表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そらいろ  作者: ましの
5/8

ラピスラズリ

 カズキはあちこちに散らばった紙を、破れないように恐る恐る拾い集めている。集めた紙は、センゴク教授に言われるまま、三つの箱の中に分けて、ていねいに重ねて入れた。

 ぼくはと言うと、床に積み上げられた本を、表紙の色ごとに分ける作業だ。

 紙がぎっしりと詰まった本は、タブレットとは比べものにならないくらいに重たくて、すぐに腕が痛くなってきた。

 でも、【地球】から持ってきたと言う古い本の表紙は、擦り切れてボロボロになっているので、乱暴には扱えない。

 本当なら本は、博物館で大切に保管されていなければいけないものだ。もしも破いてしまったら、【絵の具】を分けてもらえなくなってしまう。

 ぼくは、慎重に本を両手で持ち上げた。

 そのときだ。何かがすべって、カラカラと音を立てて床に落ちた。

「いけない!」

 ぼくは小さな声でつぶやくと、慌てて本を床に置いて、何が落ちたのかを確認した。見ると、ブーツのような形をした、黄色の平べったいかけらが転がっている。

「なんだろう?」

 拾い上げてみると、意外に重い。プラスチックじゃないみたいだ。断面がギザギザしているので、もしかしたら欠けてしまったかもしれない。

「どうしよう?」

 怒られるかもしれないと思うと、言い出すのが怖かった。けれど、ぼくは覚悟を決めて、部屋のすみで紙を分けているセンゴク教授のところに向かった。

「ねえ、センゴク教授。こんなものが落ちていたよ」

 紙の入った箱をまたいで、センゴク教授に黄色いかけらを見せる。

 すると、センゴク教授は「ほうほう」と嬉しそうに声を上げた。

「どこにあったんじゃ?」

「本の間に挟まっていたよ。知らないでいたら、落としちゃったんだ。ごめんなさい。もしかしたら、欠けちゃっているかもしれない。はしっこがギザギザになっているから」

 すると、センゴク教授は丹念に黄色いかけらを眺めた。

「心配はいらぬぞ、ヒロト。これは、欠けているわけではないのじゃ」

 そう言うと、「よっこいしょ」とイスから立ち上がり、机の上にあるでこぼこの青い球体を、ズズッと引き寄せた。

 カズキも何事かと顔を上げて、机に駆け寄ってきた。

「これは、ここにぴったりはまるんじゃよ」

 パチッと音を立てて、黄色いかけらが青い球体にぴたりとはまった。

「これでよし」

 センゴク教授が満足そうに、うなずいている。

「これは何?」

 様子をうかがっていたカズキが、不思議そうにたずねた。

「これは【地球儀】という、【地球】の模型じゃよ。学校の授業でホログラム映像を見るじゃろう?」

「でもこれは、でこぼこの青い球体だよ。とても【地球】には見えないけどなあ。陸地だってないじゃないか」

 カズキはメガネを押し上げながら、首を振っている。

「このでこぼこのところに、陸地のピースがはまるんじゃよ。わしが子供の頃は、全てのピースがそろっていたんじゃが、いつのまにか無くなってしまったんじゃ。大切なものじゃったんだがの」

 センゴク教授が悲しそうに首を振った。

「じゃあ、ぼくたちが探してあげるよ!」

 そう言うと、ひげの奥の口が嬉しそうに笑った。

「ほーほほう! 本当かい? それは嬉しいの!」

「うん! ぼくとカズキで探してあげる!」

「ええー。おれも?」

 不満そうに声を上げたカズキを知らんぷりして、ぼくはセンゴク教授に聞いた

「ねえ、このかけらは、プラスチックじゃないの? 重みがあったけれど、何かの鉱石?」

「そうじゃよ。これは地球の鉱石で出来ておるんじゃ。この青い石は、【ラピスラズリ】という宝石じゃよ。」

「【ラピスラズリ】?」

「そうじゃ。【地球】の古い言葉で、【群青の空色】と言うんじゃよ」

 空色?

 ぼくはでこぼこの【地球儀】をじっと見つめていると、カズキが横から顔を出した。

「センゴク教授は、学校で何を教えているの?」

 その質問には、ぼくも興味があった。こんなにたくさんの本を持っているし、どう考えても、算数や社会を教えているようには見えない。

「わしは【地球】の先生じゃ。フロントサイドの大学で、君たちより大きな学生に、【地球】のことを教えておる」

「たとえばどんなこと?」

「そうじゃな」

 センゴク教授は、「はて」と考え込むように、ひげをなでなでる。しばらくして、名案を思いついたと言わんばかりに、ぽんっと手を叩いた。

「知っておるかな? 月と違って、【地球】の空は青いんじゃ」

 とたんにぼくは、目をめいいっぱい開いた。

「ねえカズキ、聞いた? 【地球】の空は青いんだって! おじいちゃんの言ったとおりだ!」

「ほう。ヒロトのおじいさんは、【地球】の空が青いことを知っておるのか」

「うん! どこまでも真っ青に広がっているんだって、言っていたよ! ぼく、おじいちゃんと約束をしたんだ。一緒に青い空を見ようねって。だから、その約束を守るために、空を青くしたいんだよ!」

「そうか。そうか。ヒロトのおじいさんは良い孫をもって、幸せじゃのう」

 ぼくは嬉しくて、飛び跳ねるかわりに、思い切り笑った。けれど、カズキがメガネを持ち上げながら、口を挟んできた。

「でも、ヒロトのおじいさんは、一月前に死んじゃったんだ」

 それを聞いて、センゴク教授は悲しそうな顔になる。

「それは辛かったじゃろう?」

「すごく悲しくって、いっぱい泣いたんだ。でもね、ぼくは決めたんだよ。おじいちゃんとの約束を果たすまで、もう泣かないって」

「ヒロトは強い子じゃの。いつか、約束が果たされればいいのう」

「うん! だから、ぼく頑張るよ!」

 そう言って、ぼくは本の仕分け作業に戻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