第552話 友人集結
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一人の少年がいた。
小鳥遊蔵人という、やや自罰的ながらも平凡だった少年は、破滅の道連れを望んだテロリストの願いと、とある悪徳貴族の召喚術により、地球から異世界へと招かれてしまう。
クロードは、広大な辺境伯領を支配する邪竜ファヴニルに玩具として見出され、殺された悪徳領主の影武者に据えられてしまった。
ひとりぼっちの少年は、荒れ果てた領を立て直そうと悪戦苦闘。未熟だった心と肉体を鍛え上げ、多くの味方を得て、地方と国家をむしばむ内憂外患を解決していった。
「……やっべ。クロードのようにはイカんわ」
そんなクロードの前に立ちはだかった強敵の一人であり、後には頼れる味方となった並行世界からの来訪者。
かつて、ロジオン・ドロフェーエフを名乗った男。
ドレッドロックスヘアの剣客ドゥーエは、隣り合う世界へ置き去りにした妹分と再会を果たしたものの……。
生身の右腕と左の金属義手で抱きしめた、白金髪の少女を見るだけで胸がいっぱいになり、何も話すことが出来なくなっていた。
「お兄ちゃん、どうしたの? どこか痛いの?」
弟分であるドゥーエの無様を見ていられないと思ったか、彼の持つ妖刀ムラマサに取り憑く長女の幽霊が発破をかけるように口を挟んだ。
「このバカ、恥ずかしがってますのよ。相変わらず人生迷子で、最悪の選択肢ばかり踏んでいますわ。そんなだから、新しい恋人もできないのよ」
「うるせえ、オレは亡くした妻に操を立てているんだ。喪女姉貴は黙ってろ、しっしっ!」
ドゥーエは、半透明で実体のない姉貴分をスカスカと蹴りながら、ガミガミと吠えるも。
「おほほほ、効きませんわ。だーれが喪女ですか。ワタシはニーダルさんとの入籍も秒読み。負け犬の遠吠えが心地よいですわっ!」
幽霊の長女は、クロードの先輩である高城部長こと、ニーダル・ゲレーゲンハイトを指して自信満々で言い切ってみせた。しかし。
「みーとーめません。ニーダルさんと結婚するのはワタシですわ」
幽霊長女の、平行世界における同位体。
つまりイスカの姉貴分たる、黒髪を二本おさげにした緑色の瞳を持つシャープな体型の少女が、トカゲやカメレオンに似た小型の黒竜を鋼糸で狩りつつ、妖刀にくってかかった。
「チ、お子ちゃまが。もう少し色っぽくなってから、その大きな口を叩きなさい」
「ワタシも貴女も、たいして体型は変わらないでしょうが!」
かたや半透明の幽体、かたや生身の実体だが、年齢以上に幼い体格の長女二人がモクモクと土煙をあげて騒ぐ光景を見て、彼女の弟妹達は頭を抱えた。
「……もうなんとも言わないけど、並行世界の自分から男を寝取る姉貴ってどうよ」
ドゥーエの亡き妻であり、今はムラマサに宿る幽霊の一人、薄桃色がかった金髪の少女が長姉の奇行を嘆き――。
「……事情はよくわからないけど、剣になった自分と男を取り合う姉貴ってどうよ」
彼女と瓜二つの姿をした、生身の肉体を持つ少女ミズキが、長姉の立ち居振る舞いにがっくりと肩を落とす――。
「「は! おまえら、話がわっかるー」」
幽霊の弟妹と生身の弟妹は、直接顔を合わせることでお互いの立場に共感し、奇妙な友情で結ばれた。
なお、そんな家族コントに興じている間も、クロード達が竜を狩りまくっていたのは言うまでもない。
「こいつらは、この世界を滅ぼした諸悪の根源だ。そればかりか、僕たちが居る世界にまで魔手を伸ばした痕跡もある。一匹も逃さず全滅させる!」
クロードは、雷を放ちながら食らいついてくる、猿に似たヒト型竜の眉間を刀で貫いて首を刎ね。
