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セーブ1 これが俺の現実よ

「さてと」

佐波足トモヤ(さわたり・ともや)はパソコン前に座った。

 今日は新しく始まるネットゲームの開始日。

 その登録の日である。

「どんなゲームなのやら」

 開始を楽しみにして待つ。

 そうしないと、色々な不安に襲われてきそうだった。



 既に親はいない。

 四ヶ月ほど前に母親が亡くなっている。

 父親は数年前に他界。

 どちらも詳しい時期はほとんど分からない。

 二人が倒れた事も、後から知らされたくらいだ。

 そのあたりは、家を出て自立していた兄弟達が(兄と姉二人)が処理をしてくれた。

 葬式の喪主も、家を出ている兄が執り行った。

 なのでトモヤが関与してる事はほとんどない。

 せいぜい、喪服を着て葬式に参列したくらいだ。

 それから、財産分与などを経て、今にいたる。



 兄が一人、姉が二人いるが、それぞれ既に家を出て別の場所で生活してたり、嫁ぎ先で生活をしてる。

 三人は必要がないという理由で、家の相続を放棄した。

 それ以外の遺産はさすがに分割となったが、それでもトモヤの手元には幾ばくかの金が残った。

「お前にはそれだけ譲る。

 あとは好きにしろ」

 兄の最後の言葉は今でも覚えている。

 その後、兄や姉達は携帯やメールを変えた。

 もとより接点の無かったトモヤは、これで完全に縁が切れる事となった。

 つまり、家を与える事で隔離したのだろう。

 連絡もできない以上、絶縁状態に等しい。

 調べようと思えば調べられるのだろうが。

 やり方も分からないし、そんな余裕も無かった。



 手元には、確かに結構な額の金が残った。

 だが、それも社会人としてまともに働いてれば得られる一年分の年収くらいだ。

 兄弟四人で分けたにしてはかなりの金額といえる。

 一年、質素にいけば二年は生きていけるかもしれない。

 でも、そこから先はない。

 ならば働くしかない、と思ってもそれも難しい。

 もう何年もニートだ。

 登校拒否の頃からだから、何十年か。

 三十四歳になる今の今まで働いた経験など一切無い。

 そもそも学歴が中学の途中で止まっている。

 こんな人間を雇う会社があるだろうか?

 ネットでみかけるブラック企業なら採用してくれるかもしれないが。



 何よりの問題として、部屋から外に出るのが苦痛だった。

 家の中ならまだどうにかなるが。

 家の外となると、ドアを開けただけで吐き気や目眩がしてしまう。

 長年家の中で、部屋とトイレと風呂を往復するだけで生きていた。

 それ以外の場所にいく事など不可能に近い。

 それでも食い物を買ってくる時や、ゴミを出す日には無理して外に出るが。

 勤めに出るなど全く考えられない。



 そんな調子なので、普通に生活していくなんて不可能と思えた。

 それでも何とか食っていくしかないが。

 さて、どうしろというのだろうか。

 ネットを用いて在宅での仕事もあるのは知ってるが。

 それとて、本当にやっていけるのか不安しかない。

 この四ヶ月がそうだったように、親が残してくれた財産を食いつぶしていくしかないのかもしれない。

(まあ、このまま家で朽ち果てるのもいいか)

 最近はそんな事も考えるようになっていた。



 ならば、と。

(そんなら思いっきり好きな事をするか)

 そう開き直ったトオモヤは、ありとあらゆるネットゲームに踏み込んでいった。

 めぼしいゲームには手を出していたのだが、まだ手つかずだったものも多い。

 無限という程ではないが、ゲームは数多く存在している。

 それらの全てを遊ぶのは不可能と言える。

 それでも、やり残したゲームが無いように、可能な限りのゲームを遊んでいった。

 もちろん、先へと進めたり、高レベルにまで成長させたり、というのは無理だ。

 なるべく多くのゲームに手を出す、という事を考えると、広く浅くになる。

 それは仕方ないと割り切り、ただひたすらにゲームをし続けた。

 どうせ先などない。

 ならば、それまでただ好きな事をやってようと。



 何より、出かけていける外など、ネットゲームの中しかない。



 虚構であっても、そこに作られた世界だけが、飛び出していける外なのだから。

 その世界で、ただひたすらに自分の好きなように旅をする。

 現実でできない事を、ゲームの中でやる。

 不毛だとは思っていても、トモヤにはそれしかなかった。



 今日、これから始めるゲームもその一つになる。

 新しく始まるというゲームだったので、とにかく登録。

 何はともあれやってみないと、というところだった。

 とりあえず、主人公と一緒に活動するのが女の子ならそれでいい。

 ゲームの中でまでむさ苦しい男と一緒なんて遠慮したかった。

 また、ぼっちな生活をしているトモヤにとって、人の声を聞く数少ない機会だった。



 などと考えてると受付時間になった。

 早速、メールアドレスをはじめとした登録をしていく。


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