プロローグ2
翌日の午前十一時の駅前でコシミズと緑色の髪の女の子のエルヴァはベンチに座って足早に歩いていくサラリーマンやOLや学生のような人々が歩いていくのを見ていた。
朝起きてコシミズとアオキは話し合った結論としてアオキはあのブサイクなぬいぐるみの解体というか分解して中の機械を取り出す作業を進め、コシミズはエルヴァを身元がばれないように警察に保護させるのが目的だ。
秘密基地を出るときに鏡で殴られた所を確認してきたが体の節々は痛むが青あざになっているようなところはなく顔も異常がなくいつもの見慣れた顔だった。
近くの立体駐車場に車を止めて駅前まで来たがどうしたものか、隣に座っているエルヴァは目の前を通る人々や車をジッと見ていてその顔を見ているとアオキが言っていたことを思い出す。
このエルヴァって呼ばれてた子供は変わってるだけでなく様子もおかしいし会話にならない、この子供にも何か秘密があるんじゃないか?といっていた、たしかに俺も怪しいと思うがここでお別れなので必要以上に話を聞かないのが身のためだ。
隣を見るとエルヴァの顔が動き何かに目を奪われているようなので視線の先を見ると大学生のような男女がコンビニで買ったようなアイスクリームを食べながら歩いているのを見ていた。
「あれがほしいのか?」
コシミズが聞くとエルヴァは大学生を見たまま頷いた。
「アイスを買ってきたら大人しくあそこの警察に行くな?」
聞いたが返事をせず黙ったままであった、思わずため息を付いたがコシミズも昨日の夜寝る前に飲んだアルコールが残っているのか殴られすぎたのか喉に違和感を感じるので何か飲み物がほしい。
「そこのコンビニで俺は飲み物とアイスを買ってくるから大人しく座ってるんだぞ、分かったな」
エルヴァが頷いたの確認して駅前にあるコンビニの中に入った。
(このアイスを食べさせてさっさと警察に行かせよう、帰ったらアオキはあのぬいぐるみを分解して解析しているだろうから俺は帰ったらダーク○ウルⅢでもやるかな、最近歳を重ねたせいか若い頃よりもゲームの集中力や根気というか長時間続けることが出来なくなって全然進めないので今日はすすめよう)
そんなことを考えながらアイスクリームとペットボトルのお茶を買いコンビニを出てエルヴァを見るとアイスクリームがよほど楽しみなのか黙ってこちらを見ていた。
(そんなにアイスが好きなのかよ)
コシミズはお茶のペットボルトを開けて一口飲んでからエルヴァに近づいた。
だが、コシミズよりも早くエルヴァの前に三人の黒い服の男が現れるとベンチに座っていたエルヴァに手を伸ばすのが見え思わず足を止めて様子をみた。
エルヴァを救出に来たのかと思ったがエルヴァは差し出された手を握ろうとも黒い服の男達と視線を合わせようともしない、痺れを切らせた黒い服の男達の一人が強引にエルヴァの腕を掴み連れて行こうとしたがエルヴァはイヤなのか抵抗しているように見えた。
(その様子を見ていると何故か心が痛くなってくるが、元々居た所に帰るだけだ、俺が関ることではない)
自分に言い聞かせていると異変に気が付いた通行人の人だかりがエルヴァ達の周りに出来始めた。
「見てんじゃねぞ!」
「たまるんじゃね!」
怒鳴り声が聞こえると今度は怒鳴り声につられて異変に気が付いた制服を着た真面目そうな眼鏡を掛けた警察官二人組みが黒い服の男たちに近づいていと、黒い服の一人が警察官に気が付き何か話しかけるのが見えた、がすぐに黒い服の男が警察官に素早く掴みかかりコンクリートの地面に叩き付けるが見えると、もう一人の警察官が素早く無線機を掴もうとしたが警察官を叩きつけた黒い服の男が素早く警察官のみぞおち付近を思いっきり殴りつけ警察官は腹を抱えるように地面に崩れ落ち、それを見ていた周りの野次馬たちから悲鳴があがり我先にと逃げ始めた。
(俺も逃げるか)