「はい、旦那さま。頑張ります」
レアは、剣山の如きツノとキバを前面に立てて、猪のように突撃してきた竜を鎖で雁字搦めにして引き倒し。
「たぬぬう。ボス子ちゃん達を苦しめたこと、反省するたぬ」
アリスは、トゲ付きハンマーやノコギリめいた武器に似た、九本の尾を振り回す狐に似た竜を飛び蹴りで撃破。
「無抵抗な相手にしか殴りかかれないのか? 竜の格好なのに、まるで張子の虎だな」
セイは後方から毒の滴る蜘蛛糸を吐き出す蟲型竜を、弓で射抜いて掃討する。
「苦しいの? 大丈夫。今、どうにかするからね」
そしてソフィは黒竜が生み出した手駒、ゴーレムやワイバーンを彼らの支配から解き放って逆襲させた。
「おのれおのれ、愚者どもが。我らを三千世界を支配する、至上のドラゴンと知っての狼藉か」
クロード一行に積み木崩しのように討たれて逆上した黒竜たちは、もはや仲間を巻き込んで攻撃するのもためらわず、ところ構わず爪や触手を振り回した。
「悪党と知ってのことだ」
「いざ成敗!」
が、そんな力任せの悪足掻きは、灰色カワウソのテルと、青色スライムのショーコのコンビによって粉砕される。
「術式――〝荒神鏡〟――起動!」
「UGYAAA! ITEEEE!?」
テルとショーコに自らの攻撃を跳ね返されて、ある者は首や四肢が吹き飛び、ある者は八つ裂きになって、黒竜の群れは自業自得とばかりに大地に沈んだ。
「うおおおっ、こんな場所にいられるか。我は獲物を喰いに来たんだ、狩られるなんてお断りだっ」
黒竜の中には情勢不利と見て、離脱しようとした一団もいた。
しかし、怪物どもが地を蹴って駆ける先には、愛用する女物のビキニアーマーを身につけた、すね毛がチャーミングな老年の男剣客カリヤ・シュテンが待ち受けていた。
「おい、そこの変態。我々に従うならば、お前にこの世界の半分をやろう。GYAAA!?」
「ごめんねえ、詐欺師と語る舌はないの。代わりに首を置いていってね。燕返し!」
老剣客が物干し竿と名付けた長剣でV字、半円、ジグザグと変幻自在に斬りつけるたび、黒竜は悲鳴をあげてバラバラに寸断された。
「ま、まだだ。我らは世界を支配するドラゴン。数ならばいくらでも……」
「GYOEEE!!」
クロードと彼の妻達が構築した〝異界を渡る門〟からやって来たのは、彼の家族と魔剣の関係者に留まらない。
「遠い親戚には負けていられないよ。今こそ演劇部魂を見せる時!」
男装少女が、刀を閃かせ――。
「殺陣は演技であって、実戦じゃないだろ」
眼鏡をかけたやや筋肉質な青年が、白い大型人形に乗って殴り――。
「ふふふ。これも舞台みたいなものさ」
薄着で色っぽい女性が、龍型の飛行要塞で空を飛んでブレスを放ち――。
「もうっ。人助けなんだから、真剣に頑張りましょう」
清楚で大人びた女性が、首飾りに似た衛星群から光の砲撃を加え――。
「そうそう。全力で、友情パワーを見せてあげよっ」
勝気な少女が、八本足の馬に騎乗して駆ける――。
小鳥遊蔵人や高城悠生と同じ演劇部員達が集結、力を合わせて黒竜の群れを狩っていった。
「もういい、もうたくさんだ。一度は我らが滅ぼした世界だ、貴様達にくれてやる」
「我らは森羅万象を喰らい続ける、選ばれし存在っ」
「今こそ新しい世界を喰らう時。そうだ、この〝地球〟という世界にしよう」
あとがき
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次回、いよいよ最終回!
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