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「本当に今、家業を継ぐ気はないんだな?」
「今のところはないね。落第しそうになったら考える。」
「もう一度だけ言おう。大学は地獄だ。あふれるほどのリア充や取り残された孤独感、ぼっちに対する偏見などお前にとっては苦痛でしかないだろう。それでも行くというのか?」
「それは親父のことだろう。俺は大丈夫だから安心してくれよ。」
とある玄関先で行われる親子の会話。そこには大学デビューを失敗した父と高校生に毛が生えたレベルの息子がいた。しかしその隣に置かれた狛犬が彼らの境遇を物語る。
「では神司はパパがもうしばらく務めよう。明石は頑張って勉強するんだぞ。」
「へいへい。仕送り忘れるなよ。」
明石という名前の息子はぼやきながらも、父親と最後の握手を交わした。さて、もう少し説明をしなければならない。彼らは門司家。三大神社が一つ、加来神社を治める家だ。現在は父の初野が頭首だが、次になるのは一人息子の明石なのだ。
一つため息をつくと明石は狛犬に手をあてて、別れの言葉を切り出す。
「あー、狛犬さん。そういうわけで3年くらい離れることになった。すぐに
戻るよ。」
明石は小さい頃から、ものには命が宿ると教わってきた。それは門司家の伝統的な教えとなっている。単に物を大切に扱えというわけなのだが、ものは言いようである。いい大人になっても続けている時点で、それがどれほど染みついているのか分かる。
が、、、、突然触れていた手に衝動が走り、明石は手をひっこめた。火傷をしたかのような感覚を覚え、思わず手を振り回す。
「おいおい、やっぱり大学行かない方がいいんじゃないか?お前自身気づかないでいないのかもしれないが、禁断症状的なものでてるぞ。」
初野のばからしい気遣いよりも明石は内なる声に耳を傾けた。
(ひ、ひゃん。振り回さないでくださいまし~)
俗にいう脳内再生を行い現実を再認識した明石は、思わず言葉を発する。
「誰だ?誰かいるのか?」
「おい、明石?大丈夫か?パパだよ、門司初野。ついに頭おかしくなったのか?」
(あっ、ダメです!明石様の滞在地まで私の存在を知られてはいけないのです!)
「え、言っちゃっていいのそれ?」
「まさか自覚してたのか?こりゃあ、パパも一本とられたなぁ。」
(そ、そうでした。と、とにかくまた現れますので一旦忘れてくださいまし~~)
「ちゃんと説明しろよ?霊ならちゃんと成仏できるように準備するから。あ、親父。俺は平気だからちょっと護符頼む。何が出るかわからないしな。」
「もうパパは会話についていけないよ...」
数分後、明石は加来神社を生まれた場所を後にした。階段を下る途中明石は口を開く。
「で、そろそろ聞きたいんだけど君は誰だい?」
(はい!狛犬の付喪神であります、えーっと名前は...ポチ。ポチと申します。これよりは明石様の監視役を務めさせていたただきます!)
くだらない霊に取りつかれたと明石はあきれつつ、これからの生活を嘆いた。 続