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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第七部/第五章 運命に挑む勇者たち
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第496話 思いがけぬ再会?

496


 三白眼の細身青年クロードは右足を用いて、自らに迫る黄金の竜人ダヴィッドの手首を蹴り上げた。

 彼の目論み通り、七色の光を帯びた空間破砕魔術は空に逸れて、無力化に成功した。


「どうやら本当のダヴィッド・リードホルムは、ファヴニルに縋ったときに死んだらしい。ここにいるのは残骸もいいところだ」

「うるさい。虫ケラが俺をはかるなっ。そうか、オレが怖いんだなっ、オレの力が恐ろしいんだ。だからさえずらずにいられないんだっ!」


 人間を捨てて、髑髏どくろ顔の人型〝顔なし竜(ニーズヘッグ)〟となったダヴィッドは、切り札をかわされたと知るや、まるで駄々っ子のように爪や尻尾をぶんぶんと振り回した。


(同じニーズヘッグなのに、まるでハリボテだ。もしイーヴォさんやカミルに徒手空拳で向き合ったら、とっくに殺されているよ)


 クロードは見え見えの攻撃を容易く避けながら、劣化もはなはだしいダヴィッドの姿を見つめる。

 虚栄と強欲が形になったかのような、貴金属で飾り立てられた鱗、竜を模した籠手に脚甲、蝙蝠コウモリに似た翼。

 肉体のすべてが金色だが、まるで腐臭漂う排泄物を塗りたくっているようだ。


「ダヴィッド、お前にも仲間が居ただろう。自分だけの野心があっただろう。ファヴニルにおうごんを差し出して、借り物のゴミを恵んでもらって満足か?」

「やはり、図星かっ。オレの力を怖れているんだ。そら針だ、剣だ、槍だっ、踊れ踊れ」


 ダヴィッドは高笑いしながら手足を異形化させ、ナンド領兵士達の血で濡れた大地を凶器の海に変えた。

 だが、イーヴォ隊ほどに凶悪な連続攻撃も無ければ、カミル隊ほどに性質の悪い毒罠があるわけでもない。

 ダヴィッド・リードホルムには、汗を涙を血を流して、心と体に通した芯がない。

 

