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第535話 クロード達の総攻撃

535


 復興暦一一一二年/共和国暦一〇〇六年 晩樹の月(一二月)一四日未明。

 成層圏を衝く空の世界樹を巡り、勇者の〝技を継ぐ者〟ニーダルと〝血を伝える者〟ドゥーエが、邪竜の巫女レベッカを相手に、熾烈しれつな飛行要塞戦を行っていた頃。

 〝竜殺し〟クロードと〝邪竜〟ファヴニルもまた、マラヤディヴァ国の西部マラヤ半島と東部ヴォルノー島の狭間にある海上で最後の決戦を繰り広げていた。


「ファヴニル。死者をもてあそぶ新世界を創ったとして、お前以外のいったい誰が喜ぶんだ!」


 三白眼の細身青年クロードが、右手に雷を放つ打刀〝雷切らいきり〟、左手に炎を噴く脇差し〝火車切かしゃぎり〟を握って、十字型の雷火を放ち。


「クローディアス、弄ぶとは聞き捨てならないね。ボクが利用した相手は悪人だけだ。ボクが第一位級に進化し、世界樹で創ろうとしている世界は、善には善のむくいが、悪には悪のむくいが与えられる、失われるものがない理想郷だ!」


 全長三〇mの巨大竜となったファヴニルは、口から炎のブレスを吐いて応戦する。

 夜闇を裂いて輝く熱線は、雷をまとう炎の十字撃を飲み込んで、巻き添えとなった夜雲の一部を消失させた。


「理想郷を創るために、数十億人を抹殺しようって時点でイカれてるんだよ。お前が復活させた悪人どものせいで、どれだけの生命が奪われたと思っている? むくいるなんてどの口で抜かすんだ!」


 クロードは、遠距離戦を困難と判断。

 ジグザグに空を舞いながら、巨大竜の尻尾と後足の噴射口を掻い潜るようにして斬り込んだ。


「弱さは罪だよ。現にキミは三年前とは見違うほどに強くなったじゃないか。愛しているよ、我が好敵手!」


 ファヴニルは銀と緑の鱗から光線を放って迎撃しつつ、最も敬愛する青年を挑発する。

 怨敵のあまりに身勝手な言い分に、クロードは血がたかぶるのを抑えきれなかった。

 レア、アリス、セイ。そして、ファヴニルにさらわれたソフィ。彼を支え、慈しんでくれた少女達がいなかったら、中途で戦死するか自殺していたことだろう。


「ふっざけんな、この邪竜。ぶっ殺すぞっ」


 クロードは鎮火の魔術をこめた布つき棒はたきを投げて炎のブレスの出がかりを潰し、両手の打刀と脇差しで巨大竜の首を狙った。

 されど、前肢から伸びる爪に防がれて火花が散り、爆発的な衝撃が海を割る。


「やってみろよ、竜殺し。勝つのはボクだ!」

「いいや、勝つのは〝僕達〟だ!」


 高波と水飛沫が視界を一瞬だけ閉ざす隙をついて、一隻の軍船から数百mに達する長大な雷の斧が叩きつけられた。


「ファヴニル。辺境伯だけが敵ではないぞ」

「よし作戦通りだ、援軍が間に合ったか。このまま奴を叩きのめして、奪われたソフィを取り戻す!」


 クロードは、ニーズヘッグ討伐戦の最中から、ファブニルが高空に居座っている海域を怪しいとにらんでいた。

 彼がマラヤディヴァ国中に設置した小規模転移装置は、指揮官だけでも〝決戦の地〟へ急行させるための措置だったのだ。

 幸いにも六時間の余裕が生まれたため指揮官のみに留まらず、大規模艦隊が集結することに成功した。


「まさに最高の舞台よ。おいは、かつてお前を恐れた。だからこそ、その首はおいと仲間たちが取ろう!」


 一番槍をつけたのは、牛の如き異相の大男ゴルト・トイフェルが乗る船だ。

 ゴルトは全身に紫色の雷をまとい、ジュリエッタら部下達の力を契約神器であるまさかりに集め、邪竜の一〇倍を超える雷光刃を形勢して、両断しようと試みた。しかし。


「ゴルトか。キミの一人で万人に匹敵する武才と、尽きることのない闘争心は、鮮血色のルビーにも勝るほど美しいよ。けれどツガイを得て鈍ったかな。一万人に値する程度じゃ、ボクには届かない」


 金色の鬼達が全魔力を投じた必殺の雷撃を、邪竜は銀と緑の二重鱗に覆われた前肢で受け止め、長大な尻尾を船に叩きつけて反撃した。

 地上であればいざ知らず、海上では沈没をまぬがれるすべはない。

 船は大破炎上して、乗員は荒れ狂う海に投げ出された。


「ゴルトさんっ、みんなっ」

「たぬう。ガッちゃん、みんなを守るたぬう。術式――〝門神もんじん〟――起動!」


 クロードとサメ型ゴーレムに乗ったレアとセイが割って入り……。

 更にアリスが契約神器ガルムと最大出力で巨大な門を作り、ファヴニルが前肢で薙ぎ払う追撃を辛くも受け止めた。


「コトリアソビよ、海に投げ出された友軍の救援は任せよ。マルグリットとラーシュは救出に専念。ロビンら飛行自転車隊は爆撃準備を開始。小生と愛するミーナの新婚生活の為にくたばれ邪竜」


 続けて戦場に到着したのは、かまきりめいた印象の細マッチョ、アンドルー・チョーカーが乗る船だ。

 彼は、一定範囲内の重さを操るマルグリットと、軽さを操るラーシュの契約神器を器用に使って、荒波に飲まれたゴルト隊を海中から引っ張り上げた。

 負傷兵達をボートで退避させると同時に、ロビンを筆頭とする飛行自転車隊が甲板から舞い上がる。

 四枚の回転翼ローダーをつけた自転車隊は、巨大な邪竜に向け、空間破砕爆弾を絶え間なく叩きつけた。


「やったか!? これぞ高度の柔軟性を維持しつつ、ってなにいっ」


 必殺を期した空間破砕爆弾による連続攻撃は、海面と波間を球形に破壊するも、邪竜の銀と緑の鱗には僅かな傷をつけるに留まった。

 おまけに、一呼吸もしないうちに修復されてしまったではないか。


「アンドルー・チョーカーか。ボクの巫女レベッカを一番に翻弄ほんろうしたのは、疑いもなくキミだろう。キミの瞬間瞬間に発揮する叡智えいちと胆力は、エメラルドのように澄んでいる。だからこそ手を抜かずに殺すとも」

「う、うわあああっ」


 チョーカー達の乗る船は、ファヴニルに蹴飛ばされて横転する。


「ボク一人では、新世界を創造しても意味がない。クローディアス、必ずキミを屈服させてみせる」


 ファヴニルの口腔が夜闇に輝いて、赤い光が波間を照らした。海すら灼くドラゴンブレスが放たれるのだ。

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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― 新着の感想 ―
[一言] >善には善のむくいが、悪には悪のむくいが与えられる、失われるものがない理想郷だ それ、無間地獄というのでは?(人の悪性をなくすのは無理でしょうし)
[一言] ファヴニルの創ろうとしている世界って、 人がみんな不老不死になるだけかと思っていましたが、 必ずむくいが与えられるという点もあるんですね。 時間を戻したり、死をなくしたい、って気持ちだけで…
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