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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第八部/第一章 最終決戦の幕開け
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第531話 クロードの伏せ札

531


「ファヴニル、お断りだ。僕はレアを、アリスを、セイを、ソフィを愛している。僕が守りたいのは、このマラヤディヴァ国とこの世界だ。お前の創ろうとする新世界なんかじゃない!」


 三白眼の細身青年クロードは、全長三〇mの巨大竜となったファヴニルの求婚を、断固として拒絶した。


(三年前、本物の悪徳貴族クローディアスに召喚された僕は、ファヴニルに玩具として見出された。けれど、もうあの頃とは違う)


 クロードは地下のダンジョンから命からがら脱出するも、彼が目撃したレーベンヒェルム領は、人々が塗炭の苦しみに喘ぐ地獄絵図だった。

 食べ物がなく、職も無い。

 領民達は、悪辣な外国企業で奴隷のように酷使されるか、危険な地下遺跡でモンスターと戦うかという、命懸けの二択を強いられる。

 金髪赤瞳の美少年ファヴニルは、自ら創りあげた箱庭で、戯れに人を虐殺し、義憤に駆られて立ち上がる者達を踏み潰して、悦楽に浸っていたのだ。


(でも、僕は知っている。一〇〇〇年以上前に、グリタヘイズの龍神と呼ばれ、終末戦争の後遺症に苦しむ人々を救ったのは、コイツだ)


 クロードの恋人の一人、赤髪の女執事ソフィの祖先であり――。

 ファヴニルの盟約者であった〝ファフナーの一族〟は、善意で人々を救い続けた果てに、助けた相手と身内に裏切られて殺された。

 過去に善良なパートナーを失った経験が、心優しい龍神を残酷な邪竜へ反転させたのは、想像に難くない。


(それでも、人々を苦しめることを選んだのはコイツだ。殺すこと、奪うこと、踏みにじることを好んだのは、コイツだ。だから、僕は!)


 クロードは、ファヴニルの現在を知り過去を知ったからこそ、戦うと決めた。


「ファヴニル。お前の世界すら滅ぼし得る、時間干渉能力は見過ごせない。ここで僕達が倒す。レア、やるぞ」

「はい、御主人クロードさま。お兄さま、もう一度貴方を止めます」


 クロードは雷を浴びた刀と、火を噴く脇差しを握りしめて、青髪赤瞳の侍女と共に竜を目指して空を飛んだ。


「アリス殿。ショーコ殿が用意してくれた〝クジラちゃん一号〟……サメ型飛行ゴーレムには高性能演算機こんぴゅーたが搭載されて、持ち手(はんどる)が操舵輪に変わった以外、飛行自転車や三輪車オボログルマの操縦と大差ないようだ。運転は私に任せろ」

「たぬう、セイちゃんと二人三脚たぬっ。たぬパンチをぶちかますたぬよ!」


 薄墨色髪の和装少女と、黒髪から金色の虎耳が生えた獣娘が、空飛ぶサメに乗り込んで続く。


「アハハ。無駄だよっ、時よ狂え!」


 ファヴニルは四人の攻撃に対し、すぐさま時間の流れに干渉しようとした。


「させるものか!」


 しかし、クロードが間髪入れずに時間干渉の起点を巻き戻し、無効化する。


「……わかっているじゃないか、クローディアス。ボクとキミは、時の流れに触れる〝世界法則の外側にある力〟を手に入れた。二人揃えば、アメリア合衆国や西部連邦人民共和国だって敵じゃない。だから裏切り者の妹と泥棒猫三匹なんて捨ててしまえ。運命はもう決定済みだ」


 ファヴニルは勧誘しながらも、鱗の隙間から無数の光線魔法を射出した。

 クロードとレアは潜り抜け、セイも抜群の馬捌きを連想させる舵取りで、見事に対空攻撃をかわしてみせた。


「ファヴニル、虚勢を張るな。さも脚本通りでございますって顔をしているけど、実はアドリブ続きだったはずだ」


 クロードはレアと共に、防御魔法を付与したはたきを投じ、対空砲火に穴を空けながら叫んだ。


(そうだ。これまでの凌ぎ合いを思い出せ)


