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ヴァイオリンはカノンとともに  作者: 九童
第1章 夢、それ即ち。
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0 ユメ

 明日は新学期。

 僕が新しい学校に初登校する日でもある。

 持ち物、良し。

 制服、良し。

 何度も何度も明日の準備を確認した。

 でもやっぱり、

 笑顔、微妙。

 緊張と不安な気持ちを抱えたまま、僕は眠りについた。



 これは、夢だ。間違いない。

 見たことのない景色、見たことのない建物。

 あちらこちらで音楽が鳴り響いている。人々が踊っている。

 みんなが、とても綺麗な笑顔を浮かべている。

 僕は随分と賑やかな夢を見ているらしい。

 そして僕は、誰かに手を引かれている。

 「ほら、こっちだよ。」

 振り返ったその人も、頬にえくぼをくっきりと浮かべて笑っていた。

 男か女か分からない中性的な顔つき。僕よりも少し小さい背丈のわりに、僕の手を引く力が強い。

 そして何よりも目を引くのは、耳。

 どこかのマンガだかで見た、先がちょっととんがった耳。悪魔だったか、妖精だったか。その耳には、淡い蒼色を放つピアスが光っていた。

 踊って歌う人混みの中をかき分けて進むその子に声をかけた。

 「どうしてこんなに賑やかなんだ?」

 「え?主役が何を言ってるのさ!」

 「…え?」

 僕もその人もきょとんとした顔をしていたが、その足は止まらずにある方向へと向かっている。

 全然状況が読み込めなかったが、さらに足早に進むその人に付いていくのに精いっぱいだった。

 「ちょっと、どういう…」

 「ほら、着いたよ!行ってきな、我らが×××!!」

 「え、何ちょ、うわ、」

 急に止まったかと思えば、強い力で背中を押されて足がもつれた。が、なんとかこらえて踏みとどまる。

 後ろを見るとその人はガッツポーズをして人混みの中に消えていってしまった。

 …結局、何を言ったのか。そしてこの状況について詳しく聞く間もなかった。

 周りを見渡すと、人の囲いでひらけた場所に一つの椅子があった。その椅子に何かが飾られている。

 吸い込まれるように椅子まで歩いていく。が、飾られている何かはモザイクがかかったように黒い靄がかかっていて分からない。

 なんだ、これは。

 チラっと横目に見ると、たくさんの人々がこちらに注目している。

 誰もが、今か今かと心待ちにしているような、そんな眼差しで。

 僕はそっとその靄の中に手を入れた。

 その瞬間。


 ―お前が俺の主か。


 頭の中に響いた声は、軽やかに弾んで確かにそう言った。

 嬉しそうに、ワクワクとした声で。

 僕がびっくりして手を引っ込めた次の瞬間。

 視界が暗転し、深い穴をどこまでも落ちていくような感覚に陥った。

 


 そして、僕は目を覚ました。 

 窓を見ると、遮光性のカーテンの隙間から太陽の光が差し込んでいた。

 カーテンを開けて、朝日を浴びる。

 目が覚めて思考がすっきりしたところでふと時計をみると、針は7時40分を指していた。

 僕は背筋が凍るのを感じた。

 8時15分までに学校に行かねばならない。家から学校まで自転車で20分程。だが、初めての登校で道に迷うかもしれないと考えると。

 やばい、間に合うだろうか。いや、間に合わせる。

 初日から遅刻とかごめんだ。

 急いで汗でびっしょりとなった僕の服を脱ぎ捨てて、シャワーを浴びる。

 そして真新しい制服に袖を通した。

 髪は自転車こいでいるうちに乾くと信じてる。

 鍵をかけて、無我夢中に自転車をこいだ。

 夢のことはもう、頭になかった。

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