異聞 第2話 魂のありか、神話の裏側
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クロードの記憶を継承した人間を模した邪竜の青年は、黒い飛竜を退治した後――。
ナマズ髭が生えた鼻眼鏡をつけた、作務衣の少女オウモに連れられるがままに、彼女の住まいだというボロ屋を訪ねた。
「……で、なんで召喚された神の名前がカムロなんだ? 僕が受け継いだ記憶の持ち主は、クロードだぞ?」
「ふむ。吾輩が調べた限りでは、八〇〇年前にはクマノカムロノミコトという名前で祀られ、〝竜殺し〟の武神スサノオミコトと同一視されていたんだがねえ。クロードという名前が、カムロとなまって伝わったのかもね」
オウモが土間のかまどに火をつけるのを見ながら、ニーズヘッグの青年はほうと息を吐いた。
「そうかよ。だったら僕のことは、カムロと呼べばいい。クロードの名前は、正直、重いよ」
「吾輩が調べた記録によれば、邪悪な竜は、死者を復活させたと記されていた。吾輩の術は――未熟だったのだろうか」
かまどの火に息を吹き込むオウモの声は、心なしか沈んでいた。
「オウモ、そもそも根底が間違ってるぞ。クローディアス・レーベンヒェルム。あるいは、小鳥遊蔵人は、ドラゴンを残らず討滅した後にこの世界を立ち去っている。蘇らせるべき魂がいないんじゃ、成功するわけないだろう」
「そう、なのか。それは、盲点だったな……。隣にある世界、高天原とは、もっと近しいものだと思っていた」
カムロはオウモを諭しながら、奇妙な違和感に苛まれた。
そもそも魂とは――何だろう?
輪廻転生という概念は複数の宗教に存在する。
たとえば仏教であれば、人の世で一生を終えた魂は、神や鬼の棲む別の世界へ生まれ変わる場合もあるという。行く先が並行世界でないと――断言できるか?
「オウモ。僕のオリジナル――クロードがドラゴンを退治したあと、いったい何があったんだ?」
「ああ。平行世界より降臨した英雄達が、悪しきドラゴンを残らず討伐し、滅ぼされた人類をネオジェネシスの技術を用いて復活させたあと、創世の女神は、神々の遺産を使って傷ついた大地を癒やし、この星とひとつになったんだ」
カムロは、オウモの昔語りを、クロードの記憶と重ね合わせて脳内で翻訳した。
どうやら女神となったボス子は、全ての契約神器を取り込んだ上で、融合体としての最後の力を使って、自らと星を一体化させたらしい。
そうして、〝奥まった場所にある国〟すなわち「隈の国」と名付けられた新世界は、神産巣日神となった彼女に抱かれて、争いも少なく、幸せのうちに過ごしたという。
「契約神器がないから、派手な争いも存在しない、か。二千年前の魔女さんや、ファヴニルの願いも叶った、というべきか」
「この世界の住人は、一千年前に世界を滅ぼしかけた反省から、武力行使を避けた。結果、平和ボケしたのだよ。だから、吾輩たちはドラゴンに襲われても戦う力がなく、古の武神に縋ろうとしたのだ」
「あ、あほかアアっ!」
カムロはあまりのオチに絶叫した。本末転倒とは、このことだ。
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拙作をお読みいただきありがとうございました。
本章は、七つの鍵の物語【悪徳貴族】が終わった後
新作 『カクリヨの鬼退治』との空白を埋める、〝もしも〟の異聞です。
〝異聞の世界と繋がった地球〟を舞台に、新たな主人公達が活躍する新作も是非どうぞ!
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