番外編 ※七鍵キャラクターが演じるシグルズ伝説『黄昏篇』
劇中劇 ◆第四幕◇
○炎と楯に包まれた館
おでん /ニーダル「さて茶番劇もいよいよクライマックス! 七鍵キャラで演じる北欧神話のシグルズ伝説第三回。前回までのあらすじは、以下の通りだ。ヴォルスング王家の末裔であるシグルズは、悪竜ファヴニルを退治して、黄金を生み出す呪われた指輪アンドヴァラナウトを得た。彼は戦神オーディンをも退けて、恐れをしらぬ勇者だけが乗り越えられる炎の壁を越え、人間に堕とされた戦乙女ブリュンヒルデと結ばれる。彼女の元を旅立ったシグルズは、故国奪還のために兵を借りようとギューキ王グンナルの宮廷を訪ねるも、魔法の薬を飲まされてブリュンヒルデを忘れ、グンナルの妹であるグズルーンに魅了されてしまう。今回はその続きからだ」
グンナル/ セイ「シグルズよ。我らが兵を得たいならば、グズルーンと結ばれて身内となって欲しい。恐れをしらぬ勇者だけが乗り越えられる炎の壁を越えて、城主ブリュンヒルデから黄金の指輪アンドヴァラナウトを奪い、この結婚指輪をはめてくるんだ。うん、たまにはこうやって、困らせるのもいいな」
シグルズ/クロード「明日の義兄のたっての願いだ。ヒンダルフィヨル山上にあるという、ブリュンヒルデの館へ向かうぞー。とほほ」
おでん /ニーダル「かくして、シグルズは魔法で顔を隠し、燃え盛る炎と楯の垣を飛び越えて館へと舞い戻った」
ブリュン/ レア「シグルズ? お帰りなさい」
シグルズ/クロード「ごめん。我こそはギューキの王グンナル。偉大なるブリュンヒルデよ、お前を娶りに来た」
ブリュン/ レア「え? あなたは、いったい、何を?」
おでん /ニーダル「シグルズはブリュンヒルデを組みふせると、自ら渡した指輪アンドヴァラナウトを奪い去り、代わりにグンナルの結婚指輪をはめて寝室へと連れ込んだ」
シグルズ/クロード「部長、やって良いことと悪いことがあります。もしもこの劇がコメント機能付き動画にアップされたら、今頃”シグルズしね”の書き込みで画面が埋まってますよ」
おでん /ニーダル「おいおい、下半身で物事を考える色男なんて死ぬべきだろう。ざまを見ろってものさ」
観客 /☆ボス子「みんな、斬奸刀は持ったね!」
観客 /ファヴニル「いっくよぉっ」
観客 /ロジオン「でかした!」
おでん /ニーダル「なぜ観客席からハリセンが飛んでくるんだ? 俺がいったい何をした……」
シグルズ/クロード「部長がどこかの政党ばりに、天へ向かってブーメランを投げるからですよ。そう言う台詞は僕がいうべき……はたき? ぎゃふん!」
(待機中)/ セイ「みんな、はたきはまだまだあるぞ」
(待機中)/アリス「やっちゃうたぬ」
(待機中)/ソフィ「クロードくんのバカ」
シグルズ/クロード「なぜ僕まで巻き添えに。ブリュンヒルデさん、はたきでペシペシ叩かれると痛い……」
ブリュン/ レア「知りませんっ」
おでん /ニーダル「ゴホン。シグルズは義兄となるグンナルに義理を通し、一晩をブリュンヒルデと共に過ごしたものの、愛剣グラムを身体の隙間に置いて、彼女を抱くことはなかった」
シグルズ/クロード「演じてる僕が言うのも何だけど……駄目だ、この英雄。気配りの方向性が間違ってるよ」
翌日、ブリュンヒルデはグンナルと婚姻を結ぶため、館を出た。
ブリュン/ レア「オーディンよ。恐れをしらぬ勇者ならば、誰であっても結婚するという、理不尽な誓いはこの為ですか。我が娘、アスラウグ。貴方を連れてはいけない。死ぬよりもおぞましい惨事が待っているだろうから。いっそこの手で――」
ヘイミル/エリック「待った。俺は、ヒンダルフィヨル地方の領主で、オーディンからアンタの後見人を頼まれているヘイミルだ。どんな理由があっても、母親が娘を殺すなんてことあっちゃあいけない。アスラウグは俺が育てよう」
ディート/ ブリギ「アタシはディートリッヒ。ヘイミルの親友だよ。大丈夫、こいつはいい男だ。命を賭けてでも、娘さんを守ってくれるよ」
シグルズ/クロード「ブリュンヒルデの後見人ヘイミルって、ディートリッヒ伝説主人公の親友ヘイミルと同一視されてるんでしたっけ? 物語の細部には違いが多いですが」
おでん /ニーダル「見る側面が違い、語り手が異なれば、印象が変わるのはよくある話さ。ディートリッヒ伝説じゃ、ジークフリート(シズルズ)も、クリームヒルト(グズル-ン)もあまり良い描き方をされていないしな」