逃げる人にまぎれてその場から離れようとすると駅前の交差点から一台の見覚えのあるシルバーのセダンの普通車が一台道路を逆走しながら駅前に近づいてくるので慌てて道路に飛び出して黒い車の前に出るとブレーキ音を鳴らして目の前に止まると運転席からアオキが出てきてその手にはブサイクなぬいぐるみが握られていた。
「コシミズ、よかった、無事だったか!」
「おまえ、そんな目立つような運転してどうしたんだよ、それにその手もっているぬいぐるみを分解してたんじゃないのか?」
「分解しようとしたんだがな」
するとブサイクなぬいぐるみが叫んだ。
「そんなことよりエルヴァさんは?」
「あの子はいま黒い服の男達が捕まえて抱えて逃げようとして警察に見つかって騒ぎになってるところだ」
言いながら振り返りエルヴァが抱えられ黒い服の男達が走って逃げるのを指差した。
「お前達何してるんだ!さっさと車をどけろ!」
道路に停車している車からスーツを着た四十代くらいの男が怒鳴りながら降りてきた。
「コシミズ、車に乗れ!後を追う!」
思わず振り返るとアオキが運転席に座りブサイクなぬいぐるみを助手席に投げるのが見え、コシミズは慌てて助手席のドアを開けてブサイクなぬいぐるみを持ち乗り込んでドアを閉めると車が急発進してバランスを崩してブサイクなぬいぐるみを潰した。
「グェ」
前を見ると先ほど車を降りてきた四十代くらいの男に向かって突き進み男も焦ったのか顔を引きつらせながら道路脇に逃げたが放置された車にどんどん近づいていく。
「おい!おい!おい!ぶつかる!ぶつかる!」
思わず叫ぶとアオキが急ハンドルを切り車を避けたがその後ろの止まっている車を避けようと横に出てきたタクシーにかすり背筋がゾクゾクする嫌な音が車内に響いた。
「おい!、アオキ!」
「いいから黙ってろ!」
アオキが怒鳴り他の車の間を抜けようとしたがアオキが道路を逆走したせいで車の流れが完全に止まり先に進むのに時間がかかってしまうと判断したようですぐにコシミズが先ほどまでいたコンビニの前の歩道に乗り上げて歩道を進むと通行人たちが驚きながら逃げていく。
「おい、一体どうしたんだよ!、何であのガキを追うんだ、説明しろ!」
逃げてく通行人たちを見ながらコシミズが顔を引きつらせて叫んだ。
「私が説明しますから潰すのを止めてください」
ブサイクなぬいぐるみの声が聞こえ見るとシートベルトをしていない身体を固定するためにぬいぐるみを持った手でダッシュボードを押さえていたので押さえるのをやめた。
「はやく、分かりやすく説明しろ!」
「はい、はい、わかりましたよ、簡単に言いますと私は最新の人工知能を搭載したスーパーコンピュータですが、私の目的はエルヴァさんの監視というか観察といいまして、本来のあの研究所の最高機密は私ではなくエルヴァさんなんですよ」
「なんですよって、あの無口な子供が最高機密って」
さらに続けて話そうとした瞬間にアオキが急ハンドルをきりコシミズは頭を思い切り助手席の窓ガラスにぶつけ鈍い音と同時に鈍い痛みがした。
「大丈夫か?」
「あぁ、俺は大丈夫だ?」
「違う、窓ガラスのほうだ!」
冗談で言っているのかと思いアオキを見たが真剣な表情で前を見て人を避けるように運転していて冗談ではなさそうだ。
「車も俺も大丈夫だ、それで何でエルヴァを追うんだ?人間なんてアオキの専門外だろ?まさか・・・」
思わず手に持っているブサイクなぬいぐるみを見た。
「あなたバカなんですか?エルヴァさんは人間ですよ、ですが・・・」
「追いついた!」
アオキが叫び思わず前を見ると逃げている黒い服の男達の背後に突っ込んで一人がフロントにぶつかり地面に倒れて車で乗り上げた。
「降りるぞ!」
返事をする前にアオキが運転席のドアを開けて飛び出したのでコシミズも慌ててドアを開けて飛び飛び出すとアオキが車に潰されている黒い服の男を蹴るとエルヴァを持っていない黒い服の男がボクシングのようなポーズを構えてアオキに殴りかかりアオキは肩を殴られ後ろに一歩下がった。
「アオキ!」
「いいから先に行け!!」
