女の骨には意味がある
船越警部は、関西に向かった。
その娘は、中村玲子と言う名前だ。
尼崎市は、兵庫県の南東端に位置する。
昔から、公害問題を抱え保健所政令市に指定されているこの町は
なんとなく公害都市のにおいがする気がした。
関西地区では、やややんちゃな街として揶揄されることもある。
警部が駅を降りても、車の警音器はうるさく、コンビニ前で中学生が
たむろしていたり、なにか昭和の喧噪を感じさせた。
治安が悪いとよく言われるが、データ的にはそうでもない
盛り場が多いので、そういうイメージがあるのだろう。
さらに、民家の床下などから6人の遺体が見つかった連続変死事件もあり、
尼崎の印象はがた落ちだが、町と関係があるかはわからない。
ただ下町感覚は抜けきらないので、いろいろ警察の気になる輩も多いのも
事実。
中村玲子の住んでいたのは下町のこじんまりしたアパート。
地元警察に聞く。
「この子ですね・・」
失踪届けが出ていた。
「親が出したんですけどね・・・それが娘が1週間に一度帰る程度の
不良で、もともと夜家にいることが少なかったんで、
半年たってから、これ出したんですよ」
もともと不良・・・家との絆が細かったというわけだ。
「でですね、この親がまた問題で・・・・」
「というと・・・」
「もともと父親がやくざでして、母親もソープ上がり
この失踪届けが出て、3年後に二人とも失踪しまして・・・
なもんで、この娘の捜査も、なんとなくあやふやに・・・」
子供が失踪して、親もいなくなるなんて・・・・
「父親の方が、仁義をかいて、組から狙われてたんですよ。
どうも薬をネコババしたみたいで・・・」
そんな家から逃げたしたくなるのも仕方ないな・・・
「なにかないですかね?」
「ああ、一人彼女の不良グループの仲間が、駅前でスナックやってますよ。
あの女なら、何か知っているかも・・」
そのスナックの名前は、さゆり・・・
ママの名前そのまま・・・・
「ああ玲子の話ね・・・・親がまともじゃないからね。
中学時代から、家を出たい・・家を出た言って、よく言ってたわ」
10席ほどのカウンター席しかない狭い店内で
ママはジャマクさそうに答えた。
「私の家とかね、男の家とか・・・ほとんど家に帰らなかったんじゃないの。
でも、中学二年になって夏休み終わったら来なくなったの
・・・その間だと思うのよ。絶対に家出ね。」
「どうしてそう思うの?」
「男の家に入り浸ってたからね、もう体は大人・・・・
私から見ても、セックスの匂いがするような、フェロモンの塊だった。
顔はブスだったけどね」
「そんなにブスだったの?」
「でも真面目な子なのよ。頭は切れるし・・・・
どんなにワルでも、薬とか風俗とかはやらなかったしね」
「ちょっと、これ見てくれない」
船越警部は、AV女優の写真を見せた。
「わっ美人!有名な子なの?」
「ああAVの田原って子、似てるかな?」
「う~ん、顔は全然違うわね・・・・輪郭が違うわね。
セクシーなのは似てるかな・・・」
そこで、スマフォで彼女の動画を見せた。
「こんな喘ぎ声じゃわからないわよ・・・あっ、台詞の声が似てるかも」
「ほんと・・・」
「どうかしら・・関西弁じやないし・・・・自信はないわよ」
さらにモンタージュ写真だ。
「うん、これくらいのブスたったわよ。
でもね、これじゃわからないわね・・・だって、子供の時の事
そんな覚えてないわよ」
確信を持ってくれないと、証言としては弱い。
これは、刑事の勘と言うやつで言えば、30%だな・・・
「そういえば、玲子は家出マニアだったのよ。
小学生の時から、何度も家出していたの…2,3日のプチ家出。
でも、親は探しもしなかった・・・・・・愛がないってぼやいてたわよ」
「将来の話とかしたかい?」
「うん、東京に行きたいって言ってたわね。
でも関西人では、珍しくないじゃない。
AVの話なんてしたことはないわよ。」
少なくても、この中村玲子の線は可能性を秘めていた。
船越警部は、さらなる操作を地元の警察に依頼し、
東京に戻った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
田原草子、本名中村玲子は、尼崎が嫌いであった。
いつも町はうるさくて、いつも空気は淀んで臭い。
そして、自分の親は、やくざ者で、それは友達にもばれていて、
小学校のころからいじめられ、クラスにはなじめなかった。
家に帰っても、散らかった部屋のなかで、ドラッグのにおいがしていて、
こんな中で、まともに育てと言うのが、無理だった。
たまに父親を訪ねてくるのも、だいたいがやくざ者で
体の成長とともに、卑猥な話をしてくる。
ソープ嬢をやってたらしい母親は、神戸あたりで男を物色しくわえこみ
「あんたも早くソープで働きな」と、じわじわ攻めてくるよえな女だから
そういう卑猥な話も、一緒に、ニタニタ見ている。
このままでは、私はやられる・・・と思ったのは、13歳の中1の時。
それからは、友達の家を渡り歩いた。
さらに、不良の男に気に入ってもらったら、そいつと夜を過ごすことに…
中学2年の時には、月に一度か二度しか家には帰らなかった。
どんどん薬中になっていく、親たち・・・・家の中はごみ屋敷・・・
その頃から、家出を真剣に考え始めていた。
「東京に行こう! 」
それだけが、頭の中にこびりついていった。
だが、顔は可愛いわけでもなく、知識があるわけでもないから、
家出を決心するには、不安が多すぎた。
「体でも売ればなんとかなる」
そこまで考え始めていたころ、インターネットで悩み相談の会議室に
出入りをしていた。
そこで、ない日のように自分の境遇を書き込み、意見を求めると、
いつのまにか、掲示板のスターとなっていった。
そんな時にメールが届いたのだ。
『家出クラブにようこそ!!』
それがクラブ、そして新宿三四郎との出会いだった。




