表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そらいろ  作者: ましの
7/8

シャトル

 モップは長い廊下を抜けて、玄関のドアを器用に開けると、小さく空いたすき間から外に出て行ってしまった。外は「夜週」のせいで薄暗い。

 ぼくはポケットに入れていたテンテンを取り出す。光る目をライトの代わりにして、薄闇の中にぼんやりと見えるモップの姿を追った。

 テンテンが『どうしたの?』と眠たそうに声を上げるので、ぼくは慌ててテンテンを黙らせた。

 モップは、ぼくたちの追跡に気がついていないようで、背の低い生け垣を抜けて、柔らかな芝生の庭を横切って行く。

「おい、見ろよ!」

 カズキが小さな声で指さした。

 モップが木陰にうずくまって何かしている。けれど、暗くてよく見えない。こっそりと近づいてみると、何かがライトの光に当たって、キラキラと輝いている。

「あー!」

 ぼくは思わず叫んだ。

 しっとりとした土を掘り返した穴の中に、色とりどりの小さなかけらが埋められていた。

「モップ! 【地球儀】のかけらは、お前が持って行っていたのかい?」

 モップはぼくの声にびくりと体を震わせると、「ワンッ」とひと鳴きして、お屋敷の方に走って行ってしまった。

 ぼくたちは大急ぎで穴の中に埋まっていたものを掘り出す。そこから、両手いっぱいのかけらが見つかった。

 それだけじゃない。他にも、ピカピカと光る小さな車のおもちゃや銀色のスプーン、大きな宝石のついた指輪。

 モップは、きれいなものをこっそり穴に埋めていたんだ!



 ぼくたちは埋まっていたものをお屋敷に持ち帰って、ひとつひとつていねいに、土を払い落とした。

 それを見ていたテンテンが、ふわりふわりと飛びながら、近寄ってくる。

『ねえ、その指輪についている石は本物? とっても高価なものだよ! ダイヤモンドって言うんだ!』

 珍しくテンテンが興奮している。

「モップはいけない子だね! 大切なものを埋めちゃうなんて!」

「動物にも、音声機能がついていたら良かったんだろうね」

 そんなことを話しながら、かけらを【地球儀】にはめ込んでいく。

 嬉しいことに、モップが土に埋めていたかけらで【地球儀】は完成した。

「やったあ! これで【地球儀】は、元通りだね!」

 そのとき、門がギギギときしむ音が聞こえた。きっと、センゴク教授が帰ってきたんだろう。

「カズキ! 行こう!」

 ぼくたちは完成したばかりの【地球儀】を持って、玄関に急いだ。

「おかえりなさい! センゴク教授!」

「そんなににこにこして、どうしたんじゃ?」

 ドアを開けたセンゴク教授が、不思議そうに首をかしげている。

「あのね! ぼくたち、とうとうやり遂げたんだよ!」

「片付けが終わったのかの?」

「それも終わったけれど、もう一つの方」

 カズキがメガネを押し上げながら、自慢げに胸を張っている。

「はて。なんじゃったか」

「これだよ!」

 ぼくたちは後ろに隠していた【地球儀】をめいいっぱい高く持ち上げた。それを見たセンゴク教授が、嬉しそうに手をたたいた。

「ほーほほう! これはこれは、なんと嬉しいことじゃのう! ずいぶん久しぶりに見るわい。二人とも、ありがとう!」

「これでぼくたち、【絵の具】を分けてもらえる?」

 そう言うと、センゴク教授は考え込むように、ひげをなで始めた。

「さて、どうするかのう?」

 もしかして、交換条件にはまだ足りないのかな? ぼくは不安になって問いかけた。

「まだ足りない?」

 すると、センゴク教授は「いいや」と、首を振った。

「お礼が三本ばかりの絵の具では、とても足りんな。そうだ。良いところへ連れて行ってあげよう。少し遠出をするが、良いかの?」

 そう言ってセンゴク教授は、ぼくたちをシャトル発着場へ連れて行く。

「どこへ行くの?」ときいても、「良いところじゃよ」と、センゴク教授はにこにこするばかりだ。



 ぼくたちを乗せたシャトルは、あっという間にダイダロスシティを飛び出した。

 シャトルはぐんぐんと高くのぼっていく。窓から外を見ると、ぼくたちの住むダイダロスシティの丸いドームが、みるみる小さくなっていった。

「さあ。窓の外を良く見ておれよ。そろそろ目的地が見えてくる頃じゃ」

 はるか下には、ダイダロスシティとは、比べものにならないくらい大きなドームが、いくつも並んでいる。

「見ろよ、ヒロト! あのドームは、植物園だよ! 森になってる!」

「本当だ! 動物園もあるよ! ねえ、センゴク教授。良いところって、フロントサイドの博物館のこと?」

 ぼくはカズキと一緒になって、窓にへばりついていた。

「ほーほほう。もっと良いところじゃぞ」

 センゴク教授がそう言うと、シャトルはぐんぐんとスピードを上げて、フロントサイドから遠ざかっていく。

「待って! フロントサイドからどんどん離れていくよ! 一体どこへ行くの?」

「目的地は正面じゃ」

 その言葉に、ぼくたちは急いでセンゴク教授の隣に並んで、フロントガラスをのぞく。

 その瞬間、ぼくは思わず叫んでいた。

「【地球】だ!」

 そう。そこにあったのは、青く光る命の星。真っ黒な宇宙の中にぽつんと浮かぶ宝石、【地球】だった。

 海の深い青と、森の鮮やかな緑が作る模様が、近づくたびにはっきりと見えてくる。

 カズキはびっくりし過ぎて、あんぐりと口を開けている。

「【絵の具】でぬった、にせものの空じゃなく、わしが本物の青い空をプレゼントしてやるぞい」

「本物の青い空? 本当に? 青い空が見られるの?」

 ぼくは嬉しくて飛び跳ねそうになったけれど、どうにか我慢した。だって、センゴク教授と約束したからね。

「でも。人間はあと千年は、【地球】に行けないんじゃなかった?」

 カズキが驚きからようやく立ち直って、不思議そうに首をかしげた。

「わしは、研究のために【地球】に行くことを、許可されているんじゃ。君たちは特別じゃぞ。さあ、ちゃんと座席について、ベルトをするんじゃ。地球に着陸するときは少し揺れるでな」

 ぼくたちは素早く座席について、しっかりとベルトをしめた。それからぼくは、ポケットを探ってテンテンを取り出して、手のひらの上に置いた。テンテンは明るいところに出て、自動的にスリープモードから起動する。

『おはよう、ヒロト』

「テンテン、聞いて。青い空が見られるんだよ! おじいちゃんに、青い空を見せてあげられるよ!」

 ぼくがそう言うと、テンテンは目をチカチカと点滅させて、小さな首を振った。

『ヒロト。おじいちゃんは、もうどこにもいないんだよ。死んじゃったからね』

 今度はぼくが首を振った。

「おじいちゃんは、いつでもぼくたちと一緒にいるんだよ」

 そう言って、テンテンをひっくり返して、お腹をなでた。こっそり詰めたおじいちゃんの白い灰は、ちゃんとテンテンのお腹の中に入っている。

「やっと一緒に、青い空が見られるね」

 ぼくはテンテンのお腹にそっと語りかけた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