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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第七部/第八章 憎しみを天にうくる全ての邪悪は、その目的非を行うにあり
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第522話 一〇番目の塔破壊と要塞決戦

522


 復興暦一一一二年/共和国暦一〇〇六年 晩樹の月(一二月)一三日。黄金の太陽が西の空に沈む頃……。

 クロードら大同盟は、邪竜ファヴニルが大地から魔力を奪う為に建て、エカルド・ベック達〝蘇った死人竜(ニーズヘッグ)〟が守る、一〇番目の〝禍津まがつの塔〟を前代未聞ぜんだいみもんの攻撃手段で奇襲した。


「ベック、邪竜と見る悪い夢は終わりだ。いい加減目を覚ますんだなっ」


 隻眼隻腕の剣客ドゥーエは、友たるイオーシフ・ヴォローニンから受け継いだ飛行要塞〝清嵐砦せいらんとりで〟を、地上に高速で落下させたのだ。

 それは、まさに最大最強の破城槌はじょうつい――。


「ああああっ。ドゥーエ(ロジオン)、貴様あ、なんてことをしてくれたあああ!?」


 四〇〇m級要塞が自由落下するハチャメチャな一撃は、爆音をあげて大地を揺るがし、塔を守る二〇キロm級巨大要塞の中心部に、鉢底めいたクレーターを作りあげた。

 氷雪要塞は城門を含む防衛設備がことごとく崩壊。爆心地にあった〝禍津まがつの塔〟も、当然ながら消し飛んでいる。

 そして飛行要塞には、ベックに足止めされたはずのゴルト隊とチョーカー隊がちゃっかり乗り込んでいた。


「がはははっ。チョーカー、感謝するぞ。あの時生き延びたおかげで、素晴らしい体験ができた。生命を賭けたスリル、何度だって味わいたいものよ」


 牛の如き体格の偉丈夫、〝万人敵〟ゴルト・トイフェルはまさかりを背負って豪快に笑い、逆ピラミッド型の要塞岩盤からロープを伝って地上に降りる。


「ゴルトめ、小生は二度と御免だぞ。しかし、絶景でないか。ドゥーエよ、〝キャメル平原の三角錐ピラミッド要塞〟として売り出すのはどうか? 観光地化するなら、小生がマネージャーを務めよう」


〝マラヤディヴァ国で最も非常識な男〟アンドルー・チョーカーも続こうとしたが、あまりの高所に腰が引けたらしい。

 カマキリめいた印象の細マッチョは、大量の荷物を背負ったまま、ふざけた口調で時間稼ぎをはじめた。


「……このように、高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変な客寄せを」

「やかましいぞ、チョーカー。ダチの遺産を金儲けの道具にするな。早く行け」

 

 が、ドゥーエは聞く耳をもたず、チョーカーを容赦なく地上に蹴り落とした。


「な、何をするきさまー。オタスケー」

「恋人のミーナちゃんと副官のフォックストロットが先に降りたんだ。下に砂ゴムの救命具トランポリンも設置したから死なんだろ」


 ドゥーエはそう言って見送った後、左の金属義手で革袋を掴み出し、中にげーげーと吐瀉物としゃぶつを吐きだした。


「うえっぷ。要塞は見かけ通りに頑丈だが、乗り物酔いだけはたまらんな。イオーシフの旦那は運転が上手だったなあ」


 ドゥーエが酸っぱい臭いを漂わせながら亡き友を思い起こしていると、氷雪要塞外壁の一部が落下してきた。

 白いブロックは瞬く間に変化して、酔って乱れた髪とあごヒゲ、特徴的なスカーフが目立つエカルド・ベックの姿に変わったではないか。


「なんだベック。イオーシフの物真似でゴーレムを送ってきたのか? だったら、せめて見た目くらい清潔にしろよ」

『黙れクソがっ。無関係な貴様が、我々〝赤い導家士どうけし〟を、代表イオーシフを語るなっ』


 白く透明なベックの氷像は、涙代わりの水を流しながら悲痛に叫んだ。


『我らが本拠地グラズヘイムが失われた今、飛行要塞〝清嵐砦せいらんとりで〟は〝赤い導家士どうけし〟の象徴だぞ。それなのに、よくもファヴニル様が新世界へ誘う為に必要な、〝導きの塔〟にぶつけたなああっ』