言いながらアオキが黒い服の男に蹴りを入れるがすぐに黒い服の男がカウンターのように殴りかかった。
どうするか迷っていると握っていたブサイクなぬいぐるみが話しかけてきた。
「行かないんですか?逃げられますよ!」
思わずぬいぐるみを強く握ってから前をエルヴァを抱えて逃げる黒い服の男に向かって走ったがエルヴァを抱えている黒く服の男との距離は縮まらなかった。
「私を振り回さないでください!」
ブサイクなぬいぐるみが叫ぶので思わずイラッとした。
「ならお前が止めろ!」
言いながらぬいぐるみを前を走る黒い服の男に向かって投げると男の背中に当たると走るのを止めて振り返りコシミズを睨んで来たので怒鳴った。
「おい、その子を放すんだ!」
エルヴァは必死に逃れようと手足をバタつかせているが黒い服の男は意に介さないようでエルヴァをしっかりと抱えたままコシミズが投げたブサイクなぬいぐるみを拾い上げた。
「まったく面倒な事をしてくれる」
黒い服の男のドスの聞いた声が聞こえた。
「じゃぁ面倒ついでにその子供とぬいぐるみを置いてどこかに行ってくれないか?そうしたら俺の持っているアイスをやるよ」
「ふっ、そんな物はいらない」
バカにするように鼻で笑われると遠くから道路に止まっている車を弾き飛ばしながら装甲車が近づて来た、思わずアオキを振り返るとアオキが地面に倒れ腹を蹴られながらも頭を両腕でカバーしているのが見えた。
(ヤバイ、ヤバイというかピンチだ、ピンチより酷い)
本当は逃げ出したいがアオキがあの状況じゃ見捨てて逃げる事になってしまう。
どうするか迷っていると装甲車が黒い服の傍に止まると後ろの扉が開き中からぞろぞろと同じような黒い服を来た男達が降りてコシミズとエルヴァを抱えている黒い服の男の間に割って入った。
エルヴァを抱えた黒い服の男はコシミズを無視して男達が降りてきた所から装甲車の中に入っていった。
「エルヴァさんからその汚いてを放しなさい、エルヴァさんはあなたみたいなクズ人間が触れていい人ではないんですよ」
ブサイクなぬいぐるみの声が聞こえるが反応している人は誰もいなかった、エルヴァを連れた男が装甲車内に入ったのを確認すると声が聞こえた。
「目標を確保した、ゴミを始末しろ」
(ゴミはたぶん俺とアオキだ)
目の前の黒い服の男達が一歩踏み出して近づこうとするのより早くコシミズは素早く方向転換をしてアオキに向かって走った。
地面に倒れているアオキを蹴り疲れたのかアオキを見下ろしているとコシミズが逃げてくるのに気が付きボクシングのポーズを構えてやる気満々で待ち構えていて背後は大勢の男が追いかけてくる足音が聞こえる。
「起きろ!アオキ!逃げるぞ!」
叫び声に反応しアオキは起き上がりながらポケットに手を突っ込んで黒い筒状のアオキが開発した小型のテーザー銃をコシミズに向かってボクシングのポーズをとっている黒い服の男に向けて発射すると男は身体を一瞬硬直させ身体を痙攣させながら地面に倒れ、アオキは身体を押さえながら運転席に乗り込むと車の向きを変え助手席のドアを開けて手招きした。
「コシミズ!」
アオキの叫ぶ声が聞こえコシミズが助手席に飛び乗るとドアを閉める前に車を発進させコシミズは思わず落ちそうになるが何とか席にしがみ付きドアを閉めた。
「大丈夫か?」
聞かれた途端に車が急に曲がり窓ガラスに再び頭をぶつけたが構わずに後ろを見ると黒い服の男達が走って車を追いかけ一人がトランクに飛び乗ったが周りの車を避けるために蛇行運転をしているためすぐに振り落とされ道路を転がるのが見えた。
「逃げろ!!逃げろ!!」
コシミズが叫ぶとアオキは止まっている車達を抜けて空いている道路をアクセル全開で一気に突き放して逃げた。
逃げ切ってから黒服たちの追っ手と尾行を振り切るため何回も赤信号を無視して車を進め何度かクラクションを鳴らされたがどうやら追っても尾行は無いようなので基地に戻り倉庫の中のオートジャイロの横に車を止めていつものようにリビングのソファに寝転んだ。