名前のない女の復讐
新宿三四郎のところに。資産家から、悔やみのメールが来た。
「今回は、非常に残念だ」
そして、反乱する田中ホームのおっさんとじじいを北海道に送る途中であったことをつらつらと書き連ねていた。
結論は不遇の事故。
だが、やはり気に食わない。
人生から逃げた中年以降の家出と、未成年が親から逃げる家出は
本質的に違うのだ。
田中ホームの蒸発者のIDを調べてみた。
彼らの本名をたどる・・・・・50名中全員が7~8年で失踪により、
家族に保険金をもたらしていた。
問題は、そのあとだ。
家族以外に、全員会社に保険をかけられていた。
会社は、バラバラでスーパーマーケットであったり、土木会社であったり
鉄工所であったり・・・・
新宿三四郎が調べていくと、すべて資産家の関連会社であった。
家族に気付かれずに、死亡認定を入手することは、資産家の人脈では
難しいことではない。弁護士から詐欺師まで、自由に使えるのだから・・
50名で平均3200万、総額16億が出ていた。
さらに調べると、失踪者を収監し、すぐに二重に保険をかけるやり方で、
年間200名ほどの失踪認定成功させ、年間60億を入手している。
資産家は、生活保護で食わしておいて、保険金で莫大な利益を出す
家出産業を構築していたのだ。
このCOOLなやり方は、リスペクトするが、何かが違う。
金を生み出し、家出人を養い、地方の町を支配して、組織の安定をはかる。
そう、彼のは「人集め」であって、
新宿のは「人助け」なのだ。
実際、家出クラブの会員は少しずつ減っていた。
それは、ホームレスの死亡率の高さにもあった。
同時にAV嬢のように自殺するものも多い。
新宿三四郎にとって、想定はしていた出来事。
やはり家出人は、社会に不適合なのかもしれないからだ。
「全部捨てて、他の土地に逃げる」
そんな考え方をする人間は、簡単に命を捨てる可能性は高い。
だからこそ、学校を買収して、教育を与え、同時に勤労を覚えさせる。
若い家出人の構成こそ、彼の理想なのだ。
それが人助け。
ホームレスを管理することとは趣が異なる。
家出クラブは、このままでいいのだろうか・・・・
☆☆☆☆☆☆
新宿三四郎が、家出クラブの在り方を悩んでいるとき・・・・
資産家は、新宿の中華料理屋で夕食をとっていた。
その店「東北南飯店」の女社長・簫麗華は、例の資産家に
酒を注いでいた。
社長と言え、まだ35歳の麗華は、スリットの入ったチャイナドレスを着こなし
細身ながら、ボリュームのある体で、色香を振りまいていた。
資産家は、その女の部分に魅了され、何度か通い詰めていた。
今では引退したとはいえ、何千億のコンチェルンの会長である。
英雄は色を好むものだ!
男は美しさと賢明さを兼ね備えた女に惹かれ、女は男の一流に惚れていた。
そうすると、自然と生い立ちを話すようになる。
「社長ね・・・私、25の時結婚したのよ・・台湾で。
相手は財閥の一人息子でね・・・莫大な財産持ってたのよ。
5000億よ・・・・でも、子供ができなかったから、追い出されたの」
「それは・・・でも、訴えれば結構取れるよ」
「手切れ金・・・そうね・・・少なかったわよ。100億だもの」
「それはすごいじゃない」
「何言ってるのよ、子供がいたら全部でしょ・・・5000億よ」
金を持ってるから、こんな大きな店を出せたんだ。
「でね・・社長・・お店も儲かっているし・・お金も去ってても
動かさないと意味ないし・・・いい融資先ないかしら」
しかし、まさかこの女が、詐欺師で・・・規模の大きなあるある詐欺を
仕掛けているなんて、この時には気が付かなかったのだ。
資産家の資産は1兆円と言われているが、大半は会社名義の土地やビルや
工場などで、銀行や株などすぐに動かせるものは3000億
・・・・これを奪いに来た女だった。
「愛しているわ」
簫は、資産家を翻弄するのに時間はかからなかった。
そのために体を差し出し、愛人としての位置を固めていく。
そして、簫の生まれた台湾の財界人を資産家に次々紹介していった。
「それでね・・・彼らもあなたに投資したいらしいのよ」
「ああ、構わんが・・・利子は高いのか」
「ううん・・0.5%」
「そんなに安いのか・・」
「でも額は大きいわよ。3000億」
「えっ、3000億って・・・でも利子は25億か・・・確かに安い」
資産家は、この金があれば、例の北海道の街のような支配地を
さらに10ほど作れると計算していた。
すると、その地域の実権を握ることができる。
治世を握るという事は、その地区の開発も自由、その地区の商業権も自由
どんな産業を始めてもいい・・・さらに戸籍を握るから、過去も未来も
自由に書き換えることができる。
そう言う事だ。
もはや革命。
彼は、ホームレスを資産としてとらえていた。
しかも、選挙権のある資産。
結局は、金持ちは、成功すると名誉がほしくなる。
そのための地方自治体の一部を完全支配する・・それが彼のビジョンだ。
彼女は、段取りを話し始めた。
「海外から莫大な資金を貸し付けるのは、目立つから台湾の人たちは
いやがるのよ・・・秘密裏でやりたいって。
だからある会社を買ってほしいの・・・今の時価が2000億・・」
「ああ、すごいね」
「上場してるから問題ないわよ。
それに、会社は500億くらいの資産があるし、
そのお金は、何も使わないから、貴方の物のままよ。」
「それもそうだね」
「で、私たちは、そこの株を時間外取引で買う。5倍の5000億。」
「つまり会社に投資するという事で、金の移動をするわけだ」
「そう・・それだと、政府に目をつけられる可能性はないし
あなたは損しないでしょ。
それに口座にちゃんと入るか確認してから、あなたは株を売ればいい」
確かに、危険は少ない・・・・詐欺にあうパートが見えてこない。




