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異世界ログイン ── チートでニート ──  作者: よぎそーと


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9/14

セーブ9 怖いけど、これも試さないわけにはいきません

「トモヤ様!」

「おお、トモヤさん」

 出迎えたのは、血相を変えたカリンと村長であった。

「突然消えてどうしたんですか。

 何かあったんですか?」

「姿が見えなくなったもので、あちこち探しましたぞ。

 そしたら急にここに現れるし。

 いったい何がどうなってるのですか」

 どうもこちら側では、いきなり姿が消えて、また再びあらわれたようだった。

 また、再度ログインするとログアウトした場所に出るようである。

(ログインとログアウトがセーブも兼ねてるんだろうな)

 こういう所はゲームそのものであるようだった。

 が、感心してる暇はない。

 慌ててる二人を、「まあまあ」となだめていく。

「ごめん、少し驚かせたみたいで。

 ちょっと用事があったから、少しこの場を後にしてたんだ」

「はあ、そうなんですか」

「しかしいったいどうやって」

「それは……」

 そこで考える。

 本当の事を言ってよいのかどうか。

 ここは適当に誤魔化しておいた方がよいのだろうか。

 適当にはぐらかしておいた方がよいのかもしれない。

 しかし、トモヤはそれを諦めた。

 そんな高等なスキルは持ち合わせていない。

 なので、

「ログアウトしてからログインしてきたんだ」

と本当の事を言った。

 多少の目論見もある。

 そのために様子を伺う意味でも、あえて本当の事を言ってみた。

 二人は、

「ログアウト……?」

「それはいったい何なのです?」

 何の事か分からず困惑していった。

(なるほど)

 それでまた一つ分かった事がある。

 ここにいる者達は、どうやらこの世界がゲームである事を知らないようだと。

 あるいはここは本当に別の世界なのかもしれない。

 ゲームという形で、こちらと現実を行き来できるだけの。

 単なる予想や推論でしかないのでどこまで本当かは分からないが。

 とりあえず、二人がログアウトやログインという事について全く知らないことは分かった。

「いや、大した事じゃないから。

 でも、これからも時々こういう事をするかもしれないからおぼえておいてほしい」

 説明してもしきれるとは思えなかった。

 なので、そういう事にしておく事にした。

「それより、これからの事なんだけど」

 話を誤魔化すためもあって、トモヤは二人に質問をしていった。



 一時間後。

「あれか……」

 初期装備を身につけたトモヤは、村の外に出て、そこらにいるモンスターを眺めていた。

 このあたりにいるモンスターは、こちらから仕掛けない限りは襲ってこないという。

 見境無く襲ってくるわけではないので危険なは少ない。

 しかし、モンスターがいればその周囲に近づく事はできない。

 これが田畑にまで入り込んでくると、作物を痛められてしまう。

 倒せないほど強いわけではないというが、怪我は避けられないらしい。

 だからこそ、トモヤのような者が求められてるようだった。

 ゲームでは近づかない限り何もしてこないモンスターは安全だったが。

 この世界では、ただそれだけでも危険なのである。



 トモヤとて、好きこのんでそんなものとやりあいたくはなかった。

 しかし、とりあえずモンスターというのがどれほど強いのかは確かめておきたかった。

 危険なのは分かっているが、これは実際にやってみないと分からない。

(大丈夫。

 戦闘用の技能もあるんだし)

 そう自分に言い聞かせていく。

 それもまたどれほど役立つか分からないのに。



「…………とりあえずやってみるか」

 自分を奮い立たせて、一番近くにいたモンスターに近寄っていく。

 見た目は大きなネズミといったところか。

 小型犬から中型犬くらいの大きさがある。

 こんなのが田畑に入ってきたら、確かに面倒だろう。

「これじゃ、猫をけしかけても意味ないだろうなあ」

 ネズミ退治のために家畜化されたのが猫だという話をどこかで読んだ気がした。

 その猫であっても、ここまで大きなネズミ相手だと苦戦するだろうと思えた。

 問題のネズミは、近づいて来るトモヤに警戒心すら抱いてないようだった。

 本当に目の前にまで来ても、全く動じる様子がない。

 トモヤに目を向ける事すらしない。

(こんなんでいいのか?)

 そう思うも、トモヤにとっては好都合である。

 抜き身のまま手にしていたナイフを逆手に持って、刃をネズミに突き刺していく。



 さすがにそうなるとネズミも動き出す。

 振り落とす……いや、握り刺すとでも言うべきか。

 逆手にもったナイフは、ネズミに突き刺さる事無く土を抉った。

 ネズミは素早い動きで飛び退き、くるりと向きをかえるとトモヤに向かってくる。



 キイィ!



