セーブ3 ここがどこだか分かりませんので説明お願い
「はい…………?」
拡がる青空と草原。
それが目に飛び込んできた。
「なんだ、これ」
思わず左右を見渡す。
見慣れない景色が拡がっている。
左右は森がひろがってるようだった。
そして、背後になにやら石柱が。
人工物らしく、形をととのえられたそれは、何かの象徴的なものらしかった。
表面に紋様のようなものが刻まれている。
よくよく見れば、トモヤの立ってる部分も、その一部のようだった。
石柱の台座部分が、トモヤが立ってる場所だった。
もちろん見覚えはない。
トモヤの知る限り、こういった建造物を見た事はない。
世界は広いので、もしかしたら地球上のどこかにはあるのかもしれないが。
だとしても、そんな物がある場所に立ってる理由は分からない。
「えっと、どうなってんの?」
疑問を口にするも、答える者はいない。
だが、呆然としてると足音が聞こえてきた。
誰だ、と思って振り向くと、見知らぬ女の子があらわれた。
「あ、あの」
その女の子は、トモヤに声をかけてくる。
緊張してるのか、顔も声も固い。
若干の警戒はしてるようだった。
しかし、嫌悪感とはほど遠い。
人の表情を読み取るのは苦手なトモヤだが、それは何となく分かった。
むしろ、相手が好感を抱いてるらしき事も。
その女の子は、トモヤを目にしてると、顔に笑顔を浮かべていく。
まだ状況も分からず困惑してる頭でも、そんな彼女がなかなか可愛いというのが分かる。
まだ十代の半ばくらいだろうか?
赤毛を二つの三つ編みにした娘だった。
ずば抜けた美人というわけではない。
だが、好感を抱ける容姿をしている。
頬にそばかすが浮かんでいるが、それもまた素朴な感じの娘には似合っていた。
作業服と見まごうようなオーバーオール姿も含めて。
カントリーガール、と言えば良いのだろうか。
洒落っ気とは無縁に見えるが、それが逆に作られてない素材の良さを引き出してるような。
そんな女の子が、近づきながら口を開く。
「やっぱり…………本当だったんだ…………」
何の事かさっぱり分からないが、相手はトモヤに近づきながらそう言った。
そして。
女の子はトモヤなど関係なくその前まで進み出て、両膝をつく。
(え?)
面食らってしまった。
それは、誰かに従ったり、礼をする姿勢に思えたのだ。
身も知らぬ初対面の相手にそんな事をしてもらえるような事など、今まで一度もしたことがない。
にも関わらず相手は、胸の前で両手を組んでくる。
懇願するかのように。
次に飛び出して来た言葉は、それを裏付けるものであった。
「お待ちしておりました」
「…………」
「どうか、私たちにお力を」
「…………」
真剣なまなざしの娘に、呆然としてしまう。
出会っていきなりで一体何を、と思ってしまった。
そもそも、何をお願いするつもりなのかもはっきりしない。
相手は何かを知ってるようであったが。
とりあえず事情を聞こうと相手に向かって踏み出していく。
石の台座に作られた階段を下りて、彼女の前に立つ。
近づいて見ると、更に相手の事がはっきりと見て取れた。
やはり可愛い。
相手の真剣さに対して不純な事を思ってるのは分かってる。
それでもこういった考えが先に出て来る。
(俺って奴は……)
ギャルゲにエロゲをたしなむ、どこに出しても恥ずかしい二次元の住人であるという自覚はあった。
だとしても、こんな所でこんな形で発揮する必要もないだろうに、とも思う。
なので、とりあえず無難に、
「詳しく聞かせてくれ」
と尋ねた。
彼女の前に片膝をついて。
どこかで見た事がある。
「相手と同じ目線に立つこと」
コミュ障かどうかはともかく、ぼっちであるトモヤである。
そんな事を知ってても何かの役に立つというわけではない。
なのだが、ネットに入り浸ってるとやる事がなくなる。
なので、興味のない事にもとりあえず向かっていった。
それで仕入れた、本当かどうかも分からない雑学はそれなりにある。
その一つが、まさかこうして役立つとは思わなかった。
目の前の少女は、そんなトモヤを見て、更に目を輝かせていくのを見て、これが存外役立つと実感する。
彼女は、
「はい!」
と上澄んだ声で言うと、お聞く頷いてくれた。
その曇り無きまなざしが胸に痛い。
心が汚れまくってるせいか、視線をあわせるのもきつい。
久しぶりに人と話す事もあいまって、何をどう切り出しせばいいのか分からなくなる。
それを誤魔化すためにも、彼女に説明を求めた。
「それなら……」
彼女はトモヤを見つめて申し出る。
「村までおいでください。
皆にも紹介しますので」
その言葉に絶望感を抱いてしまった。
(え、人前に出るんですか?)
試練以上の苦行であり苦難である。
だが断れる雰囲気でもない。
上手く言い逃れようと思うも、声が出ない。
まずもって頭が働かない。
そんなトモヤの前で女の子は、
「こちらです」
と先に立って歩いていこうとする。
選択の余地は無くなっていた。