鋳造ちゅうぞう――八龍はちりょうの鎧。ダヴィッド、せめてもの情けだ。僕が介錯かいしゃくしてやるよ」


 クロードは、八柱の竜が描かれた黒い大鎧を身に纏い、荒々しい攻撃の渦中へゆったりと踏み込んだ。


「やかましいっ。死ね、死ね、死ねええっ」


 ダヴィッドが繰り出す連続攻撃――。

 鋭い爪を右手袋でさばき、太い尾を左手甲で逸らし、剣や槍の林を肘膝ひじひざの装甲で折り、針山を靴で踏み砕いて、クロードは泰然と歩を進める。


「鋳造――八丁念仏団子刺はっちょうねんぶつだんござし」


 クロードは重心を下げて、やや腰を落とした下段から愛刀を抜き撃ち、斜め上へ逆袈裟さかげさに斬り込んだ。

 涼やかな刃は、暴れるダヴィッドの腹から胸の境目を走り、装甲、鱗、骨肉をすっぱりと両断した。


「ぎいえやあああ!?」


 ダヴィッド・リードホルムは、信じられないとばかりに顔を不格好に歪め、下半身からずり落ちながら断末魔の絶叫を上げる。


『やはり今の彼では勝てないか。〝使い勝手〟はよくなったが、悩ましいね』


 しかし、次の瞬間。

 びゅうと一陣の風が吹き、謎の声が響いた。


「この声はっ、赤い導家士のイオーシフ・ヴォローニンか!?」


 唐突な風が鮮血に濡れた土埃を舞いあげて、遮光カーテンのように視界を閉ざす。

 やがて煙幕が晴れた後には、瀕死の竜人と入れ替わるように、清潔なスーツ姿の砂像が立っていた。


「ええ、イオーシフですとも。名前を覚えていただいて光栄だ。ダヴィッドの救出に参上した」


 ダヴィッドの真っ二つになった肉体は、ガラスめいた巨大水晶に包まれている。


「しかし、辺境伯。先ほどの問答はいただけない。ダヴィッドがせっかく〝鉄砲玉に仕上がってくれた〟のだから、私としては彼の意志を尊重して欲しいね」

「アンタはまるで、自分が使う側だと誤認しているようだ」


 クロードは『お前もファヴルの鉄砲玉だろうに』と皮肉ったのだが、イオーシフは蛙の面に小便とばかりに受け流した。


「そうとも、〝使う〟ことが大切さ。辺境伯は、先程ダヴィッドの力を借り物だと指摘したが、君の立場だって最初は借り物だったはずだ。重要なのは〝使い方〟なのさ!」


 イオーシフ・ヴォローニン。

 テロリスト団体〝赤い導家士どうけし〟最後の指導者であり、一時はダヴィッドの上司でもあった男は、自信満々に言い放つ。


(イオーシフめ、露骨な挑発だ。目的はダヴィッドの回収か、それとも囮に罠を仕掛けているのか)


 クロードが冷ややかに見つめる中、イオーシフは身振り手振りを交えて熱心に語るが、背後ではダヴィッドの入った水晶をゴブリンやオークの群れに運ばせていた。


「ふふふ。何を隠そう、私は昔から金を借りるのも、債務しゃっきんを踏み倒すのも、――大好きなんだ!」

「アンタ、めちゃくちゃ言ってるよ」


 クロードは軽口を叩きつつ、交戦を決意した。


「嫌だなあ。テロリストの親玉が約束なんて守るわけないと思わないかい?」

「つまり、交渉は不要ってことだろう。同感だっ」


 三白眼の細身青年は息を整えて再び足軸を動かし、スーツ姿の砂像が無為に両手を動かした隙を突いて、愛刀で突き込もうとした。


「〝鮮血兜鎧ブラッドアーマー〟展開!」


 しかしその直後、クロードは恥もへったくれなく、転がるように背後へ逃れた。

 愛刀が真っ二つに両断され、脇楯が破られ、正面装甲すらも断ち斬られている。

 とっさに物理攻撃を逸らす、特殊な粘液をまとったものの、間一髪もいいところだ。


(なんだ今の攻撃はっ。もう一息下がるのが遅れたら剣や鎧どころか、四肢を持っていかれた)


 イオーシフは芝居めいた手の挙動に隠して魔術文字を綴り、新たな戦力を呼び寄せていた。


「ひとつ種明かしをしよう。私は第四位級契約神器飛行要塞(ルーンフォートレス)との契約により、神器の影響が及ぼす範囲内であれば、砂や土といった〝物質〟を思うがままに〝使う〟ことができる」


 クロードは、風が作り上げた魔像を見た。

 艶やかな長い髪と、整った頬筋、小柄ながら可憐さとしなやかさを兼ねた、妖しい魅力を秘めた肢体。

 無骨な皮鎧を身につけながら、男にも女にも見える砂礫魔像サンドゴーレムが四体、術者を守るように立ち上がり、身の丈ほどもある長い曲刀を振るったのだ。


(あり得ない。この剣筋、ツバメ返しを実現出来るのは、シュテンさんだけのはずだっ)


 ビキニアーマーを着る、マッスルすね毛親父と同様に……。

 美しい四体の使い魔は、物理法則を無視したかのように、Vの字やらジグザグやら半円を描く異様な剣をクロードに命中させた。


「辺境伯様を歓待する為、私の知る最強を用意したよ。どれほど強いかというと、生前の〝私を殺した〟くらいだとも。彼女は――」


 イオーシフが勿体ぶって、サンドゴーレムのモデルを口にしようとしたが、クロードは聞く前に叫んでいた。


「――苅谷かりや近衛このえ。男装先輩じゃないかっ!?」

「コーネ・カリヤスクと名乗っていたよ。おや、やはり本名を知っていたのかい?」


あとがき

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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[良い点]  こんばんは、上野文様。  三度目のダヴィッドとの対決、決着かと思いきやまさかのイオーシフ乱入。  三度目の正直とか仏の顔も三度までといいますが、これらをすっ飛ばして四度目がありそうですね…
[良い点] ボスラッシュ見て改めて思う、この悪役たちの個性豊かさよ。 書籍版のダヴィッドがだいぶだいぶましに見えるくらい、こっちのダヴィッドはイカれておりますなぁ。 そしてファブニル側も、例え鉄砲玉…
[一言] >クロードは重心を下げて、やや腰を落とした下段から愛刀を抜き撃ち、斜め上へ逆袈裟に斬り込んだ イオーシフ「おかしいな、辺境伯が盾を悪用していない?」 >サンドゴーレムのモデル レプリカ・レ…
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