シグルズ/クロード「ディートリッヒって、臆病者と煽られたことで激情のあまり炎の息吹を吐いて、一騎打ちでジークフリート(シグルズ)を退けたという英雄ですよね? 本当に人間なんですか?」
ディート/ ブリギ「馬鹿ねえ。火を吹くってのは、たとえみたいなものでしょ、たとえ。なんなら、貴方が本棚の隅に隠したエロ本のジャンル、全部ここで暴露してあげましょうか?」
シグルズ/クロード「た、確かに、この毒舌には勝てる気がしない。うちのセキュリティはどうなってるんだ?(ブリギッタ、甘いね。本棚の水着グラビアはフェイクだよ、あはは)」
真犯人1/ レア「(領主さま、机の引き出しに作られた二重底も……)」
真犯人2/ ソフィ「(クローゼットの隠しケースも……)」
共犯者1/ アリス「(見つけちゃったぬ。たぬの鼻をなめてはいけないたぬ)」
共犯者2/ セイ「(周りに好いている娘が大勢いるのに、勿体ないことだ)」
おでん /ニーダル「(確実にバレている気がするが、敢えて教えない俺、超イイ先輩!)ヘイミルは、グンナルたちギューキ王家からアスラウグの存在を隠し通すため、巨大な琴に彼女を隠して北方へと旅に出た。イスカ、楽しかったか?」
アスラウ/ イスカ「うん! 次は、アリスちゃんといっしょがいいな♪」
おでん /ニーダル「何もかもに決着がついたら、またやろう。ブリュンヒルデは誓いを守ってグンナルと結ばれ、シグルズもまた約束通りグズルーンを娶った。二組のカップルの結婚式はギューキ家の宮廷で盛大に祝われた」
グンナル/ セイ「さあ、結婚式を挙げよう」
ブリュン/ レア「楽しそうですね」
グンナル/ セイ「もう私には家族はいないから。ごっこ遊びでも嬉しいよ。さあ、シグルズ、手を引いてくれ」
グズルーン/ソフィ「セ、グンナルお兄ちゃん。シグルズと結婚するのは、わたしだからね」
グンナル/ セイ「細かいことにこだわるなよ、ソフィ。そう言えば、レア殿には家族はいないのか?」
ブリュン/ レア「昔、家事を教えてくれたベルお姉様という方がいました。あとひとり……。いえ、結婚を祝ってくれる家族はもういません」
グンナル/ セイ「だったら、いっそ。いや、やめて置こう。これは、劇なのだから。花嫁殿、お手をどうぞ」
ブリュン/ レア「セイ様は、憎めない方です」
シグルズ/クロード「行こう。グズルーン」
グズルーン/ソフィ「はい」
小鳥 / アリス「みんなで結婚式を挙げるたぬぅ♪」
○ギューキ王の宮廷
おでん /ニーダル「グズルーンと結婚して、ギューキ家から兵を借り受けたシグルズは、ディートリッヒと一騎打ちを果たすなど数々の冒険を繰り広げて故国に凱旋し、ヴォルスング王家を再興した。シグルズとグズルーンの間には、スヴァンヒルドという娘も生まれ、わずかながらも穏やかな日々を過ごした。数年後――、シグルズはグズルーンの帰省に同行し、再びグンナルの住むギューキ王の宮廷を訪ねた」
グンナル/ セイ「ようこそシグルズ。一緒にお茶でも飲もうじゃないか。グズルーン、お前も長旅で疲れただろう。川辺で水浴びをするといい。ブリュンヒルデ、案内してやってくれ」
おでん /ニーダル「川辺に着いたブリュンヒルデとグズルーンは、どちらが川上に入るかで口論を始めてしまう。でも今は、そんな事はどうでもいいんだ。重要な事じゃない。さあ、二人とも、レッツパァアアアアアジッ!」
ブリュン/ レア「邪魔なので、舞台から蹴り落としておきますね(ガスッ」
グズルーン/ソフィ「演劇が終わったら、牢屋に入れちゃおうよ(ベキッ」
シグルズ/クロード「そんなに待つ必要はない。全員、部長をぶん殴って簀巻きにしよう(ボコスカ!!」
”痴漢”/ニーダル「おのれクロード、裏切ったなぁああっ!?」
観客 /ロジオン「このロリコンってクソだわぁ(ザクザクッ!」
観客 /☆ボス子「運命の人はやっぱりサイテイだと思いまーす(ポコポコ♪」
”痴漢”/ニーダル「こ、このオールスターメンバーに総攻撃を受けて生きてる俺って凄くね? って、さすがに死ぬ。やめろぉ、お前らぁ、ぶっ飛ばすぞお~~」
観客 /ファヴニル「いっそさあ、こいつ脳改造手術とかした方が無害になるんじゃない?」
シグルズ/クロード「部長の場合、もっと面倒くさいゲテモノになりそうだから(震え声」
