ゴッドファーザーシステム
この女に名前を与える必要がある。
どれにしよう?
新宿三四郎はリストを探る。
家出グラブは、こういう時のため、普段から名前を育てているのだ
名前を育てる?どういうことって?
その言葉通り、記録の中で、名前だけ、育てる。
最初は、新生児を登録する。
町をまるこど支配しているから簡単だ。
で、その記録は、丁寧に育てる。
組織の管理する幼稚園に入り、小学校に入る
中学を卒業すると、クラブ配下の工場に勤める。
そして、給与を払い税金を納付する。
それらの名簿の管理はすべてクラブの構成員が担当するから
露呈する事はない。
例えば、この世に存在しない多中つとむ27歳は、
1987年に生まれ、幼稚園に入り、私立○○高校を卒業し
○○自動車整備工場に勤めて月給20万を稼いでいる。
小学校3年の時に骨折で入院、風を引けば医者に行き薬をもらっている。
さらにサッカー部に所属していて、練習試合ではハットトリックを決めた記録もある。
この辺りは、サッカー部のHPも作り上げ、存在しないチームとの戦歴をのせる。
たまにクラブの管理する別の高校を相手チームにする・・・
ここまでを関連するすべてのメンバーが、クラブの人間で
シナリオに従い、診断書を作り、税金を払い・・・記録を書き換える。
街を一つ支配するだけで、よりリアルな人生を、実体がないまま作り上げることができるのだ。
これが、新宿三郎の言う、「バーチャルを育てる」ってことだ。
地方の崩壊した家庭から逃げてきた女に名前を与えた。
彼女は、この町で生を受け、この町の教育を受け、
この町で働く工員として、存在をはじめる。
家出少女にとって偽名でも、公的には、国に認められた本名なのだ。
しかも、誰かの名前を奪ったわけではない。
今までの「戸籍を売る」とは、そこが違う。
これが新宿三四郎の考えたゴッドファーザーシステム。
そう、名付け親=ゴッドファーザー。
でも、いかついやくざやギャングではなく、さわやかな若者ハッカー。
彼にとっては、育成ゲームでしかない。
それに数が増えてきた時点で、さらにゴッドファーザーは増やし、
彼らに管理させているので特に支障はきたしていない。
重要なことは、名前を育てておく。というコンセプトだけ。
面倒だが単純、しかも効果は抜群なのだ。