 ブロル・ハリアンは、命と引き換えにベータら子供達ネオジェネシスを導いた。

 アンドルー・チョーカーはゴルト・トイフェルを救出し、〝顔なし竜(ニーズヘッグ)〟討伐と〝禍津まがつの塔〟破壊に貢献した。

 部長ことニーダル・ゲレーゲンハイトが、保護したリヌスやカロリナ達を国に帰したり。

 イオーシフ・ヴォローニンがドゥーエに飛行要塞を譲ったり。


(この、はちゃめちゃだった一連の騒動を、想像なんてできるはずもない)


 クロードは二刀で、レアはモップで、巨大竜の赤い視覚素子に斬りつける。


「ふん。ボクには、ボクを強化する盟約者のソフィと、近似値の未来を観測できる巫女レベッカが付いているんだ。強がるんじゃないよ、クローディアス。即興芝居だったのは、キミの方だろう?」


 が、ファヴニルは額から生えた角で、刀と掃除道具を防いで見せた。


「ファヴニル。自慢じゃないが、悪戦苦闘は毎度のことだっ」


 クロードは、過去にひとりぼっちで孤軍奮闘を余儀なくされた。

 だからこそ、今、志を同じくする仲間達が頑張ってくれたことが、何よりも嬉しく誇らしい。


「この六時間こそ、僕達が掴み取った勝算。今こそ、万が一の為に伏せていた札の切り時だ」

「クローディアス、見えすいた見せ札(ブラフ)だねっ。キミは世界を修復したが、結果的に六時間拘束された。観念してボクの手を取れ。ここで詰みだ!」


 ファヴニルはクロードに重なるように、赤々と燃えるドラゴンブレスを放ち、周囲一帯の海水を蒸発させ、珊瑚や魚群を消滅させた。


「いいや、王手を宣言するにはまだ早い!」


 クロードは、レアが投じたはたきに掴まって彼女と共に緊急離脱。

 空中で器用な回避運動を見せつけ、サメ型ゴーレムに着地して微笑んだ。

 彼らは非力な人間に過ぎないが、だからこそ唯一無二の竜が選ぶことのできない手段をとれる。

 

「ファヴニル、お前はこの海で進化の儀式をやっていただろう。ここが重要地点なのは、予測済みなんだよ。じきに援軍が、僕の仲間達がやってくる。そして、六時間のお陰で、オマケもプラスだ」


 クロードはサメ型ゴーレムをしっかりと踏み締め、世界樹が広がる空を見上げて拳を掲げ、大声で叫んだ。


「高城部長、六時間もあれば充分でしょ? ファヴニルは僕が殴っておくので、世界樹はお願いします!」

「おう。助演男優アカデミー賞はいただくからな。クロード、お前は主役を張れよ!」


 その刹那。一対の炎翼を生やした外套男が、後輩が乗ったゴーレムの横をかすめながら声を投げかけて、虹の橋に囲まれた世界樹へと飛翔した。


「ニーダル・ゲレーゲンハイトだって? 外野の観客が、いまさら舞台に上がるのか!」

「悪いなクソトカゲ。内戦への介入はできないが、世界樹しゅうまつそうち相手なら話が別だ! 終わりの太刀(ラグナロク)――――〝始まりの焔(ムスペルヘイム)〟」 


 大陸最高の冒険者にして、白樺高校演劇部部長であった男。ニーダル・ゲレーゲンハイトが、虹の橋と世界樹に向かって、長大な炎の剣で斬りかかる。


「レプリカ・レーヴァテイン! 一〇〇〇年前の勇者が残した呪いめ、どこまでも邪魔をしてくれる。レベッカ、〝アレ〟を使って時間を稼げ。ボクがすぐにでも奴を落としてやる」

「余所見をするな、ファヴニル。お前の敵は目の前にいる!」

御主人クロードさま。援護します」

「たぬぬう」

「運転は任せろ!」


 クロードはレア、アリス、セイの助けを借りて突進、巨大邪竜となったファヴニルの横面に、右拳を叩きつけた。


「クロー……ディアス!」

「部長、そっちは頼みます。ファヴニルは、僕が決着をつける!」

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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― 新着の感想 ―
[一言] >「おう。助演男優賞はいただくからな。クロード、お前は主役を張れよ!」 部長「ここで活躍して沢山の美女とウハウハするんだ!」
[一言] 世界を停められるような時間干渉能力って、ヤバ過ぎる力ですから見過ごせないですよね。 まさに世界を支配する力だって、DIO様もおっしゃっていますし。 ここで部長登場ですか! 世界の終わりが相…
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