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第41話 おっさん、真実を知る

(移動するイメージではありません。位置を書き換えるイメージで)

(うーん? 量子ジャンプみたいなもんかな?)


 膨大な術式が脳内に湧いてくる。ソフィがサポートしてくれているのだ。

 さすがに上位魔法。

 俺一人では到底構築できない。


 例の球上の三角形のコントローラーも、一つではなく、八つが組み合わさっている。

 かなりの集中を持続しないと制御がすぐ崩れていく。


 だが、やがて。


((転移(テレポート)!))



 ソフィの個室から、一瞬で俺の体の眠る集中治療室に切り替わっていた。


 成功だ。


(やった! ソフィ! 転移が使えた!)

(転移は同じ世界の空間的だけではなく、異世界へも、時間的にも、制御によって可能です! これで私の世界で、戦争月に勝利出来ます!)

(ああ、そのためにはさらに精緻に制御出来るようにならないとな! 俺も頑張るよ!)

(ありがとうございます! ディーゴ!)


 それにしても。


 ここしばらく忙しくて、俺の体を見に来てなかったが、ずいぶん痩せたなあ。

 ハゲは治らんが、もうデブじゃない。


 俺の体は、相変わらずチューブの束でマリオネット状態で眠っている。

 むしろ痩せてて、顔も小さくなった。


 3か月も意識がないんだからなあ。点滴だけじゃこうなるか。


 看護師がまめに綺麗にしてくれているのだろう、肌はつやつやしているし、髪の毛も短めで無精ひげもないから小ざっぱりした印象ではあるが。


 俺もそろそろ元の体に戻らないとなあ。


 異世界への帰還は、ソフィのためだけじゃない。俺自身のためでもあるんだ。


 再度転移して、自分の病室に戻った。


 ついでに、包帯の裏にコーティングして固め、転移で顔から外した。包帯で出来たヘルメットだ。

 誰かに会うときは転移で装着する。


 だって、これ、暑いし蒸れるんだもん! ただの偽装のくせに!



◇◇◇


 それから数日、さらに練習を重ね、ついに姉ちゃんと鶏冠井(かいで)さんに成果を見せるときが来た。


 すでに俺の(体の)退院手続きの段取りも付けている。


 今回の転移実験が成功すれば、俺はソフィの中に入ったまま異世界に跳ぶ。異世界に戻るまでは電素(セル)魔法を用いるのでフリップフロップが必要だからだ。


 そして、戦争月の状況によってこの後のシナリオはやや幅があるが、ノイマン王国を勝利に導けば、ソフィが俺の魂をこっちの世界、しかも転移直後の時刻に戻す。異世界であればソフィは俺がいなくても単独で魔素(マナ)魔法が使えるからだ。


 さらにソフィも戦争月のあれこれを片付けて、こっちの世界に戻ってくる。


 姉ちゃんたちの主観時間では、ソフィが消えた直後、俺の意識が戻り、そしてそのすぐ後にソフィも帰ってくる。


 ことになる、はずだ。



「ソフィ、転移実験を始める前に確認したいことがある」

「ハイ、ナンデショウ?」

「とぼけても無駄だよ、ソフィ。あたしが気がついていることは既に分かっているはずだ」

「……」


 え、なに? この土壇場で姉ちゃん、何言いだしてんだ?


「本物の醍醐(だいご)はどこにいる?」


 え!?


「先生、それはどういう意味でしょうか?」

「鶏冠井、あんたも気がついてなかったのか。ソフィの中にいる醍醐は、本物の醍醐じゃない」

「姉ちゃん! 俺は俺だって! 一体全体何を言ってるんだよ!」

「いえ、甘南備台先生は、正しく真実を突いていらっしゃいます」

「ソフィか!? 話し言葉が片言じゃないぞ?」

「あれは、ディーゴの存在を強調するための、フェイクです」

「比較言語学専攻の鶏冠井すらまんまとだますとはね。さすがソフィ。で、肝心の醍醐だが、ずっとあの体にいるんだろ? ()()()()()()()()()()()()に」

「そうです。先生」

「やはりな。なら、ソフィは()()()()()()んだ。これ以上はあたしから問い詰めない。ソフィ自身の言葉で話してやってくれ、醍醐や、鶏冠井に分かるように」

「はい」



◇◇◇


「初めて運動量保存コンサーベイション・オブ・モーメンタム……その時はまだその名前はありませんでしたが、異世界から魂を召喚しそれをエネルギーに変える魔法を使ったのは、本当に偶然でした」

「だがそのエネルギーの源泉は、異世界人……こっちの世界の住民、椥辻(なぎつじ)醍醐の魂そのものだった」

「そうです。魂は大半が消費され、消滅してしまいました。私は、異世界の人を魔素(マナ)に変換してしまったことに気づき、何とか助けようとしました。その時、異世界の魂の記憶が私に転写されていることを知りました。そこで、私の中で、その記憶と、わずかに残った残骸を組み合わせ、魔素(マナ)の力を使って魂を再生しようとしたのです」