 ベックの氷像は掴みかかろうとするも、ドゥーエは彼の腕を取って背負い、あっさりと投げ飛ばす。


「阿呆め。クロードに頼まれたのもあるが、〝赤い導家士どうけし〟の象徴だからこそ、〝禍津まがつの塔〟にぶつけたんだよ!」


 ドゥーエは左義手から刃を伸ばして追撃したが、ベックの氷像は足元に雪のトラバサミを敷き詰めて迎撃した。


「ドゥーエ、象徴だからぶつけたとは、いったいどういう了簡りょうけんだ?」

「ベック。〝赤い導家士どうけし〟の目的が、世界を破滅から救うことだからだよ。イオーシフの旦那に嫉妬するのは勝手だが、初心を見失ってんじゃねーぞ、面汚しのカス野郎」


 ドゥーエは言葉を交わしながらも、鋼糸を放ってトラバサミを掘り返し、義手に仕込んだ刃で標的の首をはねた。

 が、ベックの氷像もさるものだ。同型ゴーレムを増殖させて身代わりにする。

 その上、氷雪要塞の内側に大弓や砲台といった兵器を生み出して、遠距離からの砲撃を開始した。


「私は嫉妬なんてしていない。何が世界の危機だっ。下手な言い訳をするなっ」

「ベック。お前のような死者が何千何万と真っ昼間に歩くのが、世界の危機以外の何だというんだ? ゴーレム相手にゃ語るだけ無駄だな、捻り潰してやる」

「黙れ、お前達をファヴニル様の元へはいかせない! 〝清嵐砦せいらんとりで〟は私のものだあ!」


 ドゥーエは、この期に及んで邪竜にかしずき、砦に執着するベックに呆れた。

 一〇〇、二〇〇と増え続ける同じ顔の氷像に浅く息を吐きつつ、背中に鎖で縛り付けた妖刀ムラマサに手を伸ばした。


「なあ姉弟キョーダイ


 ドゥーエは、妖刀に取り憑く幽霊たちに祈る。

 彼らの世界は、燃え盛る戦乱の炎と、止むことのない雪によって滅亡した。

 剣と技を教えてくれた師シュテンは消えて、受け継いだ刀を修理してくれたレギンら何処いずごかへ去った。

 ドゥーエは愛する仲間の大半を己が手にかけ、ずっと一緒に戦ってくれた嫁も彼の腕の中で事切れた。


「オレは、この世界も救いたいよ。そうして胸を張って会いに行くんだ。向こうの世界に取り残された末の妹に、もう一人じゃないって言ってやりたいんだ」


 何もかも失ったドゥーエだが、取り戻したものもある。たとえば師匠、たとえば親戚、そして――心を許せる友と絆。


「クロードがオレを変えてくれた。だからアイツの為に、オレ自身の為に。力を貸してくれムラマサ」

『ばーか』

『もう、しょうがないなあ。お兄ちゃんはっ』


 瞳の隅で、年若い黒髪の長姉と、成長した白金髪の末妹が微笑んだ気がした。


『降臨せよ。救済の氷雪。世界樹のうろ。地を覆う天恵てんけいの光よ!

 贖罪機構システム |はじまりにしておわりの氷雪ヘルヘイム ――接続アクセス――』


 ドゥーエが抜いた青く輝く妖刀は、彼の手で踊るように舞い、氷像の軍勢を次々に消し飛ばす。

 最後のゴーレムを切り捨てた時、砕けた氷像は恨めしげに尋ねた。


「なぜだ。なぜイオーシフは、私ではなくお前を選んだ?」

「自分の胸に聞いてみろ。遺書をしたためるなら今だぜ。本体もすぐに斬ってやらあ」

あとがき

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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― 新着の感想 ―
[一言] >〝キャメル平原の三角錐要塞〟として売り出すのはどうか? キャメル平原は姫路だったのか >なぜだ。なぜイオーシフは、私ではなくお前を選んだ? イオーシフ「自分で『その答えが出せない』からで…
[一言] 赤い導家士の初心って回があったのを思い出しました。 虐殺や奴隷売買だけに目を向ければ、ベックこそが後期の赤い導家士の目的に合致しているように見えますが、 初心という意味ではドゥーエへ任せたこ…
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