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そらいろ  作者: ましの
8/8

地球

 シャトルは、広い草原の丘に降り立った。

 堅いドアを開けるとき、カズキが心配そうに「大丈夫なの?」と、センゴク教授を見上げていた。きっと、【嵐】を心配しているんだろう。

 けれど、センゴク教授は、にっこりと笑っている。

「心配はいらんぞ。今日の【地球】はとても穏やかじゃ」

 ぼくはわくわくが止まらなくて、早く外に出たくて仕方がなかった。

 だから、ドアが開いた瞬間、ぼくは一番に走り出していた。

「うわー!」

 目に見える世界の半分が、真っ青だった。あの【地球儀】と同じ、ラピスラズリの色。【群青の空色】。

 ぼくが想像していた青い空よりもずっと、高くて透明でどこまでも終わりなく続いている。

 白く浮かぶ【雲】が、ぷかぷかと揺れている。もしかしたら届くんじゃないかと、手を伸ばすけど、【雲】はずっと高いところに漂っていて、捕まえられない。

 これが【地球】! これが青い空!

「どうじゃ、ヒロト? 本物の空はどんな感じがするかの?」

 気が付くと、センゴク教授が隣に立っていた。

「真っ暗な空とは、ぜんぜん違うよ! すっごく広くて、ひとりぼっちじゃないって思える!」

「ヒロトは、ひとりぼっちなんかじゃないだろ? おれも、センゴク教授もいる」

『ボクもいるよ』

 テンテンが、ふわりとぼくの肩にとまった。

「そうだね。テンテンもいる。でもぼくは、ダイダロスシティの真っ黒な空を見上げるたびに、ひとりぼっちになったようで怖かったんだ」

 ぼくは胸いっぱいに、空気を吸い込んだ。

「おじいちゃん。【地球】の青い空だよ」

 そう言って、テンテンをそっと取り上げた。

 おじいちゃんに青い空を見せてあげようと、テンテンのお腹をそっと外す。白い灰がいっぱいに詰まっている。

 そのとき、びゅーっと強い風が吹いてきた。

「あっ!」

 慌ててテンテンのお腹を押さえたけれど、おじいちゃんの灰は風にさらわれて、高く空に昇ってしまった。

「おじいちゃん!」

 いつもぼくたちと一緒にいてくれたおじいちゃんが、いなくなってしまう!

 そう思うと悲しくて、涙がポロポロとあふれてきた。ぼくは上着のそでで何度も涙をぬぐった。泣かないって決めたのに!

「ヒロトのおじいさんは、【地球】に帰って行ったんじゃよ」

 センゴク教授がぼくの手から、そっとテンテンを取り上げた。開いたままだったお腹をしめて、空に放つ。

 テンテンはふわふわと飛びながら言った。

『ねえ見て、ヒロト。ボク、本物のてんとう虫みたい?』

 くるくると円を描きながら飛ぶテンテンは、嬉しそうだ。いつか描いた、青い空を飛ぶテンテンの絵と、同じだった。

「見てごらん、ヒロト」

 センゴク教授が空を指さした。

「おじいさんは、ヒロトにありがとうと言っておるぞ。ヒロトも、ちゃんとあいさつをしないといけないの」

 見上げると、空は青と茜色が混じり合っていた。白かった【雲》】も、うすい桃色に染まっている。

【夕焼け】だ。さっきまで頭の上で輝いていた太陽は、空の端っこでだいだい色の光を放っている。

「お祭りみたいだ」

 カズキが空を見上げて、ぽつりとつぶやいた。

「本当に、【地球】はいつでもにぎやかなんだね。おじいちゃんは、星じゃなくて、【地球】になったんだね」

 ぼくは大きく息を吸い込んで、出来るだけ高くまで届くように、大きな声で叫んだ。

「おーい! ぼくはここにいるよ! おじいちゃん、そこからぼくが見える?」

 良く見えるように、大きく手を振った。どんなに遠くても、ちゃんとぼくが見えるように。

 やさしい風がそよそよと吹いて、ぼくの髪をふんわりとなでた。

 空は、キラキラと光る太陽を飲み込んで、どんどん茜色に染まっていく。まるで、ほほえんでいるように。

「見えているよ」

 おじいちゃんがそう言っているように、ぼくには見えたんだ。




 ねえ、そこに広がる空は、どんな色をしている?

 どんな顔をして、君を見守っている?

最後までお付き合いいただきありがとうございます。


「そこからぼくが見える?」をテーマに書いた物語です。

どうしてもこの台詞をヒロトに言わせたかったりしました。

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