泥だらけの決着
オートジャイロの回転翼の音が近くなり五十メートル離れた位置に着陸するのが見えるとアオキがエルヴァにこちらに向かうように話しているのが見えたがエルヴァが動こうとしないのでアオキがエルヴァを抱えてこちらに近づいてくるとアキモトも二人に近づいて歩き出した。
「待て!、そこで止まれ!」
アオキが怒鳴るとアキモトのロボットが足を止めた。
「お前が握っている男を放せ、そうすればこっちもこの子をそちらに行かせる」
「同時に交換というわけだな?」
「そうだ!」
コシミズは身体をなんとか捻って背後のロボットを操作しているアキモトを見た、暗闇の中でも分かるくらいコシミズを睨んで顔に憎しみが浮かんでいたが大人しくコシミズを地面まで下ろして手の平を開いて解放した。
「そいつをこっちに渡せ!!」
「わかった!!」
アキモトにアオキは怒鳴るように返事をして目の前のエルヴァの背中を強引に押すとトボトボと歩き出したのでコシミズも同じくらいの速度で歩きだしながらヘルメットの中で小声で囁いた。
「アオキ、聞こえているか?聞こえてたら右手を閉じたり開いたりしろ」
アオキは右手の掌を何度も握ったり開いたりした。
「よし、俺が叫んだらオートジャイロまで走れ、ロボットの男は絶対俺達を殺す気だ、俺ならそうする」
言っているとエルヴァとすれ違い思わず顔を見ると今までは無表情だったが今は目を潤ませ涙を流していた、その姿が心に重く圧し掛かった。
「エルヴァ、お前はあそこに戻りたくないのか?」
エルヴァはコシミズの問いには答えす唇を噛んで更に涙を流し続けた。
(どうやら行きたくないらしい・・・・、このまま逃げるくらいならこいつを盾に逃げるのもありかもしれないな・・・・)
コシミズがアオキを見るとやろうとしていることがわかっているのか頷いていた、深呼吸をして肺に新鮮な空気を送り込むと背後から声が聞こえた。
「おい、足を止めるんじゃない!、さっさと歩け!!」
言いながらロボットの歩く音が近づいてきたので素早くエルヴァを左手に抱えてロボットに乗るアキモトを見て叫んだ。
「こいつがどうなってもいいのか?!、後ろに下がれ!!」
だがアキモトのロボットは近づいてきてコシミズを捕まえようと腕を伸ばした。
「あぶねぇ!!」
思わず声を出しながら後ろにジャンプして避けたつもりだったがロボットの指先がわき腹に当たり体に痛みが走るのと同時に弾かれるように草むらに倒れた。
「おとなしく逃げれば楽に殺してやったのにな」
言いながら脇に抱えていたエルヴァを強引に奪い取るとアキモトは操縦席にいる自分の所に持って行きロボットの千切れて操作する用が無くなった左腕でエルヴァをしっかりと抱え上げるとエルヴァは苦しそうに顔を歪ませている。
わき腹の痛みを堪えながら起き上がろうとしたがアキモトのロボットが素早くコシミズを掴み上げた。
「ぶざまだな、小悪党、このまま潰されて死ね!!」
アキモトが気味の悪い笑いを浮かべると体が一気に締まって潰されそうになり体中の骨が軋み利田に響き思わず目を閉じた。
「コシミズ」
「お前は・・・逃げろ・・・」
声を搾り出しアオキに伝えるといきなり強引にヘルメットを脱がされ目を開けて前を見るとアキモトの顔が目の前にありヘルメットを投げ捨てながらコシミズを見て笑って言った。
「潰す前に顔を見て置こうと思ったがやはりお前か・・・・、来世ではまともに生きるんだな」
うまい返事をしてやろうかと思うとアオキの捕まえているエルヴァが暴れ出し片手では押さえる事ができずロボットを操作している腕にエルヴァの暴れている手が当たるとコシミズを握りつぶそうとしている手の平の締め付けが弱くなった。
(今しかない!!)
