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第539話 大混戦!?

539


 およそ一千年前――。

 〝神剣の勇者〟と呼ばれる英雄は、人類の九割が失われた終末戦争ラグナロクにおいて宿敵〝黒衣の魔女〟を討ち、第一位級契約神器ななつのかぎと世界樹との接触による世界改変を阻止した。


 そして、長き刻を経た現在――。

 マラヤディヴァ国マラヤ半島とヴォルノー島の狭間にある海では、〝竜殺し〟クロードと〝邪竜〟ファヴニルが、かつての勇者と魔女の如くに、現世界の存続と新世界の創造をかけて激突。


 そして、遙か上空の成層圏でも――。

 〝勇者の技を継ぐ〟冒険者、ニーダル・ゲレーゲンハイト。

 〝勇者の血を伝える〟剣客、ドゥーエ。

 の二人が、〝邪竜の巫女〟レベッカ・エングホルムを討つために、彼女が駆る飛行要塞〝千蛇砦せんじゃとりで〟へ飛び込んだ。


「自分の壊れた船をぶつけて、他人の立派な船を乗っ取ろうなんて、古臭い勇者の縁者らしく、野蛮なこと!」


 レベッカは燃える炎のごとき赤い髪を逆立て、青く光る両の瞳に嫌悪をにじませ、藤色のカクテルドレスから伸びた白い手をかざした。

 彼女の仕草を合図に、一辺五〇〇mの逆三角錐型岩盤という、要塞各所に仕込まれた対空砲台が火を放つ。


「ハッ、先祖なんて知ったことか!」


 ドレッドロックスヘアの目立つ隻眼隻腕せきがんせきわんの剣客ドゥーエは、氷で強化した鋼糸を砲台に絡み付かせ、ジグザグの軌跡で宙を舞って対空砲火をかわし。


「ロマンだろう? 世界の破滅なんて、いつ如何なる時代も拒まれるのさ」


 黒髪の冒険者ニーダルもまた、炎で形作ったワイヤーを紅い外套がいとうの裾口から伸ばし、同じような回避行動をとった。


「ご愁傷様。貴方達の選択なんて、ワタシの目がお見通しですわ!」


 されど、レベッカもさるもの。死神の如く冷ややかに青ざめた瞳で、二人の回避先を把握して、次から次へと砲弾を浴びせてゆく。


「「……」」


 ニーダルとドゥーエは反撃もままならずに要塞の隅へと追いやられ、互いを値踏みするように目配せし合った。

 

「ゴホンっ、おいロリコン野郎。てめえ、人の技を真似るんじゃねーよ」

「言いがかりはよせ、厨二病患者。娘のイスカと一緒に工夫した技だぞ?」


 どうやら先ほどの些細な選択が、薄氷より脆い二人の関係に大きな亀裂を入れたらしい。

 二人はクロードに味方するという一点で共闘しているものの、元は因縁重なる敵対関係にあった。


「はっ、娘ねえ。そんなにパパ活とやらは楽しいか? あんな幼い子に性衝動をぶつけるなんて、理解ができないね」


 そしてドゥーエは、ニーダルが――愛する末妹に似た――イスカの養父であることを常々憎らしく思っていた。

 彼は、家族から〝見えたトラバサミを踏む男〟と揶揄やゆされる迂闊うかつさで、共闘相手の地雷を踏み抜いたのだ。


「おい、娘を女として見る親がいるか。お前は、イスカを侮辱するのか!」


 ニーダルが、ドゥーエのあまりに酷い暴言に激怒したのも当然だろう。


「え、手を出してなかったの。お、お、お前の娘だけあって、色仕掛けもできない無能な工作員だなあ」


 ドレッドロックスヘアの剣客は素直に非を認めて謝ればいいのに、振り上げた拳の置き所に悩んで更なる挑発を重ね。


「ぶちのめす」


 赤い外套を着た父親も、二度にわたる娘への侮辱に堪忍袋の尾を切って、妖刀ムラマサを元の持ち主へと向けた。


「カカカ。やってみろや」


 元より不安定だった呉越同舟ごえつどうしゅうはあえなくご破算。

 ドゥーエとニーダルは、飛行要塞〝千蛇砦〟を駆け回りながら、互いを狙って炎や氷の魔術を撒き散らした。


「ええい、二人して暴れるんじゃない。未来が無駄に分岐するでしょうが。ちゃんとワタシを見て、殺されなさい」


 レベッカもまたそんな二人を排除すべく、侵入者排除用の兵士や獣を象った青銅ゴーレムを投入、要塞の自壊すら恐れずに砲弾を撃ち放つ。


『ああもう、めちゃくちゃだよ』


 もはや敵も味方もあったものではない。

 妖刀ムラマサに取り憑くドゥーエの亡き家族。幽霊姉弟も混沌とした戦場に呆れるばかりだった。


『なるほど、友の為に生命を賭ける男気。誠実に言葉を重ねる優しさ。呪いをも凌駕する精神力。そして、〝僅かな時間で策を練る豪胆クレバーさ〟。ああ、ニーダルさん……、ワタシのはあとにぎゅっと来ましたわ」

『あ、姉貴。何を言ってるの?』


 そして、幽霊姉弟の中ですら、暴走を始める者が現れた。


『一目惚れですわ! ニーダルさんって、幽霊との恋愛はアリなひとかしら』

『おおいっ、よりにもよって一番上の姉がバグったぞ!』


 最後のキャスティングボードを握る妖刀が仲介を放棄した結果、敵味方無しの潰合い(バトルロワイヤル)を止める者は居なくなった。


「くたばれ、ゾンビ野郎。お前は昔から気に食わなかった!」

「GOOO!?」


 ニーダルは妖刀ムラマサに青白い焔を宿し、槍を振りかざす兵士型青銅ゴーレムを真っ二つに切り捨てつつ、ドゥーエに炎の斬撃を浴びせ――。


「身勝手なナンパ男め。お前がそんなだからクロードが苦労したんだろうが!」

「GYA!?」


 ドゥーエは左義手から鋼糸を伸ばし、壊れた要塞防壁の一部に絡み付かせて炎を防ぎつつ、靴に仕込んだ刃で噛みついてくる獣型ゴーレムの首を落とす――。


「いいことを思いついた。ニーダル、ドゥーエ、戦いなさい。勝った方を全身全霊で愛してあげる。……いえ、やっぱり無理ね。どっちも生理的に受け付けないから殺す!」


 レベッカも藤色のカクテルドレスから突き出た胸部を揺らしつつ、黄金の首飾りに触れて、無差別砲撃で応戦――。

 三人が三人とも、防衛用ゴーレムと飛行要塞の設備を巻き添えにしつつ、収拾のつかない三つ巴の闘争を開始した。

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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[一言] >〝僅かな時間で策を練る豪胆さ〟 システム・レヴァンテイン「宿主ハ豪胆デハナク何モ考エテイナイダケダ」
[一言] 混戦って、お前らが戦うんかい!?ヾ(゜д゜; ) 要塞内部へ侵入して、いよいよと思ったら笑 しかし混戦によってレベッカの処理能力を落とすのは良い作戦………いえ、怪我の功名となるかも知れませ…
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