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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

スコアアタック

作者: 土田 史路

 銃口から吐き出された弾丸が、制服を着た女生徒の頭に赤い花を咲かす。多分女子高生かな、と思う。

 我ながら「赤い花を咲かす」なんて、使い古された、退屈で面白みも無い表現を使ったけれど、この青い、暢気さを多分に孕んだ空と、何ら変わりない日常の延長上にある町並みの中で見ると、そんな面白みのない言葉も随分と味わい深い表現に感じるもんだ。

 次いで、隣に居たニキビ面の男子生徒の胴体を吹き飛ばし、間髪を入れず、その後ろに居る生徒の上あごを吹き飛ばす。

 生徒が、多数の生徒が群れを成して押し寄せて来る。自分のやる事は彼らを殺す事だ。やり方は問わないだろうけれど、折角効率の良いものを持っているのだから、手にした小銃を使うのが良いだろう。

 彼らは走って来る。口から入った弾丸が、頭で暴れまわり側頭部から飛び出た死体を乗り越えて、股間を撃ち抜かれ、無力に蹲る生徒を踏みつけて。

 何故僕は彼らを殺しているのか、疑問に思わない訳でも無いけれど。道理は無く筋道だった答えも無さそうだ。深奥から湧き出る欲求、と言うより強迫観念とでも言うものか。そもそもこの欲求は人を殺すことを求めているのか、銃を撃つことを求めているのかすらわからないんだ。只、一人生徒が死ぬ度に、自分の何かが増える、そんな漠然とした感覚だけは感じる。そこにあるのは喜びなのか、達成感なのか、悪いもんじゃない。ああそうか、詰まりこの欲求は殺す事に対してのものだ、疑問の一つは解決した。


そんな益体もない事を考えている瞬間に、僅かな隙が生まれたか、一人の女子生徒が眼前へ迫っていた。長い睫に、未だ未成熟さを残しつつもそれでもしかし判然と女を主張する顔だけど、その瞳は虚ろで、怒っているとも嘆いているとも見えた。それは丁度、光の当たり方によって幾面にも表情を変える能面の様だ。咄嗟の判断で眼球に銃口を突きつける、眼窩を貫いたそれは恐らく脳に達したろう。思い切り銃を横に振ると、妙な痙攣をしているその体が作り物じみたこわばりを見せながら倒れた。


 自分がそもそも何なのかが分からない。これはもっとも大きな疑問だ。考えても見れば、気が付けば彼らを相手に一方的な虐殺をやっているような気がする。詰まり彼らは攻撃をしてこない。否、こちらに走って来るのだから、もしかしたら自分に何か攻撃をするつもりなのかも知れないけれど、そこの行進に獰猛さは無くて、判然としない表情のままただ走って来るだけだ。勿論それも以上とは言えるけれど。

 過去こそが自分を規定するなら、自分はなんだってんだろうか。気がつけば既に撃っていた。ならば、撃つ人、シューターとでも?それとも殺す人?

 人間は考える葦らしい。けれど自分が本当に一滴の水で死ぬかも分からなければ、答えの出ない問いをただグルグルと、自分の尻尾を追う犬のように追い続ける事が考えるという事なのかどうかも怪しい。けれど僕は彼らを殺す。殺す。

 殺すうち彼らは段々と変わって来る。速く、速く。数が多く、多く。撃って撃って。外した、当った。近い、まず・・・・



 「GAME OVER」


 そんな文字が、画面中央にでかでかと明滅する。

「ああ、またここか」男は嘆息混じりにそう呟くと、憮然とした表情で画面を見つめた、ハイスコアには程遠い。画面では、「GAME OVER」の文字の後ろで、先程まで男の分身という役割を担っていたキャラクターが仰向けで固まっている。その表情は文字に隠れて見えない。

 第一波の攻略は楽勝だ。問題は第二波か、敵の動きが速くなる。未やオープニングに変わっているモニターを前に、攻略法をあれこれ思い浮かべる。男の後ろには誰も並んでおらず、席を立つ必要は無いし、いわんや再度ゲームを始める事に文句を言う人間も居ない。オープニングが終わり、次いで始まったデモプレイ画面をぼんやりと見ながら、この主人公もご苦労な事だ、制服姿の男女をのべつ幕なしに撃ち殺す役割を担うとは。と息抜きがてらした妄想を鼻で笑う。やがて、やおら財布を取り出すと、百円を取り出し同じ筐体に投入した。

「もう一勝負」そして。



 そしてまた僕は赤い花を咲かすんだ。

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