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そらいろ  作者: ましの
2/8

月の夜

 太陽が沈んで、五日目の朝。空が光を取り戻すまで、あと九日。

 おじいちゃんは、「夜週」のさなかに、眠るように死んでいった。

「昼週」の間だったら良かったのに。そうすれば、真っ黒な空の中にまばゆく光る太陽の光が、ほんの少しぼくの心を、照らしてくれたのかもしれない。

 町は人工灯の青白い光につつまれて、ひっそりと息をひそめている。その上に広がる真っ黒でさみしい空は、今のぼくの心を、まるで鏡のように映していた。

 遠い昔に、人間が失ってしまった記憶を、ぼくはひとつひとつ思い出した。おじいちゃんのやさしい声が紡ぎ出す【地球】の物語は、もうぼくの心の中にしか残っていない。

「いつか、一緒に青い空を見ようね」って、約束したのに。

 ぼくは、ポロポロとあふれてくる涙を、上着の袖で何度もぬぐった。

 けれど、いくらぬぐっても、涙は止まってくれない。仕方がないので、「うわーん」と声を上げたら、肩にとまっていた、テンテンが『悲しいね』と、つぶやいた。



 町はずれの葬儀センターで、灰になったおじいちゃんを、みんなでカプセルにつめる。

 カプセルは、ドームの排出口から小さなロケットで飛ばされて、広い宇宙に投げ出される。学校の先生が言うには、そうすることで、死んだ人たちは星になるらしい。ずっと忘れないでいるために。

 でもぼくは、そんなことをしなくても、おじいちゃんのことを忘れたりなんてしない。出来ることなら、おじいちゃんを【地球】に連れていってあげたかった。大昔のように、青く広がる空の下に、埋めてあげたかったと思う。

 だから、ぼくはこっそりおじいちゃんの灰を、テンテンのお腹の中に詰めた。

「いつか、ぼくが青い空を見せてあげるからね」

 小さな声で言ったら、テンテンが不思議そうにぼくを見上げて、『どうしたの?』と聞いた。

「テンテン。いつか、おじいちゃんに青い空を見せてあげようね!」

 ぼくはしゃくり上げながら大声を出した。するとテンテンはふわりと飛び上がる。

『おじいちゃんは、もういないよ。死んじゃったんだから』

「違うよ。おじいちゃんはまだ、ぼくたちと一緒にいる」

 ポロリと流れ落ちた涙を、手のひらでぬぐって、ぼくは精一杯、テンテンに向かって笑顔を作った。おじいちゃんとの約束を果たすまで、ぼくはもう泣かないよ。

『ヒロト。ボクにはよく分からないよ』

 テンテンは、相変わらず不思議そうに、ぼくの周りを飛び回っている。


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