名前のない者たちの事件
事件が起きた。
東北の赤倉は、温泉地である。
と同時に田代峠とともにUFOの目撃地としても有名である。
その赤倉に、東京から飛び立ったチャーター機が墜落したという話が
入ったのは、深夜の零時を過ぎていたころだ。
そこそこ中型の大きさで、40名は乗れるという飛行機で
満員だったようで、墜落現場には黒焦げの死体が散乱し、
地獄絵のような感じだつたと捜査を手伝った地元の人は言う。
さて、問題は、企業が所持するプライベート機で、
違法ではあるが、国内移動だとちゃんとした乗客名簿を作らないことがある。
飛行の申請とダミーの名簿で充分だからだ。
そのせいで、機長と副機長しか名前がわからない。
申請では、5名の客のはずが、50名乗っていた。
誰だかわからない死体・・・・これもまた今の流行ともいえる。
新宿三四郎は、このニュースを驚きの目で見ていた。
なぜなら、このプライベート機を持っているのは、例の資産家の企業の一つだったからだ。
マスコミは不明姿態の事を、ただ騒ぐだけだが、彼は、わかっていた。
「例の田中ホームから消えた奴らだ・・」
ここで初めて、彼は、資産家に疑問を持った。
家出クラブというの物に、自分のコントロールできない組織にするなら
俺はやめるぜ・・・・
まずは、真意を確かめることだ。
たまたまの事故なのか・・・何かの処理なのか・・・・
あの警部が、この事故との関係性を疑いはじめるのは、
時間の問題だと・・・・彼は感じていたから。
☆☆☆☆☆☆
だから、資産家は、悩んでいた。
田中ホームの捜査が進んでいるらしい。
家出クラブとしては、ばれると大変だ。
そこで、資産家は一度、山梨の山奥の小屋に彼らを収容することにした。
同時に、用意した暴力団の男に自首させ
彼が知らぬ存ぜぬで時間を稼ぎ、そのうち事件が迷宮入りになれば
また新宿三四郎に頼んで、新しい名前を作ればいい。
そう思っていたが、50名近くにもなると、静かにできない輩が出てくる。
こんな山奥で、じっとしてる事が、苦痛で無理と言う人間だ。
「俺たちをここから出せ」
「さもなくば、クラブの事を世の中に暴露する」
そもそも、感謝されてもいいのに、なんだこの反抗は…
資産家は、彼らを北海道のある街に移転させることを考えていた。
本人はいくつもの財政破たん都市がある。
有名な北海道夕張市、北海道松前郡福島町、北海道古宇郡泊村など・・・・
20の都道府県、864の市町村が財政再建団体数はとなっている。
財政再建団体に指定された町は、復興のため企業を誘致したりする。
資産家は、それを利用した。
工場を作ることで、町に感謝される。
そして、自分の手の中の労働者を送り込む。
資産家が狙った町は、住民は、1000名足らず、ここに工場を作ることで
転居してきた労働者は5000名。その多くが家出クラブの名無したち。
すると何が起こるかと言うと、選挙をすると資産家の推薦するものが
当選していく。
3年で村役場を完全に支配してしまった。
つまり、政治を握るという事は。戸籍から何から自由なのだ。
新宿三四郎もこれを利用して、新しい名前を増殖させていく。
ただ、家出クラブにとっては、重要な拠点で、平穏を装いながら、
さまざまなトリックをしかける基地でもある。
だから、優秀で従順でトラブルの少ないものだけを厳選していた。
だが、例の田中ホームのホームレスたちは、爆発寸前だ。
だから一時的に彼らを、その町に移すことにした。
それなら、彼らも自由に生きられる。
解決策としては悪くない案だったが、まさかの墜落事故である。
☆☆☆☆☆☆☆
「これはクラブ活動だ」
そもそも新宿三郎は資産家と哲学は違う。
「だから楽しくなくっちゃつまらない」
クラブ活動には試合や発表会もあれば合宿もある。
そうだろう・・・・
若い奴は、家出をして人生と言うゲームに参加し、試合を繰り広げる。
だから、RPGと同じで、参加ネームを与え、体力、攻撃力、防御力、知力など様々な項目のパワーを上げる必要がある。
家出はスタートに過ぎない。
その為、新宿三四郎は、大学を買収したり、スポーツチームを作ったり、育てる事を懸命に行う。
だが、資産家は、50以上のおおかた上がりの見えた家出人を集め、働かせるか、生活保護を巻き上げるか、経済的な使い方をしている。
それは、それでホームレスに生活の安定をもたらしているかも知れない。
だが、北海道のある町を支配したのは、賛同しにくい。
裏をいく組織が、表に出ていくのは、新宿三四郎には、不快だった。
ハッカー精神だ。
俺たちはゲリラでなくっちゃ。
そんなときだ。
クラブ員が、飛行機ごと、墜落したのは!
それは、あの集団蒸発したホームレスハウスのおっさんたち。
それと、何人かは、町を見学する次代の家出クラブのエリート達。
ホームレス達が、反抗しはじめたのは、報告で聞いていた。
だが、現象だけ見ると、反抗分子を処理したようにも見える。
それはそれで、仕方はないが、問題は、新宿三四郎が、期待していたホープも死んでしまったことだ。
彼の名は、苗田嘉彦。
スーパーマーケット、ミラクルウインズで働いていた。