両手を何とか出してロボットの手に両手をついて身体を引き抜きその上に立ち前を見るとアキモトもコシミズが逃れた事に気が付き慌ててロボットを操作しようとした。
「させるか!!」
叫び気合を入れて手から飛びアキモトに飛びかかりそのまま胸に膝を食らわせるとエルヴァを捕まえていた腕が緩んだのかエルヴァがロボットから足を滑らせて草むら落ちるのが見えたがコシミズは構わずに飛びついているアキモトのみぞおちを蹴り続けた。
「死ね!クソ野郎!!」
アキモトが叫びながらレバーを操作するのが見えたのですぐにアキモトから手を離し草むらに飛び降りてロボットの腕を避けた。
隣でエルヴァが足を捻ったのか自分の足を押さえたまま草むらに倒れているので急いで立ち上がり抱えようとした。
「させるか!!」
アキモトの声と同時にロボットの足がコシミズを潰そうとするので横に転がって避けたがすぐに逃げた先に足が振り下ろされて潰され体が半分以上土に埋まった。
「車に轢かれたカエルにしてやる!!」
ヘルメットを外されたので体よりも先に頭が割れそうでミシミシという嫌な音が響く。
(終わった、さっさと逃げておけばよかった・・・・)
腕を振り回していると何かを掴み思いっきり引き寄せた。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
耳をつんざく様な女の子の悲鳴が聞こえたと思うとコシミズを踏み潰す圧が無くなりロボットを見るとコシミズを踏み潰している状態のまま宙にゆっくりと浮かび上がりアキモトが操縦席で必死にレバーを動かしているのが見え、コシミズは身体に力を入れて半分埋まった地中から抜け出ようとして先ほど掴んだ物を見ると近くにいたエルヴァの足で掴んでいてちょうど掴んだところが痛いようで涙を流しながらコシミズの掴んだ手を叩いた。
「わるかったな」
言いながら手を離すとロボットを操縦していたアキモトが操縦席のベルトを外してロボットから飛び降りてそのままコシミズを両足で潰そうしてきたので何とか穴から出て横に転がって避けた。
「アオキ!!」
コシミズが叫ぶと待っていたかのようにミサイルの発射する音が聞こえ慌ててコシミズがエルヴァに覆いかぶさると宙に浮かぶアキモトのロボットが爆発した。
アオキ特性の戦闘服を着ているので爆風の熱は大丈夫なはずだがヘルメットを脱がされているので爆発と同時に耳が聞こえなくなり顔をなめるように灼熱が包みこんだ。
そのまましばらく動かずにいるとエルヴァが逃れようと暴れだしたので覆いかぶさるのを止めて目を開けすぐにアキモトを探した。
だが、コシミズの周りには飛び散ったロボットの破片が散らばっていて中には炎を上げている物もあった。
「コシミズ!!」
遠くで呼ぶ声が聞こえたのでそちらを見るとオートジャイロを地上に着陸させたアオキがこちらに心配そうに近づいてくるのが見えたのでゆっくりと膝を付いて立ち上がった。
「大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫ではないけど生きてるよ、アオキの戦闘服のおかげで助かった、コレじゃなければもうとっくに死んでる」
「だろ」
最初は心配そうな顔をしていたアオキだがコシミズが戦闘服をほめるとすぐに得意の笑みを浮かべた。
「ちょっと背中を見せてくれ、さっきのロボットの爆発でどうなったか見てみたい」
「それは後でいいだろ、それよりもエルヴァを運んでくれ、足をくじいたみたいだ」
「わかった、後で必ず見せろよ」
アオキは言いながら足元で草むらに座っているエルヴァの前に座り込み背中を向けた。
「乗れ、早くしないとさすがに警察が来る」
エルヴァはどうすればいいのか分からないのかコシミズを見た。
「どうした?」
アオキも後ろを振り返ってエルヴァを見た。
「しかたない」
節々が痛む身体を折り曲げ倒れているエルヴァの身体を起こし手をアキモトの首に巻きつけて握らせてアオキが立ち上がりるとエルヴァの足がぶら下がったので足を掴んでアオキに掴ませた。
「よし、OKだ」
アオキが言うと駆け足でオートジャイロに向かったので後にづついた。
「おーい、私も連れて行ってくださいよー、お願いです、助けてくださいよ・・・」
聞き覚えのある声が聞こえコシミズが声のしたほうを見るとブサイクなぬいぐるみがロボット何かの部品が突き刺さり黒くすすをかぶり草むらに落ちているのが見えた。
「あっ」
めったに声を発しないエルヴァが声を出してぬいぐるみを見ていたのでため息を付いた。
「俺が取りに行くから先に行ってくれ」
「わかった」
ぬいぐるみまで走っていくとぬいぐるみは思ったより焦げて中の綿も燃えているのか煙が出ていた。
