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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
エピローグ/最終章 自らの星に従え
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第550話 竜殺しの冒険譚

550


―― エピローグ ――


 真っ白な世界があった。

 地も、海も、空も、降り積もる雪におおわれて、凍てついている。

 そんな白い闇の中で、輝く白金の髪をなびかせて、ひとり荒野に種を蒔く少女がいた。

 彼女は炎を生み出して氷を溶かし、大地を隆起させて耕し、風を吹かせて生命を祝福した。

 この世界から、もはや失われてしまったもの。

 色鮮やかな美しい花を、そびえ立つ緑深き木々を、虫を、獣を、そして人間を取り戻すため……。

 彼女は、滅ぼされた世界の浄化・再生に、カミにも等しい力をすべて注ぎ込んだ。

 静寂だった白い世界は、いつしか緑を取り戻してゆく。

 だから、だろうか。

 争うもののいない、平和だったはずの世界に〝ソレ〟らが再び牙を剥いたのは。


 白金髪の少女は、空の青と血の赤が麗しい虹彩異色症ヘテロクロミアの瞳で、荒天の中で吼え猛る黒々とした怪物の群れを見据えた。

 蘇りつつあった世界は、毒々しい黒い雪が寄せ集まった、おぞましい影に食われていた。

 蛇と蟲が入り混じったような醜悪なバケモノ達は、空をわたる風を汚染し、川や海を腐らせ、大地をむさぼって歓喜にむせぶ。


「GUOOOO!!」


 少女は知っている。

 生命は、他の生命を奪って、食べなければ生きられない。それは自然の摂理であり、生きとし生けるものの宿命だ。

 だが眼前の怪物達は違う。己が欲望の赴くままに、虚栄心を満たすために、ひたすらに殺し尽くし、奪い尽くし、遂には世界すらも滅ぼしたのだ。


りないんだね。こんな世界になっちゃったのに、まだ求めるの?」

「GYAGYA! 我らは選ばれし存在、ドラゴンであるが故に!」


 毒々しい雪から作られた、禍々しい頭と尻尾を生やし、瘴気や腐敗液がしたたる山の如き体躯の怪物達は、少女を取り囲みゲラゲラと笑い合った。

 

