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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第八部/第一章 最終決戦の幕開け
543/569

第532話 演劇部長、再び

532


 復興暦一一一二年/共和国暦一〇〇六年 晩樹の月(一二月)一四日未明。

 西部連邦人民共和国の冒険者ニーダル・ゲレーゲンハイトは、演劇部の後輩クロードから依頼を受けた。


 その内容は、第一位級契約神器ななつのかぎに進化した邪竜ファヴニルが接触、世界を滅ぼす(ねがいをかなえる)ことを阻止するために――。

 マラヤディヴァ国に跨がる高空に出現した〝宇宙を衝く世界樹〟と、〝大樹を取り巻く虹の橋〟を破壊することだ。


「そら見ろレーヴァテイン。小鳥遊タカナシ蔵人クロードはデキた後輩だからな。クソトカゲの陰謀を粉砕し、マラヤディヴァ国の問題も見事に解決してみせた。その上、先輩にも見せ場を用意してくれるのさ!」


 ニーダルは、クロードが演じ抜いた舞台に感嘆して、喝采する。

 彼は後輩の期待に応えるために、黒い長髪をなびかせながら風を切り、紅い外套をまとう背の空間から生えた炎の翼をはためかせ、高く高く空を飛んだ。


終わりの太刀(ラグナロク)――〝始まりの焔(ムスペルヘイム)〟」 


 クロードの先輩、高城悠生タカシロユウキに取り憑いた、一〇〇〇年続く呪いの炎翼〝システム・レーヴァテイン〟もまた、使い手の歓喜に同調するように全性能を発揮した。

 地球のロケットに負けない速度で、高度五〇kmを突破して成層圏に到達し、世界樹の麓までたどり着くや……。

 ニーダルの両手に一〇〇mにも及ぶ炎の剣、むしろ火柱を生み出して、七色に輝く光の橋を焼却して解体を始めた。


「よしいいぞ、レーヴァテイン。攻城戦の基本は破城槌はじょうつい、つまり丸太だ。大抵のトラブルは丸太で解決する」

「ワレハ丸太デハナク焔ダ。宿主ヨ、油断スルナ。〝第一位級契約神器ファヴニル〟ガ〝世界樹〟ニ接触スレバ、〝世界改変ガ可能トナル〟ノダ。当然、敵ガイルゾ!」


 ニーダルが意気揚々(いきようよう)と焔の大剣を振り回していると、相棒たる焔が首筋でパチリと燃えて警告を発した。


「ええ、ええ。万が一の為に待ち伏せしていて正解でしたわ。ニーダル・ゲレーゲンハイト、生憎とファヴニル様は取り込み中のため、招かれざるお客様は巫女であるワタシ、レベッカ・エングホルムが御相手しますわ」


 一辺五〇〇mの逆ピラミッド型の岩盤に天守閣の付いた砦を築き、無数の砲塔で武装した飛行要塞が、虹の影からゆっくりと姿を見せた。

 飛行要塞の全体像は、エカルド・ベックが領都レーフォンの戦いで喪失した〝桃火砦とうかとりで〟や、ドゥーエがイオーシフ・ヴォローニンから受け継いだ〝清嵐せいらん砦〟にそっくりだった。


「この要塞こそは、大陸中を震撼しんかんさせた国際テロリスト団体〝赤い導家士どうけし〟の遺産を解析し、ファヴニル様が作り上げた第四位級契約神器・飛行要塞ルーンフォートレス千蛇せんじゃ砦〟。貴方もこの要塞の強さはご存知でしょう?」


 邪竜の巫女レベッカ・エングホルムは、炎のような赤髪を風で逆立て、緋色の瞳を赤々と輝かせながら、豊満な胸を見せつけるようにニーダルを威圧した。

 が、ニーダルは要塞にまるで興味を示さず、むしろレベッカがつけた黄金の首輪の下、藤色のカクテルドレスに包まれてなお燦然さんぜんと自己主張する、胸の大きさに圧倒されていた。

