セーブ11 食べて、戻って、確かめて
「ごちそうさま」
そう言って手を合わせる。
「美味しかったよ」
「良かった~」
カリンは嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「がんばった甲斐があったわ」
「おかげで私もご相伴にあずかれましたわい」
相席していた村長も満足そうである。
あの後、
「でも、モンスター退治をしてくれるなら村長さんに言っておいた方がいいかも」
というカリンの言葉に従い村長宅に。
村長もトモヤがご飯だけでモンスター退治をしてくれるという話を聞いて仰天。
「本当ですか!」
とそれはそれは大きな声で確認してきたくらいである。
そんなに嬉しいのか、と思ってしまった。
とりあえず数日という事で話しはまとまり、
「それならご飯を今から作ってもらってはどうですかな」
と言いだしてきた。
この世界の料理がどんなものなのか興味があったので、ありがたくいただく事にした。
「それじゃ、私が作ってきます」
そう言ってカリンが村長宅の厨房へと向かっていく。
なんでも、村長宅で使用人のような事をしてるとか。
それほど余裕のある村ではないが、手が空く者は出てきてしまう。
そんな者が、村長宅にて手伝いをするのは昔からのならわしなのだとか。
今はカリンがそんな役目を負っている。
いわゆるメイドのようなものなのだろう。
思わずそんな姿のカリンを想像してしまった。
(そういや、メイド喫茶とか行った事ないな)
存在は知ってるが、外に出る機会が無い。
そこを通り越して、まさか本物のメイドに会うことになるとは思わなかった。
もっとも、いわゆるメイド服といったものを身につけてるわけではないが。
出てきた料理はなかなかに美味しく、腹いっぱい食べる事ができた。
味付けがどうこうというより、素材自体の美味しさを感じた。
産地直送どころか産地密着である。
すぐそこにある物を食べられるのだから、鮮度は抜群だった。
「これが食えるなら、モンスター退治もがんばれますよ」
「そうですか、そうですか」
村長は満足気に頷く。
カリンも、
「ありがとうございます!」
と頭を下げてくる。
その言葉だけでもがんばれそうな気がしてきた。
そもそも、誰かに感謝されるなんて、生まれて初めての経験だった。
忘れてるだけで今までにもあったのかもしれないが、いずれにしても遠い昔の事である。
(人に感謝されるっていいなあ……)
思わず涙がにじみそうになってきた。
(がんばろう……)
明日から本気出す────。
決して言い訳ではない。
紛う事なき本音でそう思った。
とはいえ一旦は現実戻ろうと思った。
こちらの世界にでどれだけ過ごせるか分からなかったし、他人の家にお邪魔するのも気が引けた。
ネットで更なる情報が集まるかもしれなかった。
それらを考慮して、とりあえず一度は自分の世界に戻る事にする。
「それじゃまた明日」
「ええ、お願いします」
「トモヤさん、また明日」
そう挨拶をしてからログアウト。
視界が一度真っ黒に染まり、それから見慣れた自分の部屋がうつっていく。
目の前のパソコン。
乱雑な部屋。
いつもの自室。
戻ってきた事を確かめ、大きく息を吐く。
「…………疲れた」
ゲーム世界に行ってモンスターと戦った事で疲労になってるようだった。
体も顔つきも、はっきりとは分からないが年齢も今のトモヤとは違う。
しかし、そういった事はゲームから現実に引き継がれるようだった。
その逆に現実からゲーム世界に引き継がれるもののあるかもしれない。
とりあえず、日本語やこの世界で得た情報などは持ち込める。
(物とかも持って行けるのかな)
そう思うが、それについては無理そうだなとすぐに思った。
もし持って行けるなら、身につけてる服などが転送されてるはずである。
しかし向こうでは向こうの標準的な服を身につけていた。
試したわけではないが、おそらく他の物も無理だろうとは思う。
(ま、また今度行くときにでも試してみるか)
そう思いつつ腹に手を置く。
持ち込む事も持って帰る事も無理ではるようだが、知識や情報と同じく腹に収めたものも別扱いのようだった。
満腹感をまだおぼえている。
(美味かったな…………)
久しぶりに食べた手料理であった。
思えば、母親の料理を食べられなくなってそれなりに経っている。
気にしてないというわけではなかったが、あらためて落差を感じてしまった。
インスタントや作り置きの弁当と、誰かが作った物の。
急激に寂しさをおぼえ、満足感からは遙かに遠いため息を吐く。
そんな落胆気分も解消できぬままパソコンに向かう。
何かしら新しい情報がないかと探ろうと思った。
一度戻った時にそれなりに調べてはみたが、芳しい情報は出て来てなかった。
だが、それから更に時間が経っている。
新しい情報がどこかに出てるかも、と思ってネットを巡ってみようと思った。
(ついでに、掲示板にでも何か書いておくか)
ゲーム運営が用意したサイトのサービスである掲示板。
そこに適当な事を書いて反応を見たいと思った。
さすがに「ゲームの中に入れたよ」と書くつもりはない。
当たり障りのない情報を書き込んでいって、それに食いつく奴が出るかどうかを見ようという程度だ。
その他、利用者の多い掲示板やゲーム攻略サイト、様々なSNSなどを巡回しようと考えてもいる。
しかし、それよりも先に目の前の画面に目が釘付けになった。
「…………お知らせ?」
開いたままのゲームの画面の端に、運営からのお知らせを知らせるマークが表示されている。
普段なら大して気にもせずに放置するのだが、今日はすぐにマウスでクリックした。
どうせ取るに足らない情報であろうとは思う。
それでも、もしかしたら向こう側に行くことに関連した情報が得られるかも…………という期待があった。




