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ある日世界がタイムループしてることに気づいて歓喜したのだが、なんか思ってたのと違う  作者: ジェロニモ
タイムループ編

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先生の手


 最近の僕は本を読む為に図書室へ足を運んでいる。しかし10分で本一冊を読み切れるはずもない。

 今回も図書室にある数少ない漫画の一つである「ちはやふる」を読み終わらぬ内にループして教室に戻された。めちゃくちゃ面白いだけに中途半端なところで読書を中断されてイライラが募る。

 

 ちなみに図書室は一階に位置しており、いちいち階段を三階分降らなければ本の続きを読めないのであまりのだるさに更にイライラが募る。

 ループする度に誰に向けるでもない怒りが蓄積されていき、今や爆発寸前というところで僕は真理に気づいた。

「あれ? わざわざ図書室に行かなくてもスマホから電子書籍買って読めばよくね」と。


 いくら電子書籍を買い漁ったところでループすれば使った金は返ってくるのだ。つまり図書室なんかに収まっている本とは比べものにならない量の本を僕は実質無料で読み放題なわけである。


 この真理にたどり着いた時はあまりの嬉しさに、教室で甲高い奇声をあげながら飛び跳ねて、クラスメイトから白い目で見られた。ついでにまだ教室を出ていなかった星野先生に「大丈夫?保健室行っとこうか?」とガチトーンで心配され、至近距離でおでこに手のひらをあてがわれて熱を確認されるという神シチュが発生した。じんわりとおでこに先生の熱が広がる。……これが人の温もりというものか。


「ははは、はい。大丈夫でしゅ」


 対する僕は童貞ムーブで皆の笑いを誘うこととなった。度重なる奇行で変な目で見られることには慣れていた筈だが、今回ばかりは恥ずかしくて死ぬかと思った。

 

 その後、僕はループの度にわざと奇声を発して、先生によるおでこ手のひら当て熱確認の神シチュを再現しまくった。   

 三度目くらいから童貞ムーブをすることなく先生の手の感触を楽しめるようになった結果、先生の手は柔らかくて良い匂いがすることがわかった。

 毎回最後に「君、もしかしてお兄さんとかいる?」とものすごい剣幕で聞いてくることだけはどうにかしてほしかったが。


 神シチュ再現は9回目から先生を騙している罪悪感に耐えきれなくなったのでそれ以上はやっていない。けれどなんだか幸せというものが何なのか少し分かった気がする。あと彼女欲しくなった。むしろ星野先生を彼女にしたい。


 しかし、そういえばループし始めた頃、星野先生にも告白してフラれたんだったということを思い出して絶望するハメになった。ちくしょう。新しい出会いが欲しい。

 そんな僕の切実な願いは、活動範囲の制限されたこのループ世界では叶うことのない望みだった。


 そもそもの問題、関係の変化はこのループの中では起こりえないのだ。僕が皆に向ける感情が変わっても、皆が僕に向ける感情が変わることはない。

 

万が一、いや億が一に十分の内に好意を向けてくれる女の子がいたとしても、次の十分にはその感情は綺麗さっぱり元どおりである。


……僕は電子書籍を読み漁ることで、迫り来る虚無感を誤魔化した。



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