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そらいろ  作者: ましの
1/8

おじいちゃん

 ねえ、そこに広がる空は、どんな色をしている?


 月に住む少年が憧れるのは地球の空だった。

 ねえ、そこに広がる空は、どんな色をしている?




「それは本当なの?」

 ぼくは病院の白い床をけって、ベットに寄りかかった。ベットの上では、おじいちゃんがいつものように、にっこりとほほえんでいる。

「ほんとうさ。おじいちゃんのおじいさんから聞いたんだよ。おじいさんも、おじいさんのおじいさんに聞いたんだ。だから、おじいちゃんもヒロトに話してあげたんだ。【地球】のどこまでも広がる、真っ青な空の話を。大昔のデータベースを見てごらん。空色は青だとちゃんとのっているよ」

 おじいちゃんの言葉に、ぼくは窓からドームの向こうの真っ黒な空を見上げた。真っ黒な空の中心ではギラギラと太陽が輝いている。今は、二週間ごとにやってくる、「昼週」のちょうど真ん中だ。

 けれど、その真っ黒な空をじっと見上げていると、世界中から置き去りにされてしまうようで、だんだんと怖くなってくる。だからぼくは、真っ黒な空があんまり好きじゃない。

 不安がどんどん大きくなって、泣きそうになっているぼくの頭を、おじいちゃんは大きな手で優しくなでた。

「心配しなくていい。どんなに真っ黒な空でも、ヒロトはひとりぼっちではないよ」

「うん。おじいちゃんがいてくれる。それからテンテンも!」

 ぼくは、ベットの上でモゾモゾと這っていた、てんとう虫型ロボットペットのテンテンを指さした。

「青い空は、黒い空と違ってさみしくないのかな?」

「さみしくなんかないさ。無限に広がる青い空は、きっとヒロトを見守ってくれるだろうよ。それに【地球】の空は、青いだけじゃないんだよ。太陽が沈むときは【夕焼け】と言って、空は茜色に変わるんだ。【雨】と呼ばれる水を降らせることをある。そんなにぎやかな空が、さみしいと思うかい?」

 そう言われて、ぼくの心は大きく飛び跳ねた。

 おじいちゃんのやさしい声が、見たこともない【地球】の空を、ぼくの頭の中に描いていく。どこまでも青く広がる空が、さみしいわけがない。

「ねえ、おじいちゃん。いつか、一緒に青い空を見ようね」

 ぼくは白い床の上でもう一度けって、おじいちゃんを見上げる。

 おじいちゃんは、にっこりと笑ったまま、確かにうなずいた。



 ここは月面都市、ダイダロスシティ。

 ぼくたち人間が生まれた、宇宙の宝石【地球】から、そっぽを向き続ける月の裏側、バックサイドの田舎町。

 人間が壊してしまった【地球】を再生させるために、ぼくたち人間は月に移り住んだ。

 もう五百年も経つけれど、人間が【地球】に帰れるまでは、あと千年待たなきゃいけない。


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