは残念ながら、僕ではないのだ。
僕の話を聞きたいと期待してきた諸君には、誠に申し訳ない。
しかし、代わりに紹介し、聞いて貰いたい話があるのだ。」
そう言うと象山先生は立ち上がると、自分の座る座布団にアッシを招く。
武士が町人に席を譲るかねえ。
本当、変わった先生だよ。
「この平八君は、これから起こることを夢で見たというのだ。
僕は、その一部を聞かせて貰った。
彼は、僕の出そうとする建白書の内容を言い当てることが出来たのだ。
この天才の考えを夢で見たと言うのだ。
正直言えば、彼が本当に予知などと言うことが出来るかは僕にもわからない。
だが、この天才の考えを見抜いたのであるならば、聞く価値はあると思う」
象山先生が上座を下り、私の前に座ると象山先生の隣に座る吉田さんが聞く。
「先生、あの方は、本当に未来のことがわかるのでありますか?」
「わからん。平八君が本物の予言者である保証はない。
本当に夢で未来のことを見たとしても、最後まで間違いのない未来を語れる保証もない。
だがな、彼は、君も理解出来なかった僕の真意まで見抜いたのだ。
何かあるのは間違いない」
象山先生がそう言うと、吉田さんは息をのみ、アッシを見つめる。
「彼は私がわからなかった先生の真意を分かったのでありますか?」
辺りがざわざわすると、象山先生に負けない龍馬さんのどデカイ声が書院に響く。
「ほうか、ほうか。それでか。
おまん、黒船がいつ帰るか知っとったんかい。
だから、ワシがここに来られると知っちょったんじゃな」
それを聞くと象山先生がアッシを睨みつける。
「平八君、先の話は僕に最初にする約束だったではないか。約束を破ったのかね?」
いや、龍馬さんに来てもらう為に、最低限のことしか、話していないのだけど。
「すると、平八殿は徳川家の未来に不穏なことがあるのを見られたと言うことなのですか?」
今度は部屋の隅に座る近藤さんから、声が掛かる。
象山先生がヘソを曲げると、後が困るのだから、もう少し状況を見て声を掛けてくれないかな。
象山先生の目が怖いよ。
「いやあ、象山先生、平八つぁんは約束守って、余計なことは話していませんぜ。
オイラにも、教えてくれねぇんだもん。
坂本君は黒船の警備についていたんで、黒船が出ていく日を教えただけさ。
近藤君たちもな。
ここに、来るのを断ろうとしていたようだったんで、仕方なく必要なことだけ話しただけさ」
「しかし、話さないと約束したではないか。僕だって聞きたかったのだ」
「いやあ、話したって言っても、おいら達以上のこと話しちゃいねぇぜ。16年後のこととかさ」
「そこは話していないのだな」
「ああ、話しちゃいませんぜ。
象山先生、その話は、そろそろ止めにしませんか?
おいら、早く平八つぁんの話を聞きてえんですが」
「そうだな。僕も、早く聞きたい。
良かろう。僕は、天才なだけでなく、心も広いからな。
とりあえず、約束を破ったことは、後にしよう。
平八君、話を始めてくれないか。
これから、どんなことが起こっていくのか、順番にな」
そう言うと象山先生は、鼻息荒く、私を見つめる。
心が広いと言いつつ、許してくれる訳じゃなく、後回しかい。
そう思いって苦笑しながら、アッシは話を始めることにする。
これから起こることを順番にだ。
勝さんや象山先生にしたようにいきなり国が二つに割れるなんて伝えたら、近藤さん辺りには謀反人扱いされかねないからな。
ここにいる人たちが納得出来るよう、順番に話していくことにしよう。
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