セーブ6 思いもがけないものが唐突にあらわれて驚きます
「とにかく、考えさせてくれ」
そう言うのが精一杯だった。
村長はただ、
「ありがとうございます。
どうか前向きな返事を聞かせてください」
とだけ述べた。
丁度良いというべきか、カリンがお茶を持ってきた。
「どうぞ」
そういって差し出してくる陶器のコップを手に取る。
湯気の立つそれを眺めながら、これからどうするのかを考えていった。
(やってくれって言われてもな)
中学一年の途中から引きこもっていた。
そんな自分に何かが出来ると思えるほど自惚れる事はできない。
(何か特技でもあれば)
たとえば、剣道とか柔道とか。空手や少林寺拳法などでも良い。
そういったものを習っていれば、何かの役に立つかもしれなかった。
自分が戦うのではないにしても、戦術とか戦略とかの知識があれば、と思う。
戦略ゲームなどはやった事があるが、そんな遊びがそのまま使えるとは思えない。
必要な情報が検索できるネットもない。
ここで求められてるのは、トモヤが身につけた技術であり、蓄えた知識だった。
そのどちらも持ってはいない。
(こんなんじゃどうしようもねえよ)
本当に自分に何ができるのか、と思ってしまう。
この世界で。
モンスターを倒すために。
何が出来るのか?
(それが分かれば……)
カリンが見た夢のようなものが、村長の言葉が正しいなら、自分にも何かが出来るのかもしれないと思える。
だとして、自分に何が出来るのかが分からない。
部屋に引きこもってる事が役立つとは思えない。
(俺に何が出来るんだよ)
そう思った時、信じられないものが目の前にあらわれた。
「はい……?」
思わず声が出た。
ベンチに座ってる村長と、その近くにいたカリンが顔を向けてくる。
「ええと、トモヤ殿?」
「何かあったのですか?」
だが、トモヤは答えることが出来なかった。
目の前にあらわれたものに気を取られていて。
「なんだ…………これ」
見た事がない、というわけではなかった。
むしろ、見慣れてると言って良い。
数々のゲームで何度も見てきたものである。
今回のゲームではまだ見てなかったが、おそらく目の前にあらわれたものがそれなのだろう。
必要な事項がおおよそ網羅されている。
名前に能力値。
現在はないが、所持金や所持品、装備品を表示する部分もある。
また、その他にも、説明書や画面の消去、セーブを兼ねたログアウトまで。
どこからどう見ても、ステータス画面であった。
突如あらわれたそれに、トモヤは見入ってしまっていた。
カリンとセルジオ村長が、
「あの、あの」
「いかがなされた」
と声をかけてるにも関わらず。
ようやく二人の声が耳にとどいたトモヤは、
「ああ、ごめん」
とだけ言うことが出来た。
「大丈夫ですか?」
「何かあったのでしょうか?」
気遣ってくれる二人の心配そうな顔に、なんだか嬉しくなってしまった。
こんな風に誰かに気遣ってもらえるなんて、何年ぶりだろうと。
そこに浸ってるわけにもいかないが。
「いやね、いきなりコレが出てきて」
そう言ってステータス画面を指さす。
それはトモヤの前方、数十センチあたりに滞空している。
手を伸ばせば届く範囲に。
だが、二人は不思議そうな顔をしてトモヤの指した方向を見る。
「ええっと……」
「そこに何かがあるのでしょうか?」
「え…………」
二人の声に驚く。
「いや、ここに……」
そういって再び指を指すも、カリンとセルジオ村長は首をかしげるばかりだった。
(これ、俺にしか見えないのか?)
なんともお約束通りな展開である。
漫画やアニメやゲームやラノベみたいだった。
だが、見えないというなら仕方ない。
「いや、何でもないんだ」
そう言うしかなかった。




