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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第八部/第三章 大事を成し遂げる秘訣は、行動だ!
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第546話 今生の別れ

546


 クロードとファヴニルは、互いの時間干渉魔術の結果、凍てついたように動きの止まった世界で向き合っていた。

 名工の彫像が如き美少年は、天人の羽衣のように優美なシャツを裂いて、胸に突き刺さった無骨なナイフを見た。


「なまくらだと思いきや、蔵人クロードと三年戦い抜いたんだ。とうに魔剣になっていたか」


 ファヴニルは、求め続けた三白眼の細身青年クロードを見つめた。

 初めて出会った時、怪物に怯えるばかりだった少年は、苦闘の果てに竜を殺すほどの成長を遂げた。

 クロードがお守り代わりに身につけていたナイフもまた、あまたの強敵や、数えきれない〝顔なし竜(ニーズヘッグ)〟の血を浴びて、魔性の剣へと昇華されたのだろう。

 ファヴニルは、天敵たる〝第一の魔剣システム・レーヴァテイン〟や〝第二の魔剣(システム・ヘルヘイム)〟を研究したことで、そういった存在が生まれ出ずる可能性があることを知っていた。


「それにしても、蔵人クロード。ボクが神器の核だって、どうしてわかったんだい?」


 青い血を流すファヴニルの問いに、クロードは「操縦座コックピットにいたからだ」と答えようとして、違うと気づいた。

 ファヴニルの魂が宿った現し身を、五〇〇体の偽物から見つけ出した時と同様に、本物はここにいると確信していたからだ。


「ファヴニル、お前とも長い付き合いだから。わかるんだよ」

「あはっ。ボクの心が届いたのかな?」


 瀕死のファヴニルは、震える手でクロードを抱き寄せた。強大無比だったはずの宿敵の身体が、ひどく儚く見えた。


「なぜだ、ファヴニル。なぜ新世界創造を優先しなかった?」


 クロードは心の中がぐちゃぐちゃで、整理がつかなかった。

 本当は、ファヴニルが第一位級契約神器に世界樹召喚に成功した時点で、勝負は終わっていた。わざわざクロードに構わず、すぐに願いを叶えていれば、今の世界はとっくに滅亡していただろう。


「それは、ソフィが阻んだろうからね。彼女を利用したからこそ、短時間で第一位級契約神器に進化できたんだ。それくらいのリスクは飲み込まないとね」


 ファヴニルは茶化すように答えたあと、ゆっくりと首を横に振った。


「違う、そうじゃない。蔵人クロード、キミがいたからこそ、ボクは第一位級契約神器へと進化することが出来た。だから天に昇るなら一緒が良かった。キミと結ばれたかったんだ」

「そんなこだわりで命を落とすなんて、お前は馬鹿だ」


 クロードは自分が涙を流していることに気がついて、愕然とした。

 この三年間、昼夜を問わず打ち倒そうとした敵だった。

 彼の心の大半を占めていたといっていい。だからだろうか。


「蔵人。命が惜しいなら、最初からキミを盟約者パートナーに選んでなどいないよ。愛しているよ」

「ファヴニル。僕はお前を、ずっと憎んでいたよ」


 憎んで〝いた〟と、過去形だった理由は、クロード自身にもわからなかった。


「キミがボクを倒したことで、レギンは七つの鍵たる資格、第一位級契約神器に成長した。これからどうするか、二人で決めるといい。きっと苦労するぞ。そいつは、ボク以上に焼き餅やきだからさ」


 ファヴニルは微笑んで、クロードの帰るべき場所、彼を待つ恋人たちがいるクジラ型ゴーレムに向けて操縦座から押し出した。

 邪竜の巫女レベッカ・エングホルムも敗北した以上、時間の流れが正常化すれば、成層圏から飛行要塞が落ちてくる。

 ファヴニルは最後に、クロードの後ろ髪に結ばれた妹分、第一位級契約神器レギンに声をかけた。


「レア。さようなら、もうボクが居なくても大丈夫だね?」

「お兄さま。私は、御主人クロードさまと生きてゆきます。ありがとう、大好きでした」


 別れと共に、再び時は動き出す。

 

「世界救済に挑み、〝黒衣の魔女〟と貶められた我らが指導者よ。今ならば、〝神剣の勇者〟との決戦に応じた貴女の気持ちがわかります。ボクもまた世直しよりも、我が最愛のクローディアスとの決着を望んだのだから」


 ほどなくしてバラバラになった逆三角錐型の飛行要塞が落下し、全長三〇mの巨大竜を巻き込みながら、海面へと叩きつけられた。

 偶然だろうか? それとも、最後の力でそう仕組んだのだろうか?

 藤色のドレスを真紅に染めたレベッカが、操縦座に飛び込んできた。


「あら、ファヴニル様。ひどいお顔ですね」

「レベッカ・エングホルム。キミは逃げ出すものと思っていた。ボクに最後まで付き合う必要なんてなかったんだぞ」


 ファヴニルは、クロード以外の人間を、自らが新世界を開くための駒と認識していた。それは巫女たるレベッカも例外ではない。

 そしてレベッカも自らの野望を果たす為、ファヴニルを利用していたはずなのだ。しかし。


「あら、愛してはいませんでしたが、ワタシが敬うカミサマは貴方だけですわ。貴方を裏切ることだけは、ぜったいに、いやでしたのよ」


 レベッカはファヴニルの唇に口づけて、背負い続けた秘密を明かし、心の底から安堵あんどしたかのように瞳を閉じた。


「ご苦労様、我が巫女。キミの献身に感謝する。魂は流転し、いつか巡り合う。その時は、また遊ぼうね」


 ファヴニルもまた、レベッカを抱きしめて生命活動を停止。

 竜と巫女は鼓動を止めて、海の中へと消えていった。

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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本作は、最終回まで毎日更新いたします。

明日も是非いらしてくださいませ。

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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― 新着の感想 ―
[一言] >レギンは七つの鍵たる資格、第一位級契約神器に成長した あ、レアがレベルアップした >これからどうするか、二人で決めるといい 人生設計ですね、ワカリマス >竜と巫女は鼓動を止めて、海の中…
[一言] これは好意的な解釈なのかも知れませんが、 クロードへの愛が、人への愛のようにも感じました。 結局ファヴニルは、人への愛を捨てられなかった。 何をされても、邪竜へ落ちたと言われても、愛があった…
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