「消滅した魂を、わずかな残骸をコアに、記憶を練り上げ、まるで消失したときの逆再生のように蘇らせようとしたんだね」

「そうです。でも、何度も失敗しました。私の時空魔法だけでは、魂を完全に再生できません。何度やっても、ある程度魔素(マナ)が集まったところで、暴発してしまうのです」

「それが運動量保存コンサーベイション・オブ・モーメンタムの正体、というわけだね」


 俺は会話に割り込んだ。


「え、ちょっと待ってよ。俺あっちとこっちを何度か行ったり来たりしているぞ。話が合わなくないか?」

「再生の過程で、可能性を求め何度か魂の残骸をこっちの世界に戻そうとしてみました。けれど、私の中に記憶のコピーがあるので、どうやっても遠隔操作では肉体に定着することがなかったのです」

「戻ってきたわけじゃなくて、こっちに()()()()()()()()()()()()()()、ということか」


 ソフィは俺ばかりが召喚されるのは、魂に術式が刻まれたからと言っていた。


 ある意味それは本当だ。

 俺の残骸は、ずっとソフィの中にいたんだ。


「考えうる最後の手段は私の肉体ごとこちらの世界に跳び、こちらで魂を再生することでした。幸いにして魔素(マナ)に近い電素(セル)の存在は、異世界の知識と記憶でわかっていました。後はご存知のとおりです」

「いや、あたしは分かるが、それじゃ醍醐たちに肝心のことが伝わらないよ。あんたは、()()()()()()んだろ?」

「はい、異世界転移の際、時空が大きくずれる力を利用して、魂を肉体に定着させました」

「え?」


 じゃあ、今ソフィの中にいる俺は、一体?


「肉体の中で、魂の残骸は着実に再生しています。まもなく、目を覚ますでしょう。それで、私の罪が軽くなるとは思いませんが、懺悔の区切りはつきます」

「ソフィ、あたしが言わなかったらそのまま去るつもりだっただろ! 懺悔だの、区切りだのって、あたしたちは、そんな関係だったのかい!?」

「確かに、これで女神様が去って、醍醐さんが目を覚ませば、私は表の物語を信じてしまうところでした。まさか全部女神様のシナリオだったとは!」


 いやいやいや、だから俺は?


 俺、誰?


「さすがは女神様です。余りの深謀遠慮、感服いたしました」

「鶏冠井よ、あんたはもう全部分っただろうが、一人分かってないのがいる。なあ、醍醐。いや、ディーゴ」

「そう、俺だよ俺! じゃあ俺って何!? アイデンティティの喪失状態なんだけど!」

「あんたは醍醐の仮人格。『ディーゴ』だよ」


 は?


「醍醐の魂が再生するまで、醍醐として行動するようソフィに転写された記憶で作られたコピー人格。というか、ぶっちゃけて言えばあんたはソフィだ。ソフィの魂の一部が醍醐のようにふるまっているのさ」


 え?


 ええええ!?


 俺がソフィ!?


「ごめんなさい、ディーゴ。でも、醍醐の自我と記憶を保存するためには、こうするしかなかったんです。醍醐の本来の魂は、あまりにもダメージを負いすぎていました。だから、私は私の魂の中にディーゴを作ったんです」


 俺は『ディーゴ』。


 発音しづらいからそう呼んでるんじゃなかったのか!


 初めからディーゴとして作られた、ソフィの別人格!!


 そんなあ。



「でも、先生、いつから気付いていたんですか? 私の()に」

「最初から、いろいろおかしかったからな。それこそ運動量保存コンサーベイション・オブ・モーメンタムの原理も、デジタル無双も、電素(セル)魔法の存在も。フリップ・フロップも上手くいきすぎたな。ソフィと醍醐じゃ双子とは言い難い。それに醍醐がやけにスムーズに魔法を覚えるのもおかしいし、その割にはソフィがいつまでも片言だったしな。あれは、キャラ作りすぎだ」

「すみません。醍醐とのキャラ分けを際立たせておいたほうが良いと思いました。やりすぎました」

「策士、策に溺れる、だな。まあ一番変だと思ったのは、醍醐を気にしすぎていたことだ。おっさん相手に()()()()()()()()に。ということは、醍醐に対して相当に重い負い目がある。それも意識がないというレベル以上の何か。としたら、半ば殺しかけた、しかあるまいよ」


 さすがは姉ちゃんだよ。


 真実はいつもひとつ!


 でもさ、本当の俺が目を覚ましたら、この俺は、どうなるの?


 ソフィの中で消えてなくなるのか?


 いや、俺はソフィだから消えてはなくならないだろうが、え? どうなるのマジで!?

まだ続きます!

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