ブリュン/ レア「着衣のまま話を進めましょう。グズルーン様、川上をどうぞ」
グズルーン/ソフィ「わ、わたしは川下でいいよ」
ブリュン/ レア「グズルーン様はお客人です」
グズルーン/ソフィ「ブリュンちゃんは、お義姉さんなんだよ」
二人は、互いに譲り合い、遠慮しあっていた。
グズルーン/ソフィ「じゃあ、わたしが川上に行くね。ブリュンちゃんは頑固だし、少し他人行儀だよ。家族なんだから、何でも言ってくれていいのに」
ブリュン/ レア「私たちは家族、ですか。……貴女は嘘をついているのに?」
グズルーン/ソフィ「え?」
ブリュン/ レア「貴女は、私のあるじさまに、嘘をついている。悪意はなかったかもしれない。けれど、グズルーン、貴方は甘えて、嘘に流された。そんな貴女を家族だなんて認めません」
グズルーン/ソフィ「あなただって、嘘をついてない?」
ブリュン/ レア「はい。ついていますよ。あるじさまと一緒にいるために、許されることのない嘘をついた。だから、私が彼と結ばれることはない。あるじさまは、きっと私を憎むでしょう、私を呪うでしょう。けれど、その日私の心が砕けるまで、私はあるじさまに侍ります」
グズルーン/ソフィ「どうしてっ?」
ブリュン/ レア「愛しているから。貴女が、それを私に問うのですか?」
グズルーン/ソフィ「わたしはっ」
ブリュン/ レア「”グズルーン”。その指輪、アンドヴァラナウトはどうやって手に入れました?」
グズルーン/ソフィ「”ブリュンヒルデ”。これは夫、シグルズからもらったものよ。あの日、グンナル兄様は……」
激昂したグズルーンは、彼女が知らない魔法薬を除く、すべての事情をブリュンヒルデにぶちまけた。それでも自分はシグルズの妻であり、義姉は兄グンナルの妻なのだと現実を思い知らせるために。
真実を知ったブリュンヒルデはグンナルに詰め寄るものの、足枷をつけられて宮廷の一室に軟禁される。
ブリュン/ レア「グンナル。『恐れをしらぬ勇者ならば、誰であっても結婚する』という私の誓いは偽りで破られました。私は、ひとつの屋根の下に、二人の夫を持とうとは思いません」
グンナル/ セイ「義弟は、君に手を出さなかったと言っている」
ブリュン/ レア「私たちを謀った貴方が、シグルズを信じるのですか? こうなった以上、私が死ぬか、シグルズが死ぬか、グンナル、貴方が死ぬかのいずれかしか、事態を治める方法はありません」
グンナル/ セイ「無茶な解決策を言う。シグルズは不死身だよ。彼を殺す手段は存在しない。勇者ディートリッヒさえも、退けるのが精一杯だったのだから」
ブリュン/ レア「シグルズは悪竜ファヴニルの血を浴びて、無敵の肉体を得た。けれど――、背中だけは菩提樹の葉が邪魔をして、刃が通るのです」
グンナル/ セイ「我が妻よ。私を試しているのかな? シグルズを討ち果たし、己に相応しい良人であると証明しろと。それとも、愛しさ余って憎さ百倍とでもいうべきか。いいさ、決着はつける」
おでん /ニーダル「かくしてシグルズに、グンナルの刺客が迫る。次回、劇中劇 ◆最終幕◇ を乞うご期待!」
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シグルズ/クロード「意外に長引いてますね。作者が頭を抱えてそうだ。ところで先輩、聞きたいんですが、シグルズは本当にブリュンヒルデのことを忘れていたんですか」
おでん /ニーダル「エッダだと死の直前まで忘れていたと解釈できる。ヴォルスング・サガだと結婚式から徐々に思い出している。ワーグナーのニーベルゲンの指輪だとすべてを思い出した後に暗殺される。ニーベルングの歌だとそもそもブリュンヒルデと恋人関係になっていない。ちなみにシグルズの死を唆したのは劇中ではブリュンヒルデだが、グズルーン(クリームヒルト)が背中が弱点だと漏らす逸話もあるんだ。川辺の口論も逸話によってブリュンヒルデに肩入れしたり、グズルーンに好意的だったり、解釈多すぎてまとまらない。劇中劇だと、脚本と別のところで争っていた気がするけどね」
シグルズ/クロード「はあ。同じモチーフなのに、異説や伝承が多いんですね」
おでん /ニーダル「それだけ愛されてきた物語なのだろう。泣いても笑っても、幕間劇は次で完結。お楽しみに!」