「来てくれたんですね、ありがとうございます」
「お前、煙が出てるけど大丈夫なのか?燃えてないよな?」
「私は自分の身体の中を見ることが出来ないので確認おねがいします」
聞きながら刺さっている部品を引き抜いて煙の上がっている場所を見たが火のようなものは見えなかった。
「大丈夫みたいだな、どっか壊れてるんじゃないのか?」
「そうかも知れませんが、ここにいてもどうにもなりません」
「たしかに」
言いながら振り返ると全身を炎で焼かれ顔の肌の一部がやけどで水ぶくれのようになったアキモトが立っていた。
「おれの勝ちみたいだな、俺はお前の相手なんかするつもりないから失礼するぜ」
「おれは・・・お前たちのせいで・・・・俺の人生・・・・俺の・・・・俺の・・・・」
何かを言っているがコシミズは無視してアオキの所に向かおうとしたがアキモトが道を塞いだ。
「お前だけは!!!!」
叫びながらアキモトが腰から拳銃を取り出してコシミズに向けたので思わず持っていたぬいぐるみを拳銃を持つ手に叩きつけると発砲音と共に足元の土が舞ったが構わずに一気に近づきぬいぐるみを捨てて拳銃を掴みながら体当たりをするとアキモトは拳銃から手を離して草むらに倒れた、アキモトは浅い呼吸を繰り返し爆発で出来たヤケドは皮がめくれて血を流して動かなくなった。
拳銃を向けながら落としたぬいぐるみを拾い上げた。
「どうやらもう限界だったみたいですね、虫の息といった感じでもう動けないでしょう」
「そうだな」
言いながら拳銃を投げ捨てた。
「殺さないんですか?あなたを殺そうとしてた奴ですよ?もし助かったら面倒になりますよ?」
「確かにそうかも知れないが、俺達は殺人集団じゃないんだ、悪の秘密結社なんだよ、人殺しなんてしないさ」
「いや、違いが分からないんですけど」
言いながらオートジャイロに向かって走った。
「止まれ!!」
女性の声が聞こえ振り返るとそこには病院の入院服のような服をきた金髪の赤い目の女性が拳銃をこちらに向けていた。
「今度はお前か・・・・・」
「お前達、悪の秘密結社KA団とかいったな・・・・」
「あぁ、そうだ」
返事をすると女性は倒れて虫の息のアキモトを見た。
「その人形とガキは一時お前達に預けるとしよう、だが必ず私が奪いに行く、それにこの男は私がもらっていく」
「そいつに殺されかけたからどうぞご自由にしてください」
コシミズが丁寧に言うと女性は倒れているアキモトの襟を掴んで引きずりながら研究施設の方に向かって行った。
「よかったですね、いま争ったら確実に負けますよ」
「知ってるよ」
ブサイクなぬいぐるみに返事をしながらオートジャイロまで戻るとアオキが運転席でエンジンを掛けて座りいつもコシミズが座っている副席にはエルヴァが座っていてコシミズが持っているぬいぐるみに気が付くと両手を伸ばしてきたので渡した。
「エルヴァさん、無事でよかったです」
ぬいぐるみが喋っているが構わずエルヴァは抱きしめた。
「俺はエルヴァを抱えて乗るしかないみたいだな?」
「あぁ、元々二人乗りだからな」
「ちょっとごめんよ」
言いながらエルヴァを抱えてコシミズが座りエルヴァを自分の上に座らせた。
「なにするんです、変な事しないでください」
ぬいぐるみが何か言っているが無視して乗るとシートベルを念のためつけた。
「準備できたぞ」
「OK、離陸する」
一気にメインローターの回転が高まりジャイロコプターが一気に浮かび上がり草むらから遠ざかるのと同時に警察のパトカーがサイレンを鳴らしながら近づいてくるのが見えた。
「騒ぎすぎたな」
「そうだな、もっとスマートにやるつもりだったけどな・・・、でもコレじゃアオキのロボットが・・・・」
「仕方ないな、やりたくないが自爆させるか・・・」
アオキが悲しそうに言い何かを操作するのを後ろから見てコシミズは乗っていたロボットを見ると爆発を起こして赤黄色の炎を巻き上げながらバラバラに砕け散るのが見え爆風でオートジャイロが揺れ思わず膝上に座っているエルヴァを掴んだ。
「なに掴んでいるんです?セクハラで訴えますよ?ねぇ、エルヴァさん?」
「帰ったらバラバラにしてやるから好きにしろ」
「え~、勘弁してくださいよ、それに私スーパーコンピューターですよ、あなた達の数倍頭がいいんですよ、そんなバラバラになんてしないでくださいよ~」
ぬいぐるみが懇願するように言ってきたが無視してアオキに向けていった。
「アオキ、ロボットのことだが・・・・、すまない・・・」
「いいって、金が無いからすぐには代わりのものは作れないが次はもっといいのを作るぜ、それこそお前が好きなアニメみたいに合体するやつとかな」
「あぁ、頼むぞ」
それから三人は警察に見つからないように慎重に基地に戻った。