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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第七部/第六章 飛行要塞攻略戦
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第509話 因縁の清算、化かし合いの結末

509


 復興暦一一一二年/共和国暦一〇〇六年 晩樹の月(一二月)一三日。

 夜の闇が最も深くなる、あかときの頃。

 マラヤディヴァ国ヴォルノー島の西海岸では、クロードこと、クローディアス・レーベンヒェルム辺境伯を領袖とする大同盟軍が、一辺五〇〇m、高さ一〇mに及ぶ逆ピラミッド型の飛行要塞を攻略すべく、陸と海から赤々とした砲火を浴びせていた。


「辺境伯様達が空飛ぶ機関車で乗り込まれてから、かなりの時間が経っている。不測の事態があったやも知れん。残るモンスターを掃討しつつ、救出部隊を送り込むぞ」

「コンラード隊長。こちらはロロンだっ。大同盟艦隊の総力をあげて、飛行要塞を撃ち落とす!」


 クロード一行が目的である〝禍津まがつの塔〟を破壊した時点までは、外部から観測できたものの……。

 飛行要塞上部が卵型のドームに覆われたことで目視は不可能となり、通信も途絶してしまった。

 臨時指揮官を務めるコンラード・リングバリと、艦隊を預かる提督ロロンは、総大将たるクロードを救援しようと全力を尽くした。

 しかし、国際テロリスト団体〝赤い導家士どうけし〟の主要拠点として、数年前まで大陸中を震撼しんかんさせた飛行要塞は、外からの攻撃にも揺らぐことなく泰然たいぜんと持ち堪えていた。


「「辺境伯様、どうかご無事で……」」


 地上と海上で、仲間たちが心を痛めている頃。

 要塞内部がどうなっていたかというと、懸念の通り大ピンチに陥っていた。

 三白眼の細身青年クロードは、黄金の竜人ダヴィッド・リードホルムを追い詰めたものの。


「ひゃははっ、死ねよやあっ」


 人間と呪詛の〝融合体〟にして〝顔なし竜(ニーズヘッグ)〟たる宿敵は、自らの血肉を要塞と同化させ、赤や黄色の毒ガスと煮えたぎる溶岩を噴出させたからだ。


「このっ、汚い手段ばかり考えつく」


 クロードは、毛羽立つガスとグツグツと異音を発する溶岩の死地から飛び退くも、真の危険性に気づいて額から一筋の汗が流れた。


「ひょうっ、急げよ凡人。早くどうにかしないと、散らばったお前の大切な仲間とやらが死んじまうぞ?」


 ダヴィッドは転倒から起き上がりながら、煽るように手を打ち鳴らす。

 岩盤上部が卵形の防壁によって閉ざされた要塞の中は、すでに同様の毒ガスと溶岩が拡散しつつあった。


たぬううっ(ワオーン)! 術式――〝門神もんじん〟――起動!」


 アリスとガルムが多勢のサンドゴーレムと交戦しつつも、防御結界を展開し――。


『ミズキちゃん、地面を撃ちなさい。要塞の一部を〝殺して〟安全地帯を確保するの』

「わかったよ姉貴」


 ミズキと妖刀ムラマサに宿った幽霊長女は岩盤へ弾丸を撃ち込んで、毒ガスと溶岩の浸食を阻もうとするが――。

 ダヴィッドが要塞の力で後押ししているのか、まったく止まる様子が無い。


「やいドゥーエ、自称兄を名乗るチンピラめ。サボってないでとっとと働け!」


 ミズキが怒ったのも当然だろう。

 飛行要塞〝清嵐砦せいらんとりで〟に到着して以来、妖刀の主人たる隻眼隻腕の剣客は、戦いもせず無関心を決め込んでいた。

 今もトレードマークのドレッドロックスヘアを垂らしたまま、機関車の上で寝そべっている。


「へっ。オレの助けなんぞなくとも、クロードがダヴィッドに負けるかっての。それに」


 ドゥーエはしぶしぶとばかりに生身の右手で逆立ちするや、機関車上でくるりとバク転を決めた。

 彼の縄状に結わえられた髪がふわりと円を描き、黒い右目が青い光を帯びて輝く。

 次の瞬間、ドゥーエは破壊された〝禍津まがつの塔〟の残骸に向かって、金属製の左義手からギラギラと輝く鋼糸を射出した。


「この要塞で警戒すべきは、あの馬鹿野郎じゃなくて、イオーシフの旦那だろ?」


 ミズキもムラマサも教授も生徒たちも、ドゥーエの奇っ怪な発言に首をかしげ、直後に驚くべき真実を目にすることになる。


ドゥーエ(ロジオン)、普段は鈍いのに妙なところで勘がいい。そういう昼行灯ひるあんどんなところが、同志たちに煙たがられていたんですよ。とはいえ、丁度いいタイミングでしたか?」


 先程ダヴィッドに殺されたはずの、元〝赤い導家士どうけし〟の指導者イオーシフ・ヴォローニン。

 彼の砂像が、鋼糸で蜘蛛の巣のように縛り上げられた塔の跡地から、むくりと立ち上がったからだ。そして、同時刻。


「ダヴィッドおっ。ここが腹の中というのなら、術者たるお前を殺す!」


 クロードは打刀と脇差しを縦横に振るって、迫る毒とマグマを切り払い――。


「クロオディアスっ。食いちぎってやらあ」


 ダヴィッドは半裸の肉体を切り裂かれつつも、切断面を乱杭歯だらけの竜のあぎとに変えて、二刀を噛み砕いた。


「致命傷も関係ねえ。この世のすべてを喰らうまで、オレは死なん!」

「その妄念を断ち切る。鋳造――〝八丁念仏団子刺はっちょうねんぶつだんござ〟し!」


 クロードは砕けた右手の打刀うちがたな、〝雷切らいきり〟を切り札たる愛刀に作り替えて、ダヴィッドを頭から股間まで両断した。


「ドドメをくれてやる――熱止剣ねっしけん!」


 更に真っ二つになった竜人の黄金肉塊に、折れた左手の脇差し〝火車切かしゃぎり〟で、必滅の魔術文字を刻みこむ。


「長い因縁もこれで仕舞いだ。今度こそ冥府に帰れ。ダヴィッド・リードホルム」

「ば、ばかなああああっ」

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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[良い点]  こんばんは、上野文様。  ヴォルノー諸島西海岸では大同盟軍が飛行要塞へ攻撃を仕掛けていますが、頑丈なドームのせいで攻略できないようです。  そして飛行要塞ではダヴィットのせこい罠で悪戦…
[一言] ああ、やっぱり死亡判定人は王大人だった(おい)
[一言] 大方の予想通り、イオーシフは死んでいなかったですね。 元々死んでファヴニルに復活させられたので、死んでいなかったというのも変な表現になりますが。 しかし砂像? 前に殺されたのは、肉体だったと…
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