「ニンギョウよ、よくぞ我らのために世界を蘇らせた」

「今こそ、お前が内に眠らせている魂を喰らい、この世界を喰らい、異なる世界を飲んで、並行する三千世界を食らいつくそうぞ」

「この世界は、貴方達のものなんかじゃない。わたしは守ってみせる」


 白金の髪の少女は、襲い来る怪物に毅然と立ち向かった。

 吹雪をまとう刃の神器で、灼熱の息を吐く竜の首を落とし――

 雷鳴轟く槌の神器で、機械じかけの触手を伸ばす竜を潰し――

 浄化の炎を噴く槍の神器で、毒液を滴らせる腐敗竜を貫く――

 彼女は三匹の竜を瞬く間に絶命させるも、同時に白い肉体を裂かれ、真っ赤な血がしぶいた。


「よわい、弱くなったなあ」

殺戮兵器さつりくへいきであった頃の面影がまるでない」

「他者のために、世界の為に、己が力を費やすなど理解できんよ」

「つまりは、エサになりたいのだろう。ならば我らが贄となることを喜ぶがいい」


 青と赤のオッドアイを持つ白い少女は、自らのうちに眠る人々の魂を守ろうと抗った。

 けれど、絶望的なまでに数が違う。倒しても倒しても、黒い怪物どもは分け前が増えることを喜ぶように、より凄惨な攻撃を加えた。


「あ」


 少女は、汚濁したる牙に足を噛み千切られ、竜の爪に腕を裂かれ、緑の大地を赤く染めて、鋭利な鱗で貫かれてはりつけにされてしまう。


「さあ、新世界の創造を始めよう!」


 まるでアリが砂糖菓子へ群がるように、怪物が少女を陵辱せんと殺到する。

 少女は助けを求めようとして、彼女以外の人間が誰もいないことに気づいて、一人涙を流した。


「ごめん、ね」


 少女の涙が大地に落ちる。

 黒い牙が赤い血をすする。


「――どけ怪物、彼女に何をする!」


 されど、少女に突き立てられた牙は、中途でボキリと折れた。


「GI! GYAAA!!」

「HOGYAAAA!?」


 何処からともなく布付きの掃除棒が飛来して、少女を取り巻く竜の頭部を数十体まとめて吹き飛ばしたからだ。


「HA、はたきだとぉ?」

「……!?」


 少女はおそろしい怪物がうろたえる様を見て、さもあらんと納得した。

 この世界の人間は、少女を除いて全滅したはずだった。

 仮に生き残っていたとしても、竜に掃除道具をぶつけるトンチキな輩なんてそうそういないだろう。

 でも、彼女は知っているのだ。そんな例外を――。


「ボス子ちゃん。僕達は終末を乗り越えた。約束通り、キミにもう一度逢いに来たぞ!」

「お掃除ならば、お任せくださいっ」

「GUGYAAA!?」


 三白眼の細身青年クロードと青髪の侍女レアは、はたきを手に竜をバッタバッタと薙ぎ倒し、囚われた少女の四肢からくさびとなった鱗を抜いて抱き起こした。


「ば、馬鹿な。なぜドラゴンたる我らが、はたきなんぞで払われる?」

「それよりも、この二人。生きている〝人間〟だと、いったいどこから来た!?」

「あっちを見ろ、契約神器のものか? 門が開いているぞ」


 クロードとレアの背後、雷鳴が轟く空の下、緑を取り戻しつつある大地の上で、『いまではないとき、ここではないどこか』と繋がる門が開いている。

 それは、クロード達が居た平行世界で〝門神もんじん〟と呼ばれた術式に酷似していた。


「たぬぬうっ。ボス子ちゃん。おひさしぶりたぬっ!」

「おのれ、この世界の主人たる我らに無礼千万。その生命を捧げ、ぶげらっ」


 金色の虎耳を持つ少女アリスが扉より現れるや、手近な黒竜を再会の邪魔だとばかりに蹴り飛ばした。


「GUOOOOOO!」


 黒竜の群れは牙と爪を閃かせて、虎耳少女に襲いかかるも――。


「バウワウ(はじめまして)、バウバッフン(お前の首は柱に吊るされるのがお似合いだ)」


 アリスの後に続く、銀色の大犬ガルムに片端から殴り倒された。


「GYAAA!」


 黒い雪竜達は直接の交戦で叶わぬと見るや、空に逃げて毒を吐こうと試みた――が。


「いつぞやの劇以来だな。土産に手料理を持ってきたぞ。美味しいぞ、本当に美味しくなったからな!」


 新たに門から現れた薄墨色髪の和装少女セイは、雷を発する弓を射て、空飛ぶ竜を次々に大地へと叩き落とした。


「おのれおのれ、卑しい人間風情が。我ら高貴なるドラゴンに傷をつけるなど、生かしてはおけん!」


 竜の本体は、毒の雪だ。

 つまり、定まった形はないのだろう。

 怪物達は二足歩行の竜人へと変身し、弓射手たるセイを討たんと巨大な槍や斧を手に走り寄るも――。


「ボス子ちゃん。クロードくんが世界を渡る手段を見つけたんだ。今度は見てるだけじゃなくて、一緒に舞台をやろうよっ」

「GYOEEEE!」


 赤い髪の執事服を着た少女ソフィが、黒い両瞳を青く輝かせながら、竜人達の首を薙刀ですっぱりと刎ねる。


「こ、こいつら、戦い慣れているぞ!?」

「恐れるな、我らは世界を滅ぼした魔剣、システム・ヘルヘイムより生まれた選ばれし者、すなわちドラゴンである」

余所者よそものに構うな。まずはあの弱そうなモヤシ男とメイドを殺し、壊れた人形からこの世界の魂を奪うのだ」


 クロードとレアは、襲い来る竜達の挑発に応じず、互いの手を握りあった。

 二人は、傷ついた少女を庇って背中合わせに立つと、朗々と声を上げた。


「物語ろう。愛と勇気の御伽噺おとぎばなしを。我らは黄金を心に抱き、千尋せんじんの谷を越えて、万象ばんしょうを喰らう竜へと挑む!」


 愛し合う二人が紡ぐ詠唱は、彼と彼女達が駆け抜けた過去であり、目指す未来に他ならない。

 

「遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ! これより始まるは、〝竜殺しの冒険譚テイル・オブ・ドラゴンスレイヤー〟」


 クロードの無骨な手のひらに陽射しの如く輝く刀が、レアの小さな両手に雷と火をまとう二刀が出現する。

 二人が振るう三振りの刀は、一条の光を生み出してほとばしり、千を超える邪悪な黒竜を消滅させた。


「傷どころか消滅だとっ。なんだ、いったいなんだというのだ、こいつらはああっ!?」

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

応援や励ましのコメント、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)

本作は、最終回まで毎日更新いたします。

明日も是非いらしてくださいませ。

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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― 新着の感想 ―
[一言] 村正内部で燻製にされたのにしつこい…… (選択肢)貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだ にしても、クロード達が来たのに兄のドゥーエは一体どこに?
[一言] なるほど、クロードくんの望みはこれか! いまこそフラグ回収のとき! いつぞやの演劇のお話が成就されるんですね! 最高だ!(語彙力
[一言] おお、予想外です。 てっきり元の世界へ戻って、キャハハウフフすると思って、 大量の爆弾を用意していたのですが(º﹃º) ラス☆ボス子と共に戦うことにしたって感じでしょうか。 彼女が言ってい…
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