おじいちゃん
ねえ、そこに広がる空は、どんな色をしている?
月に住む少年が憧れるのは地球の空だった。
ねえ、そこに広がる空は、どんな色をしている?
「それは本当なの?」
ぼくは病院の白い床をけって、ベットに寄りかかった。ベットの上では、おじいちゃんがいつものように、にっこりとほほえんでいる。
「ほんとうさ。おじいちゃんのおじいさんから聞いたんだよ。おじいさんも、おじいさんのおじいさんに聞いたんだ。だから、おじいちゃんもヒロトに話してあげたんだ。【地球】のどこまでも広がる、真っ青な空の話を。大昔のデータベースを見てごらん。空色は青だとちゃんとのっているよ」
おじいちゃんの言葉に、ぼくは窓からドームの向こうの真っ黒な空を見上げた。真っ黒な空の中心ではギラギラと太陽が輝いている。今は、二週間ごとにやってくる、「昼週」のちょうど真ん中だ。
けれど、その真っ黒な空をじっと見上げていると、世界中から置き去りにされてしまうようで、だんだんと怖くなってくる。だからぼくは、真っ黒な空があんまり好きじゃない。
不安がどんどん大きくなって、泣きそうになっているぼくの頭を、おじいちゃんは大きな手で優しくなでた。
「心配しなくていい。どんなに真っ黒な空でも、ヒロトはひとりぼっちではないよ」
「うん。おじいちゃんがいてくれる。それからテンテンも!」
ぼくは、ベットの上でモゾモゾと這っていた、てんとう虫型ロボットペットのテンテンを指さした。
「青い空は、黒い空と違ってさみしくないのかな?」
「さみしくなんかないさ。無限に広がる青い空は、きっとヒロトを見守ってくれるだろうよ。それに【地球】の空は、青いだけじゃないんだよ。太陽が沈むときは【夕焼け】と言って、空は茜色に変わるんだ。【雨】と呼ばれる水を降らせることをある。そんなにぎやかな空が、さみしいと思うかい?」
そう言われて、ぼくの心は大きく飛び跳ねた。
おじいちゃんのやさしい声が、見たこともない【地球】の空を、ぼくの頭の中に描いていく。どこまでも青く広がる空が、さみしいわけがない。
「ねえ、おじいちゃん。いつか、一緒に青い空を見ようね」
ぼくは白い床の上でもう一度けって、おじいちゃんを見上げる。
おじいちゃんは、にっこりと笑ったまま、確かにうなずいた。
ここは月面都市、ダイダロスシティ。
ぼくたち人間が生まれた、宇宙の宝石【地球】から、そっぽを向き続ける月の裏側、バックサイドの田舎町。
人間が壊してしまった【地球】を再生させるために、ぼくたち人間は月に移り住んだ。
もう五百年も経つけれど、人間が【地球】に帰れるまでは、あと千年待たなきゃいけない。




