第512話 姫将軍、最後のおおいくさに向かう
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復興暦一一一二年/共和国暦一〇〇六年 晩樹の月(一二月)一三日。
長かった夜が明け、クロードが統率する大同盟と邪竜ファヴニルの決戦、その三日目が始まる。
クロード達は、ファヴニルが第一位級契約神器へ進化するのを阻むべく――。
マラヤディヴァ国中に打ち建てられた〝禍津の塔〟九基を破壊し、飛行要塞〝清嵐砦〟の奪取にも成功した。
「陸で牽制してくれたコンラード隊長と、海から砲撃支援してくれたロロン提督には、飛行要塞を制圧したって連絡を入れたよ。追撃戦は彼らに任せて、皆は昼まで仮眠をとって欲しい」
クロードは、夜を徹して戦ってくれた仲間達を労った。
「午後になったら、レアはファヴニル打倒に使う〝切り札〟の用意を、ドゥーエさんは飛行要塞の調整を頼む。アリス達は二人を手伝ってくれ」
「御主人さま、お任せください。お兄さまの頬を引っ叩くため、万全を期して要塞に積み込みます」
「おうっ。この飛行要塞〝清嵐砦〟は、ダチの遺品だ。ばっちり仕上げるさ」
「たぬっ、クロードはどうするたぬ?」
クロードは飛行要塞の岩盤に立って、海を隔てたマラヤ半島の中央、グェンロック領を指しながら、アリスの問いに答えた。
「援軍を連れて、セイと一緒に一〇番目の塔を破壊に向かうよ。最後の作戦だ、派手に行くよっ」
かくして邪竜ファヴニル討伐の準備を仲間達に託したクロードは、絶対勝利の秘策を胸に秘めて、ヴォルノー島からマラヤ半島へと転移した。
そして、同じ頃――。
大同盟の総司令官〝姫将軍〟セイもまた、ユングヴィ領とグェンロック領境界に建てられた砦の訓練場で、昨日までの激戦をくぐり抜けてきた兵士たちに呼びかけていた。
「戦友たちよ、たった今棟梁殿から朗報が届いたぞ。八番目と九番目の〝禍津の塔〟を破壊して、残すはマラヤ半島の中央、グェンロック領にある一〇番目の塔だけとなった」
セイは朝露に濡れた大地にしっかりと立ち、薄墨色の髪を陽光で輝かせながら、葡萄色の瞳で仲間たちを見つめ、灰色に曇る天空を指差した。
「モンスターとの戦闘こそ続いているものの、皆の奮戦で暗く閉ざされた空に、光を取り戻すことが叶った」
彼女はこの場に集まった、戦友一人一人の顔を心に刻みつける。
「ここが正念場だ。棟梁殿と共に騒乱の根源たる邪竜を討ち、国主グスタフ・ユングヴィ大公に勝利を捧げ、マラヤディヴァ国に明日をもたらそう」
「「うおおおおっ、姫将軍万歳! 我らが祖国に勝利を!!」」
セイの叫びに応えて、割れんばかりの歓声と拍手が鳴り響く。
マラヤディヴァ国は、かつて東のヴォルノー島と西のマラヤ半島で構成された、一〇の大貴族が治める封建国家……だった。
クロードの登場とファヴニルが引き起こした危機が、国家のあり方を変えた。
「棟梁殿から届いた最終作戦は、今までにない大規模なものとなる。東のエングホルム領、南のユーツ領、北のメーレンブルク領、西のユングヴィ領の四方から、グェンロック領へ進撃し、一気呵成に攻め落とすのだ。つまり、四路進撃作戦だ!」
一〇に分断されていた人々は、いまや力を束ね一丸となって邪竜に抗っている。
「我らはグェンロック領へ先行したマルグリット隊と合流し、進路を阻む敵要塞を落とす。敵軍も〝顔なし竜〟で備えているだろうが、最後の塔を破壊するまで、もう少しだけ力を貸してほしい。出撃!」
西のユングヴィ領からは、常勝の〝姫将軍〟たるセイが、飛行自転車隊を率いて破竹の勢いで進撃を開始――。
「野郎ども、最初に目指すはあのデカブツだ。どんな敵が待ち受けているか、おいと祭りを楽しもうじゃないかあ!」
東のエングホルム領からは、猛将の誉れ高い〝万人敵〟ゴルト・トイフェルが騎馬隊の先頭を走り、牛の如き体躯でまさかりを振るって障害となる敵を粉砕――。
「ローズマリー・ユーツが命じます。あそこに見える要塞を落とすわよ。恐れないで。この通り〝マラヤディヴァ国で最も非常識な男〟が帰ってきたのだから」
「ちょ、ローズマリー様。その呼び方はないだろう。ミーナとフォックストロットも止めてくれ」
「チョーカーさん。ただの事実だから、認めようっ」
「心配しないでっ。ミーナはどんな渾名でも気にしないわっ」
南のユーツ領からは、奇跡の生還を果たした騒動男アンドルー・チョーカーと恋人のミーナ、美少年フォックストロット、三人の手綱を握るローズマリー・ユーツ侯爵らが凸凹の寸劇を繰り広げながら、北の山峰行き機関車に乗り込んで出発――。
「我らが父ブロル・ハリアンと、我らが母にして姉アルファよ、天上から照覧あれ。貴方達が残したネオジェネシスが、今日世界の希望となる。筋肉一番!」
「兄さん、その掛け声はおかしいっ」
北のメーレンブルク領からは、白髪白眼の偉丈夫ベータを筆頭とする、ネオジェネシスの兄弟達が精鋭部隊を伴って南下――。
マラヤディヴァ国内戦で名を轟かせた名将達と、これまでの戦で鍛え上げられた一騎当千の軍勢が、四方から怒涛の勢いでグェンロック領へと攻め入った。
あとがき
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