表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
569/569

異聞 第5話 バトンを託す為に


 クロードの記憶を継承した青年カムロは、クマ国の村人達と共に襲ってきたドラゴンを打倒した。


「カ、カムロよ。ほら、吾輩達も色々頑張っているんだ。やり方さえ教えてくれたら、ドラゴンとだって戦えるんだ」


 オウモが、作務衣さむえから伸ばした白い腕をぶんぶん振って主張した。


「わかった。こうなった以上、僕を利用するのは構わん。その代わり僕もお前たちを利用する。今日から、セイとアリスが考案したブートキャンプだ」

「「願ってもない。よろしくお願いします!」」


 村長を筆頭に村の若者達は乗り気だったが、オウモは自分も頭数に含まれていることに気づいたらしい。


「わ、吾輩わがはいは魔女で文官だから、別の形で貢献するよ」


 そう言ってきびすを返す少女の手を、三白眼の細身青年はがっちりと掴んでいた。


「残念だったな、オウモ。僕が受け継いだ記憶の主人は、とんでもないブラック領主だったんだよお。働ける限りは働いてもらうぞ」

「ひいい、とんだ荒神あらがみじゃないか!」


 生前のクロードが空の隅で『風評被害だあ!』と絶叫している気がしたが、カムロは拳を突き上げて、村人達の前で宣言した。


「そうだ。僕はカムロだ。ドラゴンどもは一匹残らずクマ国から駆逐してやる。だからお前たち、戦う気があるのなら僕に手を貸せ!」

「カムロ様、万歳!!」

「スサノオノミコト、我らを導いてください!」


――――

――――――


 かくしてカムロは、クマの国、クマの里の民衆を率いて、竜退治の旅に飛び出した。

 彼にとって幸いだったことは、ドラゴン達に襲われて焼き払われることはあっても、クマ国の村落は一定以上の生活水準を維持していたことだろう。

 

「よし。これなら里の自治に任せつつ、僕はドラゴン討伐に集中できる」


 カムロの記憶にあるクロードだって、何もかもを一人でやれたわけではない。

 手の回らない部分は、奥さんや頼れる仲間に支えられていたのだ。

 クマ国の民衆は学習意欲も旺盛おうせいで、あたかも乾いた布が水を吸うように、身体に戦う技術を染み込ませ、竜を討つための武器や道具を作り出していった。


「オウモ、全ての里に伝えろ。カムロの名の下にクマ国の戦力を結集し、ドラゴンをこの地上から消す。この同盟軍を〝前進ぜんしん〟と名付けよう」

「へえ。前へ進む、か。カムロ様が来て、止まっていた我々の時間も進み始めた。縁起えんぎの良い名前だね」


 オウモは無邪気に賛成したが、カムロは首を横に振った。


「オウモ。お前にだけは伝えておくよ。〝ゼンシン〟という名前は、クロードの記憶にある、夢破れて滅んだ国〝前秦ぜんしん〟にかけている」

「……待ってくれ。なぜ、そんな不吉な名前を選んだ?」


 震える手で自らの肩を掴むオウモに、カムロは諭すように答えた。


「僕のような幽霊に導かれねばならない同盟なんて、いずれ無くなるべきだからだ。オウモ、クマ国のことはクマ国の民が決めるんだ。僕という存在は、ドラゴンを討った時点で消えよう。その為に召喚されたんだから」

「……わかったよ。カムロ様、いいやカムロ。貴方が納得できるよう、吾輩も力を尽くす」


 カムロとオウモは、およそ一〇年の時間をかけ、クマ国中の里からドラゴンを追い払った。だが戦いはいつになっても終わらなかった。


「ドラゴンめ、千年前、クロード達に負けて学習したようだな。奴らも進化して、今や本体は〝赤い霧〟と〝黒い雪〟だ。跡形もなく潰しても、時間をかければ再生してしまうようだ」

「それだけなら、毎度同じ顔ぶれとぶつかるはずだ。襲ってくるドラゴンには、いつも新種が混じっている。だから、どこかに奴らの拠点があるんだと思う」


 カムロとオウモは調査の為に各地を転戦し、遂に原因を突き止めた。


「オウモ、人の住まない辺境の地底に〝空間の裂け目(ワープゲート)〟が出来ていて、不可思議な迷宮に繋がっていた。おそらくドラゴンの本拠地は、そこだろう」

「カムロ、こっちも同じものを見つけた。しかも連中は、クマ国だけでなく他の世界にも食指しょくしを伸ばしているらしい」


 カムロとオウモが踏み込んだ自然渓谷に似た迷宮には、クマ国に存在しない洋服の切れ端や、機械の欠片が転がっていた。


「オウモ、僕はクマ国を守る為に召喚された幽霊だ。そのせいか、地底に入ると消えかけた。消滅覚悟で踏み込んだとして、どこまで進める?」

「表層がせいぜいだ。そして、カムロを欠いては元凶を断つことは不可能だ。吾輩達の戦いはここまで、なのか」


 カムロとオウモの前進は、止まった。

 あたかも同盟に名付けられた、裏の意味が成就じょうじゅしたかのように。


「いや、そうじゃない。

 オウモ、里を解放する途中で……。


 クロードがファヴニルを倒した短剣。

 レアが竜封じの力を込めた勾玉。

 ソフィが作った対怪物災害用の鏡。


 の三つを見つけただろう。あれらを使ってドラゴンの力を封じ、倒す為の研究を続けるぞ。僕やお前が届かずとも前に進み続ける限り、いつか必ずゴールテープを切る奴が現れる」


 カムロは思う。自分はやはり〝グリタヘイズ湖の龍神〟にも、〝レーベンヒェルム領の悪徳貴族〟にもなれなかったのだと。


(いや、それでいいんだ。ファヴニルもクロードも、きっと僕にはなれないのだから)


 召喚された古神の役目は、過去を追い求めた邪竜とも、未来を掴んだ竜殺しとも異なるのだろう。


「僕は決めた。僕は過去を受け継ぐ者であり、未来に託す者だ。このクマ国を、ドラゴンに蝕まれた複数の世界を救う者にバトンを託す為に、戦い続けよう。絶望に抗う誰かを迎えるために!」


――――――――――――――――――

 拙作をお読みいただきありがとうございました。

 以上をもちまして、異聞の幕を引きます。


 本章は、七つの鍵の物語【悪徳貴族】が終わった後


新作 『カクリヨの鬼退治』


 との空白を埋める、〝もしも〟の物語であり――


 クロードが〝もしも〟最初から強かったら?

 ファヴニルが〝もしも〟道を誤らなかったら?


 という〝もしも〟描く物語でもありました。

 異聞の主役カムロは、クロードとファヴニルの役割を演じつつも、異なる答えに辿り着きました。

 彼からたすきを受け取り、ゴールテープを目指す者、〝異聞の世界と繋がった地球〟を舞台に、新たな主人公達が活躍する新作も是非どうぞ! ページ下のリンクより移動できます。

 お読みいただきありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

小説家になろう 勝手にランキング

小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
[一言] クマ国は成り立ちそのものが契約神器一体化という特殊な形なので、人外の存在が先頭に立つことに慣れている感じがします。 だからカムロの教えをすぐに取り入れることができたのかな、とも思ってみたり。…
[一言] >今日から、セイとアリスが考案したブートキャンプだ レ領関係者「「食事担当はお二人以外の方でお願いします」」
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