第551話 家族再会
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三白眼の細身青年クロードと青髪の侍女レアは、輝く刀と雷、火をまとう剣で、群がる異形の怪物一〇〇〇体を鎧袖一触とばかりに斬って捨てた。
地を覆いつくす怪物の軍勢は、同胞の肉体を構成する不滅の黒雪が消滅する様を見て、天を震わせるほどの大声をあげて恐れ慄いた。
「なんなのだ、こいつらは!?」
「我らドラゴンは、〝第二の魔剣〟の化身なのに!?」
「選良種たる我らに、たかが人間如きの刃がなぜ届く?」
生き残ったドラゴン達は、毒ガスめいた瘴気を振り撒き、緑の大地に腐敗した血液をしたたらせながら吠えたけった。
「単純な理屈だよ。〝竜殺しの冒険譚〟は、お前たちのような怪物を祓うために鍛えた魔剣だからさ。始まりは偶然だったが……」
クロードが世界樹を封印した後、レアが人間となったことで、二人は一度戦う手段を失った。
しかし、戦いの始まりから持ち続けたナイフが、数多の竜の血を浴び続けたことで、〝竜を殺す刃〟に変質したことに着目し――。
「私と旦那さまは、皆様のご尽力を得て〝第一の魔剣〟、〝第二の魔剣〟、〝第三の魔剣〟、その亜種を研究し、新しい魔剣を完成させたのです」
クロードとレアは、三年間で得た全魔剣の情報、交戦記録を研究し、魔法道具干渉の異能を持つソフィ、父譲りの知識を誇るショーコ、魔剣の改良経験があるシュテンらの協力を得て、新たなる戦闘手段を確立させた。
「ふざけるな。我々は、この世界の中心だぞ」
「エサに過ぎない非力な人間の、どのような祈りが我らに届くというのだ?」
横暴なるドラゴンの問いに答えたのは、クロードとレアに抱き起こされた、この世界のカミサマとなってしまった白金髪の少女だった。
「わかるよ。心にぎゅんぎゅん伝わってくる。貴方達のように悪い竜が踏み躙った、名前すら残っていない人々。彼や彼女達の、貴方達を許さないって祈りだよ」
「GAAA!?」
まさに因果応報だ。
世界を滅びから守る。
世界を支配する。
世界を喰らう。
こういった旧来の魔剣のような、スケールの大きな目的ではない故に……。
竜殺しの冒険譚は、著しく汎用性に欠ける。
されど、〝竜を殺す〟という一点においては比類ない力を発揮するのだ。
「つまりは、我らの、天敵かああ!」
「その通りだっ」
「はいっ」
三白眼の細身青年と青髪の侍女が、三本の刀を振るうたびに……。
小山のようにとぐろを巻いた巨大竜は真っ二つとなり、渓谷よりも長身の竜は三枚おろしに断たれ、空を覆う化鳥の如き竜も雷と炎に灼かれて、光となって消えてゆく。
「GYAAA!?」
「お、怯えるな。何が新しい魔剣だっ。使い手としては、こちらの方に一日の長がある。遠距離からのドラゴンブレスで着実に仕留めるのだ」
黒竜は砲撃モードとでもいうべき、大砲を模したカタチに変化して、この世界のカミたる少女を守る、クロードとレアを狙うも――。
「いや使いこなすどころか、力に飲まれた奴が言うなよ」
赤い外套を着た冒険者ニーダル・ゲレーゲンハイトが、背より生えた炎の翼で砲塔を焼き払い、土台たる肉体も火柱に包んで消し飛ばす。
「運命の人!」
白金髪の少女が歓声をあげて……。
「おうよ。もう一人の娘を守るため、ニーダル・ゲレーゲンハイト、ここに参上だ。レーヴァテイン、本願を果たす時だぜ。思う存分、やっちまいな!」
「ああ、相棒。牙なき者を守るため、二つの世界を守るため、娘……のような存在を守るため、力を尽くすぞ!」
色んな意味で親的な立場にあたる、ニーダルと炎の翼は、少女にあだなす竜の群れに突撃、怪物の肉体を構成する黒雪をカビ退治とばかりに浄化殲滅した。
「こ、こいつらは、我らが〝魔剣の始祖〟と、その担い手か!?」
「つ、付き合ってられん。先にニンギョウを奪うぞ。あやつが保管している人類の魂さえ喰らえば、我らは更なる強さを得られるのだ!」
ドラゴン達はもはや余裕を失い、遮二無二なって、クロードとレアが守る、カミとなってしまった犠牲者へ向かって殺到した。が。
「ン! ボス子ちゃん、助けに来たよ」
「GYAAAAA!?」
ニーダルの養女であり、カミとなった少女の平行世界同位体である……。
蜂蜜色髪の少女イスカ・ライプニッツ・ゲレーゲンハイトが、レーヴァテインの炎が宿る弾丸を背丈ほどもある長銃から撃ちだして、迫るドラゴンを蜂の巣にした。
「イスカちゃん、それにっ」
中には同胞を肉盾に使い、無理やり接近をはかる黒竜もいた。しかし。
「……」
黒褐色の髪を縄状に結った、ドレッドロックスヘアの目立つ隻眼隻腕の剣客ドゥーエが刀を振るい、大口を開けて突進する怪物を白雪に変えて消滅させる。
彼の愛刀であり、死んだ姉弟の魂が取り憑く妖刀ムラマサは、黒竜が振るう力と同じ〝第二の魔剣〟を宿しながらも、異なる進化を果たしていた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん達、お帰りなさい」
「……」
白金髪の少女が笑顔を向けるも、彼女の兄貴分たるドゥーエは視線を逸らしてそっぽを向いた。
彼は一時、ロジオン・ドロフェーエフと名を変えて、テロリストに協力するなど迷走を繰り返したのだ。妹に合わせる顔がない、というのが本音だろう。
「……ただいま。生きていてくれて、ありがとうよ」
それでもドゥーエは再会の挨拶を口にして、長く離れていた妹分と抱擁を交わした。
あとがき
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