永遠の恩〈1〉
「中学2年生の夏。僕は、1匹の犬と出会った。」
「キーンコーンカーンコーン」
チャイムが鳴り、蜘蛛の子を散らすようにみんなは学校を後にする。
僕も、琉太と一緒に学校を後にした。
河口琉太とは、幼稚園の頃からの友達だ。高校も、同じところに通うつもりだ。
「海星。お前ん家、ペットとかいるか?」
琉太が訊く。
「ペット?いや、ペットなんかいないよ。」
いきなりどうしたんだろう。
「何で?」
「実はな、俺ん家の猫、昨日死んだんだ。」
「えっ?」
「婆ちゃんのとき以来だよ。あんな辛い思いをしたのは。」
「お、おい、マジかよ?」
「ああ。」
「そうか...。」
なんて言葉をかければいいのか、分からなかった。
そんな会話をしているうちに、僕は家に着いた。
「海星、また明日な。」
「おお、じゃあな琉太。」
家に帰ると、いつも必ず弟と妹が声をそろえて言う。
「お兄ちゃん、お帰り。」
「ああ、ただいま。」
リビングから母が言う。
「お帰りなさい。」
「ただいま。」
横浜にある僕の家は、両親と、弟と妹、祖父の6人家族だ。祖母は3年前に天国へ行った。
僕は横浜市立萩本中学校に通う、中学2年生だ。僕は蓮香町にある、花見台団地に住んでいる。また、中学校では吹奏楽部に所属しており、昨年は、うちの吹奏楽部はコンクールで大きな賞を獲った。そのことで、家族と先生にしつこいくらい褒められていた。
その夜、僕は琉太の不可解な質問について、色々と不思議に思ったが、答えを導き出せないまま布団に入った。
梅雨が始まった。
定期テストが迫っていたせいで、僕は焦りとイライラでいっぱいだった。
休み時間中、突然、誰かに呼ばれた。
「立川くん。」
ふり返ると、そこには桜がいた。
高宮桜は、小学5年生のときの同級生だ。
元々、海星や琉太がが通う「蓮香第二小学校」の他に、蓮香町には「蓮香第一小学校」と「蓮香第三小学校」、「河山小学校」の4つの小学校があった。しかし、蓮香町では近年、少子高齢化が問題となっており、クラス数も蓮香第二小では1年生から3年生は1組しかなかったため、市の判断で3年前にやむおえず4校を統合させ、新しく「蓮香小学校」を開校することになった。校舎は、旧蓮香第三小の校舎を増設して使うことになった。
桜は河山小出身だから、桜とは小学5年生以降の付合いということになる。僕は桜のことが、前から少し気になっていた。
「何、桜?」
「あのさ、立川くんの家って一軒家だっけ?」
桜が訊く。
「ううん、団地。」
「立川くんって、動物好き?」
「う~ん。どうだろう。嫌いではないよ。」
「ふぅ~ん。わかった。」
「どうしたの?」
「いや、別に。何も。立川くんには関係無いから。」
桜が気落ちしたように言った。
「そ、そうか。」
僕は、どう反応していいか、分からなかった。
そして桜は、僕に背を向けて教室の外へ出ていった。




