そしてなりすま王子が動き出す
その安置所に、中崎俊輔が、現れたのは、翌日の朝10時。
俊輔は青山で買った5万円位の、オーソドックスな背広に、くろぶちの眼鏡。
生真面目そうな雰囲気で、おどおど係員の後をついていく。
「保険調査員の中崎と申します」
中崎は、安置所で遺体を確認すると、今度は警察のまとめた長所を
細かく読み、さらにコピーをとっていた。
すでに失踪により、大金を支払った保険会社としては、大騒ぎで
指紋で判明した犠牲者の確認に躍起になっていた。
本来、被保険者が生きていれば、返還を求めることができるのだが、
今回の事故で、結果、死亡なので、だまされたと騒ぐかどうか・・・
これは、保険会社も悩んでいた。
各社から調査員と会社の担当が来るため、それだけで20名近くになり、
特別に部屋が与えられた。
そこには、船越警部も鎮座し、質問に答えていた。
ここで会話から何かのヒントが出てこないか・・・・
ある男が、質問をした。
「実は、ロレックスの時計が出たと聞いたんですが」
「ああ、サブマリーナの緑・・・・たぶん若いと思うよ。
でも遺体は、焼けてしまって組織も指紋も残ってないんですよ」
警部に質問をしたのは、中崎だった。
「それがどうかしましたか?」
「吉村清三という男が載ってたかもしれないんですよ。
このメール、家族の方から転送してもらったんですが・・・・
『チャーター機で函館に行く』・・・と書いてるんですよ
ですから、シリアルナンバーを照合したいんです」
そのメールに特に疑わしいところはない。
まあ、後で確認しよう・・・・
「わかりました。時計をお見せしましょう。ただし、後でそのメールを私に
転送してください・・・家族の方にもお話聞きたいので・・」
「ええ・・かまいません」
再度、安置室に戻ると、今度は奥の部屋に向かった。
そこには、腕だけとか足だけとかの部分しか残ってないものと
さらに遺品のみが置かれているものがあった。
そして、ロレックス・・・
「こちらです」
中崎は、しげしげとそれを見て、シリアルナンバーを確認した。
「違うようです」
寂しそうに顔を下に向け、彼は言った。
その瞳に、涙が込み上げていたのだが・・・・だれも気づきはしなかった。
「残念です・・・・」
「そうですか・・・でも逆にこれで生存の可能性があるわけですし」
「そうですね・・そう伝えます」
「私どもも、一応調べたいので、メールの転送をお願いします」
中崎は、メールを転送し、車で帰っていった。
それを確認してから、警部は、そのメールの行方不明者を調べることにした。
遺体には対応するものかなかったので、あまり期待はできないが、
わざわざチャーター機で移動する人物ってどういう奴か・・・
何か手がかりが、ないか・・・疑問はすべて解決するのが警部のポリシーだ。
「ああ、アドレスを言うから、調べてくれ」
警部が、スマホでメールを立ち上げた。
「あっ・・・」
メールの文面が、どんどん消えていく。
溶けていくように消えていく。
「あっ・・・」
ウイルスが仕込まれていた。
数秒で真っ白になってしまった。
あわてて、他のメールを確認すると、それらは何の変化もない。
つまり、このメールだけウイルスが仕込まれていた。
「あいつを追いかけろ」
その頃、中崎は、運転手付きの別の車に乗り込み、変装をとき、スーツを脱ぎ
アロハ柄のジャケットのちゃらいお兄さんに変身していた。
彼の手には、さっきの時計が握られていた。
これは、間違いなく苗田の時計だ・・・・シリアルナンバーがその証。
俺がプレゼントしたものだ。
って訳で、赤い霊柩車を用意した。
片平なぎさも大村昆も乗ってない・・ただ時計がのっているだけだけどね♪
弔いはすべきだろ!
・・・俺の家出クラブのメンバーが、このまま氷になるのは許しがたい・・・
資産家のやったことは「死に至る行為」
新宿三四郎のコンセプトは、「生きるためのなりすまし」
ついにクラブの分裂が始まる。
でも、同時に警部は、消えていくメールを見ながら感心していた。
あの中崎って調査員・・・あいつは、怪しい。
ロレックスも消えたし、小馬鹿にされ感じがしていた。
あいつは、IDの事も知っているんじゃないか・・・・




