しおり
「そぉなんだ。翔大さんはまだ彼女のこと忘れられないんだね。」
目の前のしおりが、うんうんと、うなずいている。
昼下がりの日曜日の動物園。
あの会場で出会ったしおりと初デートをしていた。
デートなのか?翔大はまだ疑問だったけど。
あの会場からの帰り道。しおりから連絡先を教えてきた。
翔大は彼女のことを相談する相手が欲しかったのもあり、翔大もすぐに自分の連絡先を教えた。
「翔大さんってすごく一途なんだね、いいなー、そんな風に思われて。私もそこまで一途に思われたかったなー。」
しおりは、ベンチから立ち上がり、声を落として言った。
「私も一途に彼のこと好きだったんだけど、重いって言われちゃった。」
「自分では全然そんなつもりなかったのに、重いって。」
翔大には、その言葉の意味がよく分かった。
翔大もただ一途に彼女を思っていただけなのに、よく彼女に翔大は重いと言われることがあった。
その時の二人はとてもうまくいっていたので、翔大にしてみれば、そんな言葉彼女の照れ隠しだろうとぐらい想っていたのだ。
「あの人にはもう違う誰かがいて、私は置いてきぼり。」
違う誰か?
しおりの言葉に、はっとする。
彼女にもそんな人物がいるのだろうか?
自分以外の誰かの事を彼女は愛しているのだろうか?
それはどこのどんな男なのだろう?
翔大の心に殺意に似た感情が芽生えた。
全く関係のない近くを歩いている恋人達にでさえ、殺意を覚えた。
「翔大さん?」
黙りこくってしまった翔大の目を心配そうに見上げる、しおりの顔が翔大を現実へと引き戻した。
「あ、ごめん。」
「翔大さんもまだ過去から帰れてないんですね。……、難しいかもしれないけど、一緒に少しづつ乗り越えていきませんか?」
え?
翔大は、しおりの言葉の真意がすぐには理解できずに、戸惑った表情をしてしまったのだろう。しおりが、バツが悪そうに、
「急にごめんなさい、でも、このままじゃいけない気がして。」
そう言うと、夕日に背を向けて、
「今日は取り合えず帰りましょう。家まで送って行ってくださいね。」
ニコッと笑った。