家出クラブとの遭遇
私ののiDはS303-664-773-344 だ。
名前は二つある。
一つは仲田陽子、もう一つは澤田昭子。
半年前、14才の時、山形県から東京へ
親は借金のカタに私を売ろうとしていた。
こういう児童買春と言うのは、組織ぐるみ・家族ぐるみ。
借金とかでどん底の家族を言い含めて、子供を売らせるのだ。
小学生で1回30万くらい、私のように幼く見える中学生で20万という話だった、
半分の10万が親の取り分になるらしい。
2000万の借金はだったと聞いたので、私は200回抱かれる計算らしい。
これじゃ、家出するのも仕方ないと、みんな言ってくれるだろう。
どんなオヤジに抱かれるかと思うと、いてもたってもいられなかった。
親から盗んだ20万で新宿を根城にカプセルホテルとネットカフェを転々としたが、
一ヶ月で底をついた。
そういうときには、神があらわれた。
家出少女に寝床と食事を与えてくれる・・・それが神。
しかもロリコン野郎は、最後までやらなくても、少なくとも2万を出す。
一月に5人神を見つければ、根城をネカフェにして、しのいでいけた。
町を彷徨き、夜は神と出会えないかさまよう、なにもなければネカフェでネットをさ迷う、
他にやることもない。
15才になれば、働く。
そうなれば、今度はデリヘルやファッションヘルスで、年齢詐称でも通用するだろう。
どんどん堕ちていくのは分かっていたが、そもそも親に売られた時よりまし。
自分で選択している生き方なので、まだましに思えたのだ。
家出クラブについては、うすうす噂にはなっていた。
まあ、都市伝説みたいなもので、クラブに入ると、新しい名前がもらえる。
さらにまともな仕事と部屋を与えられる。
タコ部屋みたいに過酷なことはないらしく、風俗もやらなくていい。
なんて話だが、声がかかるのは、ほんの一握りらしい。
5年歌舞伎町に立ちんぼをしていると言う女が教えてくれた。
「スカウトがいるらしいのよ・・・でもパッと見わからないっていう話よ。
私の友達もいなくなったんだけど・・・もう連絡つかないのよ」
そりゃそうだ。新しい名前と場所を与えられたら、すべて断ち切るものだ。
アメリカの証人保護プログラムと同じこと。
アメリカではマフィアの「血の掟」による復讐から証人を保護する目的で設けられた。
住所の特定されない場所に極秘で居住、パスポートや運転免許証、社会保障番号まで新しいものを
交付し、生涯守られる。
家出クラブの新宿三四郎という人は、アメリカの証人保護プログラムを家出人に応用したと
聞いている。
素敵な考え方…まさに彼は、本当に私たちの神様だ。
出会いたいな~って思いながら、夜の街を徘徊していた。
そんなときだ、新宿三四郎の家出クラブに誘われたのは!
その時は、ただのオヤジだと思っていた。そいつは、神を探している私に、しれっと声をかけてきた。
「僕とご飯に行かない?」
きちんとしたスーツを着て、そこそこハンサムなオヤジ。
いつものギラギラした獲物を物色するような脂ぎったのとは違う。
ちょっとセレブに見えるし、インテリにも見える
しかもやさしい目をしているけど、やはりヘンタイなのかもしれない。
だが、暴力のにおいはしない。
どちらかと言うと、弱弱しい感じだ。
どうしよっかな~と思っていると、
後ろから、チンピラっぽい若いのが声をかけてきた。
「おっさん、その子は僕のだよ」
そんな覚えは、毛頭ない。
このチンピラは、私をダシに、この中年から金を巻き上げるつもりなのだ。
「パパ・・・早く行こうよ」
「だめだよ、おっさん、こいつ連れていきたいなら、金払ってよ」
冗談じゃない・・・やや安全そうな私の神をどうしてくれるの・・
チンピラをにらみつけたが、彼は意に介さないようだ。
すると、オヤジは、すたすたとチンピラの方に向かっていった。
ああまずい・・・・喧嘩になる。
オヤジはチンピラとともに、小道に消えていった。
私は、べつに親父に借りがあるわけではない。
その場を離れるようかどうか・・・ほんの1分もしない内にチンピラじゃなく
オヤジの方が戻ってきた。
「ああ、話はついたよ」
ほんとかよ~と思いつつ、二人で歩き出した。
そして、チラッと後ろを振り返ると、オヤジのでできた小道に
さっきのチンピラのスニーカーが二つ見えた。
しかも、地面に足が二本のびてる。
「げっ、やられたのはあいつの方なのね」
逆に、このオヤジ何者だ???という恐怖が、彼女の頭に浮かんでいた。