名前のない犠牲者の一人 2
「でだ。君は頭いいじゃない。ほぼ小学一年からずっとトップ。
知能指数も150って書いてある。
僕の下で、育てたいんだよ・・・それが一番の理由かな、
君を助けてあげる。」
このちゃらいお兄さんこそ、新宿三四郎であった。
まだクラブは、表にホームページを持ち、システムも構築中。
そんな創世記のでき事であった。
新宿は、すでに50名近い家出少年少女を里親に預けていた。
資産家と会うまでのその時期に、家出した子供たちの逃げ場所を作り始めて
いたのだ。
真面目な少年ばかりだから、里親は喜んで、子供にした。
綺麗な少女は、安全な場所で稼いでもらう。
将来の幹部として直接スカウトしたのが、
元の名が名波義弘、クラブ名が苗田嘉彦。
その後、徹底的にプログラムを教え、ハッキングの腕を10年近く叩き込み、
さらに最近は、組織の把握のため、いろいろな企業で研修、最近はスーパーマーケットで研修をしていた。
ハンサムで、好青年然として、しかも弁の立つ彼には、次は例の北海道の街で議員にして、街づくりを覚えさせようとした。
「シムシティのリアル版だと思え?」
「はい!」
新宿三四郎のお気に入りだったのだ。
その彼が、事故で亡くなったのだ。
これは、問題である。
☆☆☆☆☆☆
警察は、墜落事故について、賢明な捜査を続けていた。
するとさらに、怪奇なことが出てきた。
死体から出てきた指紋のうち12個がデータベースのヒットしたのだが、
すでに失踪届けが出て7年以上を経過し、死亡の認定をされていた。
指紋があったという事は、なんらかの犯罪を起こしたか、犯罪の疑惑があったという事だが、死者の1/4を超える確率でと言うのは、異常である。
船越警部は、失踪と言う言葉に引っかかっていた。
「なぜ、失踪届けが出ている人間が、そんなに大量に集まっていたんだ?」
その出身地は、全国に広がっていた。
そこで、福島出身の男の家に聞き込みに向かった。
「いつ旦那さんは失踪したんですか?」
「15年前です。ひどい人ですよ。
酒飲みでね~家でも毎日飲んだくれて・・・暴力も振るうし・・・
子供にまでですよ・・・
警察にもお世話になるし…あんなのいなくなればと思ってましたよ」
「そうなんですか」
「いろいろ職を変えたんですが、りストラされて・・・・・」
「その後連絡は…」
「ないですよ、一度も・・・・ホームレスにでもなったんじゃないのって
噂してましたよ」
要は、生活破綻者で、本来、結婚して子供を持つなんて許されない人種なのに
こいつは、結婚して責任に押しつぶされたわけだ。
離婚率30%を超える現在、珍しい話ではないが…
いい事など何もなかったんだろうな・・・
「そうですか・・・」
警部は、墜落事故について話した。
「ええ・・・もういいですよ。だってもう死んだことになってますし」
「ほんとご愁傷様です」
「いいんですよ。7年たった時にね・・死亡認定されて、保険金が下りたん
ですよ。ええ3000万円ほど・・・・それだけですね。
それだけは感謝してますよ」
たまにこういうことはある。
失踪宣言後に、本人が戻ってきたという場合。
その時は、取消の申立てができるが、保険金は返還の義務がある。
むしろ、この家族にとっては、今亡くなろうと、失踪よる死亡認定だろうと
どちらでもいいわけだ・・・・むしろ生きているよりは…
陰鬱な気持ちで、警部は帰路に着いた。




