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第536話 ファヴニルの猛威

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 〝竜殺し〟クロードと〝邪竜〟ファヴニルがしのぎを削る最終決戦。

 カマキリめいた印象の細マッチョ男、アンドルー・チョーカーの指揮する軍船は、クロードに助力してファヴニルを相手に善戦したものの……。

 全長三〇mという、船の大きさにも匹敵する怪物に蹴飛ばされてはたまらず、夜の海に横転した。


「ぷはっ、ロビンは飛行自転車隊を連れて退避。フォックストロットは、ミーナと兵を連れて逃げよっ。小生がルーンホイッスルで支援する」

「アンドルー。いやよ、もう二度と離れない」

「チョーカーさん。諦めちゃダメだっ」


 チョーカーは荒れる海面から顔をだしてアップアップしながら、契約神器の笛を吹き鳴らし、恋人の羊娘サテュロスや副官の女装美少年、部下達に力を分け与えた。

 彼は戦場となったマラヤ半島とヴァルノー島の狭間に位置する海域から、仲間達を脱出させようと試みたが、到底間に合わない。


「アンドルー・チョーカー。ボク達の運命に紛れた小石よ、うざったいカトンボと一緒に消えてしまえ」


 巨大竜となったファヴニルは、冴え冴えとした月光を浴びる緑と銀の二重装甲を輝かせながら六枚の翼を広げ、螺旋を描く灼熱しゃくねつの吐息を浴びせかけた。


「飛行自転車隊は固まって防御するんだ。ああ、無理なのかっ」


 最初に巻き込まれたのは、飛行自転車で邪竜を爆撃していたロビン達だ。銃弾の雨を寄せ付けない鉄壁の魔法障壁(バリア)も、竜の吐息を前に乾いたせんべいのように砕け散った。が。

 

「レア、皆を守るぞ。鋳造ちゅうぞう――八丁念仏団子刺はっちょうねんぶつだんござし」

「はい。御主人クロードさま。火はメイドと鍛治師の友。お兄さまの炎になんて負けません」


 三白眼の細身青年クロードと青髪の侍女レアは手を繋いで空を飛び、熱線の先端に突入。

 二人は、あらゆるモノを切ってきた刀を振るい、闇夜を焦がす炎の渦を周囲の空間もろとも斬り伏せた。


「むふん。クロードとレアちゃんのコンビには、負けてられないたぬ。ガッちゃん、たぬ達も踏ん張るたぬう」

「アオーン!」


 続いて、金色の虎耳少女アリスと、彼女の契約神器ガルムが、防御結界〝門神〟を最大出力で展開して、飛び散った熱線の残滓ざんしを受け止め。


「ブリギッタ、船を全速前進だ。飛行自転車隊を着艦させ、遭難者を回収しろ。クロード、忘れんなよ。防御なら俺の得意分野だ。術式――〝八重垣やえがき〟――起動!」


 さらに、野生味溢れる警備隊長エリックと、彼の恋人のブリギッタが私財を投じて改造した軍船で割り入り、八枚も重ねた花弁の如き魔法盾でブレスを防ぐ。


「エリックとブリギッタか。ナイスフォロー、助かった」

「ひいいい、しんだと思ったぞ」

「い、生きてる。やったーっ」


 クロードが親指を立て、チョーカーやロビン達が九死に一生を得る中、大同盟軍の反撃が始まった。


「邪竜ファヴニルっ。ぼくの大切な父を殺し、クソ兄貴を狂わせた罪をあがなってもらう。術式――〝光芒こうぼう〟――起動!」


 口火を切ったのは、レーベンヒェルム領の文官トップでありながら、軍権まで与えられてしまった出納長(戦闘職)のアンセルだ。

 彼が弓型契約神器を天に向けて放った砲弾は、邪悪なる機械竜に見事直撃し、海を震わせる爆音と共に火柱をあげた。


「アンセルだけに良い格好させませんよ。術式――〝陽炎かげろう〟――起動」

「参謀長の神器発動に合わせて、全艦隊砲撃開始。十字砲火で沈めろ」


 セイが離れた大同盟軍を総括するヨアヒムは味方魔術師部隊の支援を受けて、八角棒に似た契約神器で戦闘海域を覆うほどの大規模な幻影を展開。

 ロロン提督は、光学迷彩と音響加工で隠された艦隊すらも己が手足のように操って、巨大竜に対し砲撃を撃ち込んだ。


「アハハ。懐かしい、クローディアスが三年前に領主館で助けた連中か。よく内戦を生き延び、強くなったね。


 エリック。お前の死地を畏れぬ勇気は、炎の如きガーネットにも似てたかぶる。


 アンセル、キミの兄ダヴィッドは最初から血塗れの独裁思想に憑かれていたよ。けれど、圧縮した戦意は風雪に耐えたトパーズのように美しい。


 ヨアヒム、褒めてあげる。参謀としての的確なサポートは、青々と輝くサファイアにも劣らないだろう。


 そして、ブリギッタ。この一〇〇隻を超える大艦隊を準備したのは、キミだろう。仲間を照らす千変万化の手管はアレキサンドライトの光に勝るに違いない。


 領主館で初めて会った時は、取るに足りない石ころと思ったのに。さすがは、クローディアスだ。見事な宝石に磨きあげてくれた!」


 ファヴニルは哄笑をあげるも、大同盟艦隊は目に見える痛撃を与えていた。

 巨大邪竜の銀と緑の二重装甲が割れて、前後の脚に大きな裂傷が刻まれる。


「お兄さま、貴方は道を間違えたっ」


 青髪の侍女にして――クロードと盟約を結んだ第三級契約神器レギンは、数千本もの布つき掃除棒を射出し、裂傷への着弾と同時に爆発させた。


「アリス殿、ガルム殿。ここで決めるぞ!」


 セイは、月光を浴びた薄墨色の髪を銀色に輝かせながら、操舵輪を回してペダルを踏み、サメ型飛行ゴーレムで突撃。


「いま、必殺のたぬぅキーック!」


 アリスが黒い髪から伸びた金色の虎耳をピンと立て、鎧となった契約神器ガルムの支援を受けて跳躍。

 空中蹴りを見舞って、全長三〇mに及ぶ巨大邪竜の右肩部を粉砕してみせた。


「ファヴニル、今度こそ因縁を断つ。八丁念仏団子刺はっちょうねんぶつだんござし、いっけえええっ!」


 クロードの握る刀が七色の軌跡を描き、竜の頭部を真っ二つに両断した。


「……素晴らしいっ。これでこそ、一日千秋で待ち侘びた逢引デートに相応しい」


 しかし、その直後。

 ファヴニルの傷が爆発と共に吹き飛び、時が巻き戻るようにして完治する。

 邪なる竜は致命傷という道理を、無理を通して覆したのだ。


「もっと、もっとだ。クローディアス。全力を尽くして、ボクを楽しませてよ」

「ちょっと待て、いくらなんでもおかしいだろっ」

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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― 新着の感想 ―
[一言] >「ちょっと待て、いくらなんでもおかしいだろっ」 ファブニル「酷いなぁ、クローディアス。君への愛は尽きる事なんてないんだよ」
[一言] ファヴニルってクロード以外の人のことも、よく観察しているんですよね。 堕ちてもやはり元龍神ってことなのでしょう。 そして、おお、クロードたちの総攻撃が効いているようです。 でも時を戻して完…
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