 彼は邪竜の巫女が誇る豊かな膨らみに視線を釘付けにしたまま、上半身を猫背に曲げて両手で顔を覆う。


「ああ。がっくりだよ、お嬢さん。せっかくキミとの初デートなのに、電波野郎達あかいどうけしが作った城のパチモノだなんて、ムード台無しじゃないか!」

「このセクハラ男、どこを見ながら言っているのです。ドゥーエと同じくらいムカつきますわ。死になさい!」


 レベッカが白く細い手を振るや、飛行要塞の逆三角錐型岩盤に設置された通用扉ハッチが開き……。

 全長一〇(メルカ)の空飛ぶ大太刀と、甲殻類に似た鎧を身につけた蝿型人造兵士バイオロイドが、蜂の巣をつついたようにワラワラと飛び出してきた。


「ム? 照合ニ一致スル記録ナシ、ドウヤラ異世界由来ノ技術ダゾ!」

「へえ、でっかい太刀に、蝿と海産物の合成物か。俺たちの常識から離れた美しさ。他所の世界も浪漫ロマンがあるね」


 ニーダルは預かり知らぬことだが、クロードとアリスが倒した、異世界の狂魔科学者マッドサイエンティストドクター・ビーストの遺産の一部を、横取りしたものである。

 

「いいじゃないか、お嬢さん。あの邪竜クソトカゲにしちゃ良いセンスだ!」

「宿主ヨ。マタ正気試験ニ失敗シタノカ? 戦闘ニ支障ガ出ルノハ困ルゾ」

「おいおい、レーヴァテイン。俺はいつも通りの絶好調ゼロポイントよ? さあお嬢さん、俺の美技に注目だ。ホイ、ソラ、アチョー!」


 ニーダル・ゲレーゲンハイトは、空を変幻自在に動く大ぶりな刃と、装甲に包まれた空飛ぶ兵士に対し、デタラメなかけ声をあげて蹴りかかった。


「なにが美技よ、馬鹿なひとっ。この世界からは、素手格闘技術が失われて久しい。カリヤ・シュテンのような異世界人ならいざ知らず、そんな見かけ倒しの技が通用するものですかっ」

「カリヤ? ああ、ちゃんと覚えてないけど、この技はたぶんソレだ。お嬢さん、何を隠そう、俺はクロードの先輩なんだぜ!」


 ニーダル自身は、呪いで記憶が曖昧になっているが――。

 彼の格闘術は、高城少年が学んだ日本拳法を土台に、シュテンの遠い親戚である友人カリヤ・コノエの護身術で磨かれ、更に召喚されたガートランド王国の槍術でアレンジされたものである。

 一〇年以上の遺跡探索と、西部連邦人民共和国の佞臣軍閥ねいしんぐんばつ四奸六賊しかんろくぞく〟との戦闘で鍛え抜かれた蹴撃は、大太刀を容易く砕き、海産物系蠅男の頭を割って、死体も焔で焼き尽くした。


「ふははははっ。マーシャルアーツキックこそ戦闘の華と知るがいいっ」

「知ッテイルゾ。ソウイウ裏技ハ、遊戯規則ゲームルール更新エラッタサレテ、埋没スルンダ」

「訳のわからないことをつらつらと。小憎らしい悪徳貴族の関係者め。異世界人なら、この世界に関わるんじゃないっ」

「いやいやお嬢さん、異世界の技術を使って、いや〝覗き見て〟か。その理屈は通らない。毒は毒を以て制するまでさ」


 ニーダルの軽口に、レベッカの顔がひきつった。彼女の血を連想させる赤い瞳は、青い光を発して輝いていた。


「ニーダル・ゲレーゲンハイト。なぜ、ワタシの秘密を知っているのっ!?」

「お嬢さん。その瞳を見るに、巫覡ふげきの力だろう? 一〇年も戦っていれば、珍しい生まれの異能者ともぶつかるさ。貴女もその目で余計な世界や未来を観て、壊れたクチかい?」

「ワタシは、真実に目覚めたんだ。壊れてなんていない!」

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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[一言] >宿主ヨ。マタ正気試験ニ失敗シタノカ? システム・レーヴァテイン「アア、宿主ノSAN値ハ0ダッタナ」
[一言] レベッカって下手すれば作中最強クラスなんじゃないかってくらい強い能力だと思うのですが、 不思議とニーダルが勝つ安心感があります(°°;) しかもニーダルの言葉によると、レベッカの能力にも代…
[一言] やっぱりパイセンは派手だなぁ。 ボト〇ズのような泥臭い戦場に、突然スト〇イクフリーダムが出現したような気分です♪ あと、レーヴァ君も相棒として年季が入ってきたからか、だいぶツッコミのノリが…
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