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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第七部/第六章 飛行要塞攻略戦
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第505話 ドリル機関車、最後の突撃

505


 復興暦一一一二年/共和国暦一〇〇六年 晩樹の月(一二月)一三日。

 時計の針が新しい日の到来を告げて、いくばくかの時間が経った頃……。

 クロード一行は、邪竜ファヴニルが作りあげた一〇基の〝禍津まがつの塔〟のうち、八番目と九番目に至る道筋をこじ開けた。


「へへっ、クロード達がやってくれたみたいだなっ。敵モンスターの蘇生が止まったし、おまけに混乱中だ。野郎共、今まで溜めた鬱憤うっぷんを晴らすチャンスだ。思い切り殴ってやれ!」

「エリック、レアさんが機関車を動かすみたいっ。私たちで邪魔なモンスターをたたき出すわよっ」


 クロードにとっては、始まりの仲間である四人。

 若き重戦士エリックと、彼の恋人である軽戦士ブリギッタは、臨海都市ビョルハンを包囲中のモンスターが統制を失うや、松明を片手に塹壕網ざんごうもうを飛び出して猛然と斬り込んだ。


「GYA! GYA!」

「GUOOOOOO!」


 エリック達の猛攻に押され、街を包囲していた怪物達は総崩れとなる。

 小妖鬼ゴブリンは剣や弓を捨て、犬頭鬼コボルトは四つん這いになって尻尾を巻き、大柄な豚鬼オークは負傷した同胞を踏み潰しながら逃亡し、先を争うように空白地帯となった丘陵きゅうりょうへ逃れ出た。


「残念でした。退路がスカスカだと思った? 幻術っすよ!」


 けれど、そんな上手い話があるはずもない。

 暗い大地を松明の光が切り裂き、伏せられていた部隊が姿を現す。

 参謀長ヨアヒムは、直々に隠密の幻術をかけた砲兵隊と共に待ち受けて、逃げ腰の怪物軍にありったけの砲弾を浴びせかけた。


「BAOOOOON!」


 一部の生命力旺盛せいめいりょくおうせいなモンスターは、爆発のさなかで仲間の肉体を盾にして、生き延びようとするも……。


「ああっ、その汚いやり口が兄さんに似ている。その濁った瞳が兄さんにそっくりだ。ダヴィッドおおお、ぶっ殺してやらああっ」


 トウモロコシ色の髪を振り乱し、緑色の瞳を怒りに燃やす出納長すいとうちょうアンセル・リードホルムが率いる別働隊が、容赦なく銃と魔法を撃ち込んで灰に変える。


「アンセル、あんなになっちゃって……。ま、ダヴィッドは死んだ後まで迷惑をかけてくれたんだ。おれもこの手で討ちたいっすケド、なかなか競争率が高そうっすね」


 砲撃音が響くのは、ヨアヒムが待ち伏せした町外れの丘陵だけではない。

 松明と砲火が照らすおかに負けぬとばかり、西の海上からもドンドンと艦砲射撃の音が轟いていた。

 ロロン提督の艦隊が臨海都市ビョルハンから出港し、一辺五〇〇m高さ一〇mの逆ピラミッド型飛行要塞に向けて砲撃を加えているのだ。

 更に船の甲板からは、車体の四方に回転翼ローダーをつけた飛行自転車が飛び立ち、上空から爆弾を次々に投下している。

 大同盟の盟主たるクロードが、空と海を押さえていた顔なし竜(ニーズヘッグ)を討ち取った今、もはや二基の塔は丸裸も同然だ。


「レアさん。リーダーを、オレの主君を御願いするっすよ」


 ヨアヒムの願いを聞き届けたかは不明だが……。

 青髪の侍女レアは、トーシュ教授が運転する先端部に大型掘削機(ドリル)をつけた機関車を魔法で線路を敷いて誘導し、主人にして恋人たるクロードと家族のアリス、戦友のドゥーエ達を回収していた。


御主人クロードさま。最後の突撃を始めます」

「辺境伯。ラスト一回の切り札だ。もう後戻りは出来ないよ」

「ドゥーエさんの鋼糸と、ミズキちゃんの弾薬、その他諸々も用意して準備万端だ。頼んだよ、レア、トーシュ教授!」


 クロードが許可するや、レーベンヒェルム領が蓄えた技術の集大成と言えるドリル機関車が真価を発揮する。


「特製炭投下、試作エンジンの圧力向上」

「非常弁を全閉鎖、魔導エネルギー充填開始じゅうてんかいし

「カウント後に回路を開きます。三、二、一、はじめっ」


 燃料を投下されたエンジンが、一世一代の咆哮をあげ、機関車は黒鉄くろがねの光に包まれた。

 はしる。はしる。はしる。散発的に襲いくるモンスターを轢き潰し、西の海岸へ向かって突き進む。

 イオーシフが籠もる飛行要塞は、無数の砂壁を立てて邪魔しようとするが、絶好調のドリルは鎧袖一触とばかりに吹き飛ばした。


「目標は、ナンド領に立つ第八の塔と、飛行要塞にある第九の塔だ。まとめて行くよ」

「はい、問題ありません。鋳造ちゅうぞう――線路」

「僕もやろう。重ねて鋳造ちゅうぞう――線路」


 破壊された砦も、荒れた大地も、飛行要塞が風で掘る落とし穴も、〝空中すらも〟機関車の障害にはならない。

 なぜなら、クロードとレアが創るから。

 列車の進む先に、砂利石が重なって道床となり、枕木が横たわり、海と空にも線路レールが敷かれる。

 目指す終着駅は、もうすぐそこだ。


安全装置セイフティーを解除、照準用意」

「第八と第九の塔に十字照準を重ねた。計算上では双方とも破壊可能だ」

「教授っ。エネルギー充填臨界じゅうてんりんかいですっ」

「生徒諸君。対衝撃、 対閃光防御! レア君、最終安全装置を解除した」


 青髪の侍女は、トーシュ博士が封印を解いたスティックを力いっぱいに押し込み……。


「お兄さま。いえ、邪竜ファヴニル。これが御主人クロードさまと私たちが集め、結び、積み上げた力です!」

「「辺境伯様クロード、いっけえええ!!」」


 エリックら多くの人々の声援を受けながら、機関車は童話のように空を飛んだ。

 回転するドリルが、赤くねじれた樹木のような第八の塔を中央から粉砕――。

 因縁の敵イオーシフが待つ、逆ピラミッド型の巨大飛行要塞へと突っ込んだ。


あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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― 新着の感想 ―
[一言] トーシュ教授「ところで、辺境伯。機関車の修繕費用だが」
[一言] セカンドさえも倒したドリル機関車が通用しないはずがない! 巨大飛行要塞を落下させたほうが、物理法則的には脅威なのでしょうけれど、 ドリルこそが最強の質量兵器であって欲しい不思議です笑 第八…
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