 明確な敵意をもって突進してくるそれを、トモヤは反射的に手で払いのけた。

 狙いもつけずに振った腕は、運良くネズミに辺り、突進の向きを少しだけかえる。

 トモヤの体を擦ってはいくが、直接的なダメージにはならない。

 だが、攻撃を避けたり突進してきた動きはかなり速い。

 まともに受けたら、結構な衝撃になりそうだった。

 現に、擦っただけとはいえ、ネズミの勢いに少しばかり体勢が崩れる。

「こいつ……強え!」

 たかがネズミとは言えなかった。

 これだけ巨大で素早く動くとなると、とらえるのも大変だ。

 また、巨大な前歯で噛みつかれたら、酷い怪我を負うことになりそうだった。

 ネズミ相手だと思うと情けないが、これが命がけの戦いである事をあらためて教えられる。

 その相手のネズミは、トモヤに向けて再び突進してくる。

 思わず避けようとしたが、ふと頭に何かが閃いた。

 それが何であるかを考えるより先に体が動いていく。

 突進してくるネズミを避けるのではなく、腰を落としてその場に留まる。

 片手で持ってたナイフの柄に、左手を当てて固定する。

 突進してくるネズミに切っ先を向ける。

 ネズミは、膝とついて待つトモヤに向かって突っ込んでくる。

 その相手に、向けたままの切っ先を勢いよく突き出した。

 腕に思い衝撃が走る。

「ぐっ…………」

 思わず倒れ込みそうになったが、なんとか堪えた。

 その甲斐あってか、ナイフは突進してきたネズミに突き刺さり、その動きを止めていた。



 キィイィィ…………



 先ほどとは違った、弱々しい鳴き声があがる。

 首筋から胴体に刃が突き刺さってるのだ。

 モンスターと言えども苦しいに違いない。

 だが、トモヤはそこで手を止めはしなかった。

 相手を掴んで引き倒し、仰向けになるように押さえつける。

 手足をジタバタと動かすネズミの腹に膝をのせて体重をかける。

 吸いこんでた空気が押し出されたのか、大きく口を開いていくのが見えた。

 突き刺さったナイフを引き抜き、上を向いた腹に突き刺す。



 グッ…………!



 声とは思えない声がネズミの喉からあがった。

 トモヤは同じようにナイフを何度も剥き出しの腹に突き刺した。



 ドスッ

 ドスッ

 ドスッ

 ドスッ



 その度にネズミは苦しげにもだえるが、気にせずトモヤはナイフを突き刺していく。

 やがてネズミが息絶えるまで、ただひたすらに、無言でトモヤはナイフでネズミを抉っていった。



 息絶えたネズミは、それこそゲームのように姿を消していく。

 残ったのは、数枚の貨幣とネズミの巨大な前歯。

 それがトモヤの初めての戦果であった。



 少し息と気分がおさまってきたところで、振り返る。

(よくあんな事出来たな)

 ネズミの攻撃を避けるために腕をふるったり、突進してくるネズミに刃を突き立てたり。

 とっさの事であったが、手で払いのけたのは自分でやったとは思えなかった。

 とっさの閃きいた、突進してくるネズミを迎え撃つやり方も。

(これが技能の成果なのかな)

 普段の自分では出来なかった動きや発想である。

 もしかしたら、と思えた。

 また、目の前に落ちてるネズミの前歯。

 普段ならそんなものに何の価値が、と思うのだが。

 なぜか今はそれの価値が分かる。

 あくまでこの世界におけるものだったが。

 キャラクター作成の段階でとった知識系のスキルのおかげかもしれなかった。

 振り返ってみれば、カリンや村長と普通に会話出来ていた事も気になった。

 引きこもりのトモヤに、対人スキルがあるわけもない。

 ネットを仲介した文字のやりとりであるならある程度会話は出来るが。

 面と向かい合って話ができるとはとても思えなかった。

 でも、それを自然とやっている。

(もしかしたら……)

 ふと、思う。

 これが、この世界における技能の働き方なのかもと。

 自分が出来ない事も自然に出来たり、なんとなく知識や情報が頭に浮かんできたり。

 今回、モンスターの強さや戦闘の感触を確かめるだけで良いと思ったが。

 そうする中で、技能の効用をも確かめる事が出来たようだった。

(まあ、気のせいかもしれないけど)

 あくまで予想でしかないので、そこはわきまえて考える。

 迂闊に判断せずに慎重に。

 思い込みがとんでもない失敗に繋がってしまうのは、他のゲームでも体験している。

 トモヤ自身が現実にて学んだ、数少ない教訓の一つでもあった。

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